第三章:②| 鍵交換費用──「みなさん払っています」に判断が止まった瞬間
鍵交換費用についても、これまでに何度か触れてきました。契約書に記載があるかどうか。特約として有効なのかどうか。確認すべきポイントは、決して難しくありません。ですので今回は、鍵交換費用の正否を説明する話ではありません。分かっていたにもかかわらず、判断が止まってしまった瞬間について書いてみたいと思います。退去の手続き、あるいは入居前後の説明の中で、さりげなくこう言われることがあります。「鍵交換費用は必要になります」「前の方もお支払いされています」「トラブル防止のためです」強い言い方ではありません。どちらかといえば、“前提事項”のような説明です。そのため、こちらも深く考える前に、「そういうものなのだろう」と受け取ってしまいます。実際には、鍵交換費用について判断するための材料は、すでに手元に揃っていることが多いものです。契約書を読んでいる。特約の存在も把握している。一度は「確認が必要だ」と考えた。それでも、次の一言が判断を止めてしまいます。「皆さんそうされています」この言葉には、正しさよりも安心感があります。自分だけが異議を唱えることへの違和感。ここで話を止めることへのためらい。その空気に押されて、判断は静かに流れていきます。あとから考えると、判断を誤った理由は明確です。知識が不足していたわけではありません。確認方法が分からなかったわけでもありません。判断を保留にする、という選択肢を取らなかった。それだけです。その場で決めなくてもよい。一度持ち帰ってもよい。本当は分かっていたはずのことを、その空気の中で思い出せなかっただけでした。鍵交換費用の問題は、金額の大小よりも、判断が止まる構造に
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