第11回(その6):【ペイシェントハラスメント】「現場を萎縮させるモンスター家族」

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法律・税務・士業全般
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皆さん、こんにちは。
当ブログのペイシェントハラスメント(ペイハラ)シリーズ連載も、一つの節目となる「その6」を迎えました。
長きにわたってお届けしてきた、モンスター家族・B氏との「初日の電話による心理戦」は、今回で一区切りとなります。

読者の皆さんの中には、「おいおい、初日の電話だけでどれだけ回数(ページ)を使っているんだ!」と驚かれる方もいらっしゃると思います。
しかし、私がここまで細部を端折らずに描写したのには理由があります。

現場で起きるリアルなハラスメントの実態と、こうした特異な人種に取り込まれない(主導権を渡さない)ための防衛策がいかに緻密なものであるかを知っていただきたかったのです。

「プロでもこれほどの手間と覚悟が必要である」という事実を知ることで、皆さんがB氏のようなしつこい相手に根負けしないための「心の準備」にしてほしい――。

そんな願いを込めて、今回も時計の針を進めていきます。

【態度の軟化と見せかけての「条件付与」】

B氏と私のファーストコンタクトとなった電話は、互いの肚(はら)を読み合う消耗戦となりました。

しかし、前回私が「話し合いのハシゴを外す(通話を打ち切る)」という強硬手段に出たことで、流れは確実にこちらへと傾き始めていました。

10回以上にわたるこちらの受電拒否(着信切断)を経て、ついにB氏の側から、「頼むから、前に進む話を聞いてほしい」という、明らかな“泣き落とし”の言葉が入ってきたのです。

B氏の提案は、「乙先生やあなたの対応に関する不満はいったん横に置いて、患者であるAさんの診療に関し、まずは甲先生のIC(インフォームド・コンセント)に応じる。その席で今後の診療をどうするか決めよう」というものでした。

これだけを聞けば、B氏の態度は一定レベル軟化したように見えます。
しかし、前回でもB氏の「場慣れ」について言及しましたが、この百戦錬磨のクレーマーがただで引き下がるはずがありません。

彼はその直後、矢継ぎ早にこう続けてきました。
「そのICには、病院側からは誰が同席するのか?」
「そもそも、あなたはなぜこの問題に介入してくるのか?」
「ICには、(Aさんが以前入所していた)施設の人も呼んでほしい」
「言っておくが、ICを受けたからといって、診療再開を承諾するとは限らないからな」

ここで重要なのは、「絶対にその場で回答・承諾をしないこと」です。

私は交渉の主導権を渡さないよう冷静さを保ち、「ご質問やご要望はすべて病院組織として預かり、検討します。できる限り意に添うよう努力はしますが、その結果についてあなたに個別に事前説明はしません」とだけ告げました。
これまで拙ブログを読んでくださっている皆さんなら、もうお分かりだと思います。

この手の要求は、こちらが一つでもその場で首を縦に振ったり回答を与えたりした瞬間、それに引っかける形で次なる無理難題を突きつけてくるための「罠(フック)」だからです。

【B氏による引き延ばし(業務妨害)工作】

こちらが主導権を渡さないと気付くと、B氏は次なる一手に出ました。
直近に控えた「ICの話題」であれば、病院側として無下に電話を断ることができないだろうと踏み、通話を長引かせる口実に使ってきたのです。

なぜ、彼はこれほど電話を長引かせようとするのか?

目的は極めてシンプルです。
私には、電話対応に縛り付けることで、他の通常業務を停滞させること自体が目的であるように感じられました。

その後の不毛な問答の一部始終がこれです。

B氏:「□日の甲先生のICでは、詳しく話をすることができるのか?」
私:「ICですから、診療方針について踏み込んだ話になるでしょう」

B氏:「ICの日以降に甲先生の外来診察の予約がある。その診察のときにも、治療に関して詳しく質問することは可能か?」
私:「基本的にはICの場で説明し尽くせる内容だと思います。外来診察の場でも治療に関する質問自体は可能ですが、著しく時間を引き延ばして、長時間にわたって医師を拘束するようなことは厳に慎んでください

B氏:「やっぱり□日のICは日程変更したい。甲先生から最初に打診されていた▲日に戻したい」
私:「拒否をします。あなたから『□日にしてくれ』と強く要求され、病院はその要求に応じて各医師のスケジュールを調整し、日程変更を承諾したのです。その後もあなたは□日実施を前提に、何度も段取りの確認をしてきました。あなたは一つの要求をこちらが飲めば、それに乗じて新しい要求を無限に続けてくる。ここで日程を再変更したとしても、必ずまた新たな要求を重ねてくることが容易に予想でき、その都度現場が混乱します。したがって、この変更要求には応じられません」

B氏は一気に要求を通そうとせず、何度も電話をかけ直しては「一度の通話で一つの質問・要求だけを小出しにする」という形で、執拗に揺さぶりをかけてきました。

この動き自体が、B氏が病院に対して明確な「攻撃の意図」を持って、業務妨害を仕掛けていると感じられる行動だと思います。

【本質の看破:言葉の裏に隠された「家族の闇」】

その後も繰り返されるB氏からの電話に対し、私は一貫して対応を拒否し続けました。

すると、追い詰められたB氏は「これが最後だ。最後に聞いてほしい」と、「最後」という言葉を強調してきました。
もちろん、この「最後」という言葉ほど信用できないものはありません。

