最低賃金の上昇で「時給は上げたのに、扶養の範囲に収めたいからシフトを減らしたい」という就業調整が起きやすくなっています。
対応のポイントは、以下の3層で整理すると検討しやすくなります。
①「どの壁を意識しているか」を明確にして説明・整理する(税・社保・配偶者手当)
②あえて“壁の外”で働いてもらうための賃金・手当設計(手取り逆転を防ぐ)
③制度(年収の壁・支援強化パッケージ等)を活用しつつ、運用で就業調整を起こしにくくする
パート・アルバイトの就業調整は、主に次の3種類の「壁」が混ざって話されています。
税金の場合
主なライン:110万円前後(住民税)
例)123万円・160万円など
内容の概要:本人に税金がかかる/配偶者の扶養控除・配偶者控除に影響
社会保険の場合
主なライン①: 106万円の壁
内容の概要:特定適用事業所で週20時間以上・所定内賃金月8.8万円以上等のパートが、
自分の社保に加入するライン
主なライン②: 130万円の壁
内容の概要:年収130万円以上見込みで、配偶者等の扶養から外れ、
自身で社保(勤務先or国保+国民年金)に入るライン
会社制度の場合
主なライン:配偶者手当の支給基準
内容の概要:「年収〇万円以下なら配偶者手当支給」等。会社独自の要件
まず社内でヒアリング・アンケート等により、
どの点を意識しているかを把握しておくことが重要です。
「壁の外」で働いてもらうための賃金・手当の設計
(1) 106万円・130万円を「超える」方向に設計する考え方
多くのパートの方にとって心理的に重いのは社会保険料ですが、
加入するなら、
保険料負担を上回るだけ時給・時間・手当を増やすことで、
「扶養を出た方が得/将来の年金も増える」と
感じてもらう設計が基本です。
具体的には以下の「二本立て」の働き方を用意しておきます。
A)週20時間未満で働きたい人の場合:
▶106万円の壁の外に出さない(20時間未満で設計)
B)しっかり働きたい人の場合:
▶所定労働時間を増やして社会保険加入
その分、時給アップ・昇給カーブ・手当で
手取り逆転が起きないようにする
(2) 社会保険適用促進手当の活用(手取り逆転の緩和)
「106万円の壁」を越えて自社社保に加入してもらう場合、
『社会保険適用促進手当』を使うと、
最大2年間
「本人負担分の保険料相当額」を
標準報酬月額の算定から除外できます。
(3) キャリアアップ助成金の活用(労働時間延長・年収アップの後押し)
「年収の壁・支援強化パッケージ」では、
社会保険適用や労働時間延長に伴う処遇改善について、
キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース/短時間労働者労働時間延長支援コース)が用意されています。
「就業調整」を事前に防ぐための運用面の工夫
(1) 労働条件通知書・シフトの設計と説明
特に130万円の壁については、
令和8年4月以降、
被扶養者認定において
「労働条件通知書等に基づく年間収入見込み」で
判定する運用が広がっています。
そのため、最初から
・「年収130万円を明らかに超える働き方」として雇う人
・「130万円未満に抑える前提」で雇う人
を労働条件通知書で明確に分け、
本人にも書面で説明しておくと、
「思っていたよりシフトに入ってしまい、急に扶養を外れることになった」という不信感を防ぎやすくなります。
また、「130万円ギリギリ」の設計にすると、
どうしても
・繁忙期に「これ以上は入れません」と断られる
・休日出勤や残業を頼みにくい
という制約が残りますので、
「130万円を大きく超える“高コース”と、抑える“低コース”を分ける」といった雇用区分の整理も検討対象となります。
(2) 130万円の壁・一時超えへの特例(事業主証明)
「今期だけ人手不足で少し超えてしまうが、恒常的に増やすわけではない」といったケースについては、
『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』(130万円の壁対応)が
恒久的な取扱いになっています。
一時的な労働時間延長等による収入増だと事業主が証明した場合、
原則として同一人について連続2回まで、
被扶養者として認定を継続できる運用が認められています。
これは「慢性的に130万円を超える働き方」を目指すものではありませんが、
・突発的な繁忙期対応
・一時的な時給アップ
・賞与増
で扶養から外れることを避ける“緩衝材”として使えます。
スタッフへの情報提供・コミュニケーション
最後に、就業調整を減らすには
「よく分からないから、とにかく〇万円以内にしておきたい」
という不安を解消することが重要です。
以下のような情報提供で、
就業調整による急なシフトダウンを
ある程度防ぐことができます。
・税金の壁・社会保険の壁・会社の制度(配偶者手当など)の違いを簡潔にまとめた資料を作り、面談等で説明する
・「扶養を出た場合の手取り見込み」「将来の年金増額見込み(イメージ)」を、いくつかのモデル時給・労働時間で例示する
・「壁を超える働き方」と「壁の内側の働き方」のどちらも選べることを明示し、「超える人には、こういうサポート(手当・昇給・助成金活用)がある」
「内側で働く人には、この範囲でのシフト運用になる」という見通しを共有する