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ありがとうの続きは、 ちゃんと、春の風が運んでくれた

あれから、季節が三つ過ぎた。冬を越え、校庭の桜がほころび始めるころ。卒業式の朝、彼は少し早めに登校した。人気のない教室の窓を開けると、春の風がそっと吹き込んできた。その風の中に、どこか懐かしい香りが混ざっていた。まるで――あの日、夕陽の中で彼女が笑ったときのような。机の上に、白い封筒が一つ置かれていた。宛名はなかった。けれど、見覚えのある文字だった。「ありがとうの続き、届いたよ。」胸が熱くなった。手が震えて、封を開けるのに少し時間がかかった。中には一枚の便箋。端が少し折れていて、ところどころインクが薄い。それでも、文字は確かに彼女のものだった。「あのとき言えなかった言葉を、 風が運んでくれたみたい。 あなたの“ありがとう”が、私の心に届いたの。 だから、私も返すね。 “ありがとう”、そして“さようなら”。 でも、本当は“またね”って言いたい。」涙がまたこぼれた。けれど、今度の涙は悲しみじゃなかった。あたたかくて、やさしい、春の光みたいな涙だった。窓の外では、桜の花びらが風に舞っている。その一枚が彼のノートの上に落ちた。彼は微笑んで、手紙を胸に抱きしめた。「……うん、またね。」その瞬間、春風が強く吹いた。机の上の折り鶴が、ふわりと宙に舞い上がる。光の中で、それはまるで――彼女の笑顔が、もう一度帰ってきたみたいだった。ありがとうの続きは、ちゃんと、春の風が運んでくれた。
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春風の約束

春の朝、校庭の桜がゆっくりと咲き始めていた。淡い花びらが風に揺れ、光の中を舞っている。柚(ゆず)は体育館の入口で深呼吸をした。今日は、卒業式。胸元のリボンの下に、こっそり小さな紙片を忍ばせている。そこには、たった一言。「ありがとう。 あなたの音が、私の勇気になりました。」式が始まると、体育館は静まり返った。ピアノの前には新(あらた)の姿。彼の背筋は、あの日と同じようにまっすぐ伸びている。最初の音が鳴った瞬間、柚の胸の奥で、何かがふっとほどけた。(この音――春の風みたい。)やさしくて、少し切ない音。何度も聴いたはずなのに、今日だけは特別に響いた。曲が終わり、新はピアノのふたを静かに閉じた。式が終わった。柚が近づくと、彼は笑った。「卒業、おめでとう。」「新も。……ほんとに、ありがとう。」「こちらこそ。」少しの沈黙。窓の外で風が舞い、花びらがふたりの間にひらりと落ちた。「ねぇ、新。」「ん?」「東京での学校生活、もうすぐ始まるんだよね。」「うん。春から本格的に。柚は?」「私は地元の大学に行くけど…… でも、 これからも音を続けたいなって思ってるんだ。」「そっか。じゃあ、また“ひとつの空の下で”だね。」その言葉に、柚は微笑んだ。昇降口の前。新がバッグを肩にかけて言った。「ねぇ、柚。」「なに?」「もし、どこかで迷ったら―― そのときは思い出して。 自分の声で世界を変えようとしてた、 自分のことを。」柚は一瞬、息をのんだ。そして、ゆっくりうなずいた。「……うん。絶対、忘れない。」春風が吹き抜け、髪がふわりと揺れた。ふたりは笑い合い、目を合わせたまま小さく手を振った。数日後。柚は新しいノートを
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