ティーチング・コーチング・メンタリング
「コーチングは行動にフォーカスする」とよく言われます。少なくとも狭義のコーチングはクライアントが実際に行動を開始できるよう、そして行動が始められたらそれを習慣化して継続することで目標が達成できるよう支援することが主な内容になります。
ですから、コーチングセッションの最後にクライアントから
「勉強になりました」
「よい学びになりました」
というような言葉が出るとコーチとしては少々がっかりしてしまいます。
これらはスキルや知識、アドバイスを伝えるティーチングに対する反応の表現と考えられためです。
そのかわりに、
「このセッションが終わったらすぐにやります!」
と宣言してもらえると、「よし!」と思えます。
行動レベルの表現であっても、
「やってみたいと思います」
「検討してみます」
などだとまだ実際の行動まではかなり距離があるな、という印象を感じます。
このような細かな言葉のニュアンスでクライアントが実際に行動できるところまで到達しているかどうかが想像できるのです。
即行動レベルの表現が出てくるまで行動のステップを小さく具体的なものにチャンクダウン(参考ブログ参照)していったり、実際の行動をイメージしてみたり、できる人の行動パターンを思い出してみたり、といった工夫やアイデア、選択肢をできるだけたくさん考えて実際に行動できるところまで掘り下げます。
この「できる人の行動パターン」というところではいわゆるロールモデル、メンターを活用できるならそうするのが近道です。
メンターとはクライアントの課題をすでに解決している人であったり、分野は違ってもその取り組みや行動パターン、価値観に学ぶべきところ、真似るべきところが感じられる人物です。実際に導きやアドバイスを求めることができればそれにこしたことはありません。しかし場合によっては歴史上の人物であったり、実在の人物ではなく物語やゲームの登場人物、キャラクターであったり、想像上の合成イメージであってもかまいません。
ライフコーチングは課題の内容を問わずコーチングするのが原則ですので、クライアントの課題をコーチ自身が高いレベルで達成していることは必ずしも期待できませんし、むしろ全く経験や知識がないかもしれません。そのような場合には他にメンターを見出してもらうか、上のような想像上の人物・キャラクターをメンターとして活用するように提案します。
ニューロロジカルレベル
行動にフォーカスする、というコーチングの特性についてティーチングやメンタリングとの対比で述べてきました。
では、さらにこのほかにはどのようなアプローチがコーチングの周囲にあるのでしょうか?
ロバート・ディルツ(Robert Dilts)は、人が物事を学び、探求し、獲得・達成してゆく過程を6つの階層としてとらえる「神経論理レベル」(ニューロロジカルレベル:Neuro Logical Levels)という考え方を提唱しています。左側の「行動(Behavior)」などがその対象、右側の「コーチング」などがその獲得を支援し実現する手段、アプローチです。
環境(Environment)--- ガイディング、ケアテイキング
行動(Behavior)--- コーチング
能力/スキル(Capabilities)--- ティーチング
信念・価値観(Beliefs and Values)--- メンタリング
アイデンティティ(Identity)--- スポンサリング
スピリチュアル/目的(Purpose / Mission)--- アウェイクニング
参考文献[1]は全編がこの考え方に基づいたコーチングの総合ガイドです。その中でも特に「個人と組織における学習と変化のレベル」(p26〜37)ではこの考え方を簡潔に説明し、「補遺:ロジカル・レベルの背景と歴史」(p377〜408)ではこれがグレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)の「学習とコミュニケーションの階型論」(参考文献[3])にインスピレーションを得たものであることをその経緯とともに詳しく述べています。
ディルツはカリフォルニア大学サンタクルーズ校の学生時代にベイトソンに学びました。
「神経論理レベル」の考え方はとても大きな広がりと奥深い背景がありますので興味がある方はぜひ参考文献[1]を参照してみてください。
スポンサリング
ちなみに、
スポンサリングという言葉は日本語ではテレビ番組などを提供する「スポンサー」の印象が強いために少々わかりにくいかもしれません。ここでは、クライアントが「私なんて…」モードのときに
「大丈夫だよ」
と信じて後ろ盾として支えてあげるような感覚と捉えるとよいでしょう。
コーチング:行動が前に進む問いや提案をする
スポンサリング:行動に進む前提(自己肯定感・安心・やっていいのだという支え)を渡す
と考えるとわかりやすいかもしれません。
つまり、働きかけの結果として
「何をすればいいか分かった」→ コーチング寄り
「やってもいい気がした」→ スポンサリング寄り
ということです。
(参考文献)
[1]ロバート・ディルツ[著],横山真由美[訳],足達大和[監修],NLPコーチング : 人を覚醒に導く史上最強の心理アプローチ,Genius Publishing(2020)
[2]精神と自然 改訂版:生きた世界の認識論,グレゴリー・ベイトソン[著],佐藤良明[訳],新思索社(2001)
[3]精神の生態学 下,グレゴリー・ベイトソン[著],佐藤良明,高橋和久[訳],思索社(1987)
→ 文庫版もあります:精神の生態学へ(下) (岩波文庫)
→ 国立国会図書館でオンライン閲覧できます(要利用者登録)
(参考ブログ)