しかし、ここで無下に拒絶しすぎると、相手が他方面(保健所、自治体の相談窓口、弁護士会など)に話を歪めて駆け込み、そこからの問合せ対応が不必要に拡大するリスクが頭をよぎりました。

私はここで一度、相手の言い分を「傾聴」することにしました。
そこで出てきたB氏の言葉は、彼の皮算用を物語るものでした。
「今後、病院側から俺に電話をかけてこないで欲しい」
「病院からの電話は、Aが死んだときだけでいい」

家族のキーパーソンであるはずのB氏が、「自分はもう関与しない」と宣言する。
これを突きつければ、病院側が困惑し、自分を懐柔するために下手(したて)に出てくるだろうという、彼なりの打算だったのでしょう。

私は繰り返しの電話でのB氏とのやり取りで、B氏が

Aさんのことを腹の底では疎んじている
②患者の家族として関与することを面倒くさがっている。
③できることなら自分はなにも関わることなく、Aさんが亡くなるまで病院や施設に押し付けたい。
④もし、自分が関わることを続けることになったとしても、病院を自身のコントロール下に置いて、自分の要求が通りやすい状況にしておきたい。

と考えているのではないかと感じました。

「死んだときだけ電話してこい」という彼の言葉は、その心理を裏付けるものだと私は理解しました。

【拒絶からの「場外乱闘」:窓口を迂回する常習手口】

私は、B氏のその言葉をそのまま、冷徹に捉えました。

「分かりました。了解いたしました。主治医と病棟にもその旨(電話はするなということ)を正確に伝えます。私は今後あなたに電話をしません。ただし、医師や病棟は『緊急時』には当然、連絡をすることになります

焦ったB氏は、「たとえ病院が緊急でかけてきても、俺は絶対に電話に出ないからな!」と言い返してきました。

私は、先ほどの彼の言葉の矛盾を逃さず、
「患者さんがお亡くなりになった場合も、当然『緊急の連絡』に該当します。あなたは『亡くなった場合は電話をしろ』とご自身でおっしゃいましたから、病院としては当然、規約通りにお電話を差し上げることになります。あなたが電話に出るか出ないかはそちらの判断ですが、出られないのであれば、病院は緊急連絡先の優先順位に従って、淡々と次の連絡先へお電話を回すだけです」
と指摘しました。

返す言葉に窮したB氏は、「それでも出ない」と繰り返すだけでした。

私は、この瞬間がこの不毛な初日の対話を終了する「潮時(引き際)」であると判断しました。

「応答されるか否かは、そちらのご判断です。それでは失礼します」
そう言い切り、電話を切りました。

しかし、B氏の執念はここから「場外乱闘」へと発展します。

私に窓口を完全に塞がれ、自分のコントロール権を奪われたB氏は、次は病院の交換台を通じて、自らの名前を伏せた上で、事件とは全く関係のない他部門へ電話を繋がせたのです。

事情を一切知らない他部門の職員に対し、B氏は

「乙医師と、医療安全のTK(私)の対応が非人道的でひどすぎる」
「□日にICを予定しているが、TKが窓口になって邪魔をしている。あいつを通さずにICを受けさせろ」
「乙先生に、なぜ診療再開が必要なのかもう一度聞き取りをして回答させろ」
「TKのこの非礼な態度について、上に伝えて謝罪をさせろ」

と苦情を申し立てました。

そして何も知らないその職員に対し、「この要求の回答について、明日あなたから俺に電話をしてこい」という約束をさせてしまったのです。

私は通常、この手のしつこい電話の相手の対応は、あらかじめ交換台に予想される反応とその場合の対応についてレクチャーし、必ず私のところに電話がつながる、あるいは交換台の段階で拒否をするよう手配するのですが、今回はあまりに間を置かず執拗な電話をしてくることで、それが間に合いませんでした。

報告を受けた私は、その職員に対してこれまでの病棟と私の対応経過、そしてB氏が「私を対応の窓口から引きはがそうとしている」という意図を説明しました。

事情を理解してくれたその職員は、「そういうことでしたか。分かりました、協力します」と、毅然と味方に回ってくれたのです。

その後、乙先生、対応した職員、そして私の3人で、翌朝の電話対応について協議を行いました。

本来、B氏は「電話してくるな」と言っていたわけですから、こちらから電話をする義理など微塵もありません。

しかし、電話の約束をしてしまった職員の立場や、乙先生の心痛を察すると、約束を無視して放置するわけにもいきません。

今回はB氏への電話を約束した職員から電話をすることにしました。
この対応方針については、次回の新しい章で説明します。

ここまでの対応が私の初日の対応です。ブログの投稿は3週間にわたり、6回を費やしましたが、実際の対応は、最初の電話から4時間30分が経過していました。

(第11回了 ~ 第12回へ続く)

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