皆さん、こんにちは。
当ブログ第11回のペイシェントハラスメントのシリーズ連載「その5」になりました。
病院内のペイシェントハラスメントというニッチな分野のブログにも関わらず、この第11回のシリーズは大きな反響をいただいており、以前のブログも同時に読んでくださっていることにも感謝申し上げます。
このシリーズ、まだB氏との初日の電話のやり取りの途中ですが、文章という形になった部分だけでも、この人物が社会通念上の「常識」という物差しでは測ることができないタイプの人物だと感じてくださっていると思います。
私も長く人と接する仕事をしてきて、凶悪事件の犯人も数多く見てきましたが、“性格の難しさ”という意味ではB氏はトップクラスでした。
ただ、こんな人物が今の世の中増えているというのも確かですので、この事実に基づくお話(個人が特定されないよう伏せている部分はありますが、フィクションの要素は排除しています)にお付き合いいただければ、カスハラ対応で苦慮されているみなさんのお手伝いができるのではないかと考えています。
【無限ループ】
B氏の「診療の同意はしているが、再開の承認はしていないだけだ」という、医療者の混乱を明らかに狙った言動に対する問答を何度か繰り返した後、私はこれ以上の問答は埒が明かないと判断しました。
そして、B氏に対して「患者さんのことを考えてリハビリの開始についてお話しをしましょう」と話題の切り替えを促し、甲先生、乙先生の「治療の再開は1日でも早い方が良い」という意見を伝えました。
B氏自身もそれに対して「治療は1日でも1秒でも早くと考えている」との返事があったので、私は「その答えをもって診療を再開して良いでしょうか」と確認すると、「承認はしない」。
もはや説得どころか会話にもなりません。
【B氏の思惑】
私はB氏に関係したスタッフからのが事前のヒアリングで、B氏の言動からこういうこともあるだろうとは想定していました、内心ではこの不毛なやり取りに時間を費やすことに少々苛立ちを感じていました。
救いだったのはB氏とのやり取りが電話だったことです。
少なくとも表情からその苛立ちを悟られることはなかったので、炎上するようなことはありませんでした。
私がB氏の言葉に苛立ちを感じた理由はもう一つあり、診療再開を承認しないその真意が、患者さんであるAさんのことなんて何も考えていなくて、単に医療者の業務をかく乱して業務を停止(妨害)することが目的であると感じたからです。
受話器越しではありますが、B氏の言葉には医療機関に対する不満による憤りのような「感情の揺れ」を感じることはできず、単に「こういうことを言えば病院は困るだろう。困らせてやろう」という悪意しか感じられませんでした。
それでも私はその苛立ちを抑えてB氏にどうして診療再開を承認しないのかを尋ねました。
B氏は承認しない理由を、乙先生と私の対応に不満があり、これらがクリアにならなければ信用できないということでした。
この返答でB氏の真意は「嫌がらせ」ということがわかりました。
特に今回の事例では、私の存在を「診療再開を承諾しない理由」にして、B氏の狙いは、私を対応窓口から引きはがし、対応窓口を分散させることで、病院全体を揺さぶり、自身のコントロール下に置くことだと悟りました。
おそらく当院の前に入院していた系列病院や、Aさんが入所している施設でもこういう手口を使っていたのでしょう。
【常習クレーマー】
私は、B氏がどれくらいこのような状況に慣れているのかを探るため、「病院を信用していないことと同義であり、診療が成り立たなくなる」と、暗に診療拒否を示唆する説諭をして反応を見ました。
B氏の答えは、「病院ではない、乙先生とあなたを個人として信用できない。だから診療再開は承諾しない」とのことでした。
私はこのB氏の返事で「場慣れ」を確信し、この電話での駆け引きの応酬がすぐには終わらないことを覚悟しました。
【粘り強い説得】
私はB氏に対し、一連の私の対応は、私がB氏の対応窓口を担当することになった時点で「病院として」の対応であり、「あなたの一連の言動は、『病院との信頼関係が構築できない』という意味と理解している。病院との信頼関係が構築できないのであれば診療は成り立たないので、病院としてもそれなりの対応をする必要がある」と繰り返し説諭しましたが、B氏は「リハビリの開始は承諾しない」の一点張りです。
やり取りが硬直化していたずらに時間を浪費していくだけなので、少し角度を変えて話しを進めてみようと思い、Aさんが「今の健康状態になる以前に、診療についてどうおっしゃっていましたか」などと変化球を投げてはみたものの、B氏は「なんで患者の話が出てくる?俺はあんたと乙先生が嫌だから診療再開は認めないと言ってるだけだ」と繰り返すばかりで、その繰り返しの説諭の中で私の言葉のニュアンスが少し揺らぐようなところがあると、B氏はそこを捉えて不毛な議論を仕掛けてきます。
私は、このやり取りを繰り返すとB氏のペースになってしまうと判断し、一度、精神の冷却時間を設けるため、振り出しに戻って、再度毅然とした口調で、「わかりました。それであれば当院としてもそれなりの対応を検討します。これ以上の不毛なやり取りは時間が過ぎるばかりです。失礼します」と告げて電話を切りました。
読者の皆さんの中には「この状態で電話を切っても良いの?」と驚かれた方もいると思います。
私がこの電話を切ったのは、
①硬直化した説得を仕切り直す
②自身の頭を冷やして、もう一度自分のペースを取り戻す
③B氏は診療拒否を望んではおらず、当院での治療継続を希望しており、実際に「診療拒否」となった場合はB氏が困ることになるため、必ず落としどころを探ってくる
という意図があったからです。
案の定、B氏はこの後も再三電話をかけてきましたが、私は「病院として毅然とした対応をするための検討に入りました。今はあなたとお話しすることはありません」と会話を拒否して、都度電話を私の方から切ることを繰り返しました。
これが奏功したのか、10回を超えたところでしょうか、B氏がまた態度を軟化させたのです。
(その6へ続く)