悠真がいなくなるのは、嫌

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コラム
放課後の空は、
昼間より少しだけ低く感じた。

校門を出てから、
凪と悠真は、並んで歩いていた。

言葉は、ない。
気まずいわけでもない。

ただ、お互いに、
何かを考えているのがわかる沈黙。

——この沈黙、前はなかった。

凪は、ふと気づく。

噂が広がっていた頃。
誰かに見られていた頃。
悠真は、いつも一歩前にいた。

でも今は、
隣にいる。

同じ速さで。

それが、少しだけ怖かった。

(もし……)

考えたくない想像が、
胸の奥に浮かぶ。

もし、
これ以上巻き込んだら。

もし、
悠真が、疲れてしまったら。

「……ねえ」

凪は、立ち止まる。

悠真も、足を止める。

夕焼けの光が、
二人の影を、同じ長さに伸ばしていた。

「私のせいで」
「大変なことになってない?」

言葉にした瞬間、
胸が、ぎゅっと締まる。

悠真は、すぐには答えなかった。

少しだけ、
視線を落としてから、言う。

「正直に言うと」

凪の心臓が、跳ねる。

「……ちょっと、怖かった」

その一言で、
凪の中の何かが、崩れた。

「凪を守りたい気持ちと」
「俺が前に出すぎたら、
     凪が立てなくなるって気持ちと」

「どっちも、本当で」

悠真は、苦笑する。

「うまくやれてるって、言えない」

その表情が、
あまりにも人間らしくて。

凪は、思った。

——この人を、失うかもしれない。

初めて、
はっきりと。

それは、噂よりも、
三條よりも、
ずっと怖い感情だった。

「……私」

凪は、拳を握る。

「悠真がいなくなるのは、嫌」

声が震える。

でも、止めない。

「守られなくてもいい」
「前に出てくれなくてもいい」

「それでも」
「一緒にいるのは、悠真がいい」

言い切った瞬間、
胸の奥が、熱くなる。

——ああ。

これは、
不安でも、依存でもない。

恋だ。

悠真は、目を見開いてから、
ゆっくり息を吐いた。

「……それ」
「ずるいな」

小さく笑う。

「そんな言い方されたら」
「離れられない」

凪も、少しだけ笑う。

でも、涙がにじむ。

「ごめん」
「重かった?」

悠真は、首を振る。

「重くない」

一歩、近づく。

触れそうで、触れない距離。

「俺も」
「凪を失うのは、怖い」

「だから」
「守るとか、
    守られるとかじゃなくて」

「ちゃんと、選びたい」

夕焼けの中で、
二人の視線が、重なる。

世界は、まだざわついている。
噂も、完全には消えていない。

でも。

——これだけは、確かだった。

凪と悠真は、
同じ方向を見ている。

並んで、
自分の足で。

物語は、
ここから“恋愛”として、
もう一度、歩き始めた。
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