皆さん、こんにちは。
当ブログのペイシェントハラスメント(ペイハラ)シリーズは、前回で「初日の4時間30分にわたる心理戦」に一区切りがつき、今回から【第12回:第2章(初回IC攻防編)】へと進みます。
この章では、初回のICの実施を巡って、病院とB氏の攻防が展開されていきます。
しかし、皆さんに特にお伝えしたいことは、B氏のような人物を対応者の感情にまかせて完膚なきまでに叩きのめす方法ではありません。
「相手の出す不当な要求を、いかに法的に解釈し、窓口に立つ私が専門的スキルを駆使しながら法的解釈を含めて院内に情報共有を行いながら組織の防衛線を張っていく過程」、そして「関係機関(施設など)とどのように情報共有を行い、対応方針を統一していくか」という、訴訟にも耐えうる対処法の紹介です。
初日(あくまでも私が対応を開始した日ということです)のB氏からの電話攻勢を拒否と傾聴の使い分けで凌ぎましたが、B氏の病院への揺さぶりと攻撃は数か月後の決着まで執拗に繰り返されていきます。
初日の翌日の経過から進めていきましょう。
【翌日の電話対応】
第11回(第1章)の最後に、B氏への電話を担当する職員(丙職員としましょう)、乙先生、私の3人とで打合せを行い、B氏が丙職員に要求した事項にだけ事務的に回答し、それ以上の確認や要求があれば、電話の対応を拒否する方針を立てました。
そして翌朝、丙職員が基本通りに病院の交換台を通じてB氏に架電。
乙先生から聴き取りを行ったこれまでの経緯と診療方針を説明しましたが、B氏は当然納得せず、丙職員に対し「ちゃんと話を聴いたのか?全然違う」と繰り返し、再度丙職員が説明をしても、その言葉尻を捉えては執拗に揚げ足取りを仕掛けてきました。
乙先生や私が話していたことはこういうことかと、丙職員は電話をしながら思っていたそうです。
丙職員は、これ以上対応しても埒が明かないと判断し、「これ以上繰り返しのやり取りが続くのであれば、対応を中止します」と告げたところ、B氏は電話を切られてはまずいと思ったのか、「今後のやり取りは、すべて証拠が残るメールにしてくれ」と要求してきました。
丙職員は、「通常の業務の支障になるので電話対応をこれで終了する」ということを条件にB氏からメールアドレスを聴き取り、誤りがないよう3回確認を行いました。
そして「B氏の要求を簡単に受け入れるものではない」という私からのアドバイス通り、「メールアドレスをお預かりしました。確かにこのアドレスをTKに伝えますが、これが病院から連絡を行うことを約束するものではありません」と説明しました。
B氏は「わかったわかった」と、形式上は了解しました。
そして電話を切ろうとしたとき、B氏から、
・5月19日のICはキャンセルする
・診療の再開は承認しない
・診療の遅れにより患者の状態が悪化してもTKの責任は問わない
と発言し、丙職員に対し「これらをカルテに記載するように」と要求して電話を切りました。
【カルテへの記載要求について】
医療機関においてカルテは重要な診療記録です。
そのため、患者や家族から何らかの主張があった場合、「誰が、いつ、どのような発言をしたか」という事実経過として記録する必要があります。
もしかするとB氏は、「診療の遅れにより患者であるAさんが急変してもTK(私)の責任は問わない」とあえてカルテに記載させることで、私がこの問題に介入したことで、いたずらに診療の再開を遅らせてしまい、Aさんの状態が悪化させている原因になっているということを示唆させようとしたのかもしれません。
一見、このB氏の言葉は優しい表現に思えますが、カルテは医療訴訟においては重要な証拠記録になります。
この発言の真意は本人にしか分かりません。
しかし、後日紛争化した場合には、「病院側が診療の遅延を認識していた」と主張する材料として利用される可能性も考えられました。
そのため、丙職員にはその危険性も考慮した上で、「責任を問わない」という言葉を、
病院として発言内容を認めたように強調することなく、B氏が電話でこのような発言をし、そのままをカルテに記載するよう要求があった
とあくまで事実経過ベースで記録をするよう助言しました。
このあたりは、後に紛争化した場合を考えても非常に重要な視点であると思います。
B氏はこの電話の後、再び丙職員を指名して電話をしてきましたが、今回は交換台にも先に協力依頼をしていたので、交換台の段階で対応を拒否しました。
【病棟からの報告】
B氏は、私との電話では
「お前が病院に来るなと言うから病院に行けない」
「電話をしてくるな」
などと発言していましたが、休院日には病院に来ていたようです。
休日に紙おむつを補充にきたことがカルテに記載されていました。
これについては、病棟で無用なトラブルを起こさなければ、むしろ歓迎する話なのですが、その際に看護師が、「□日に甲先生のICがあるんですよね」と確認したところ、「甲先生から聞いている。ICに行く予定をしている」と返答した旨がカルテに記載されていました。
その直近にあった丙職員との電話では、B氏は□日のICをキャンセルすると発言していました。
病院としては、キャンセルでも来院してもどちらでも対応ができるよう、病棟との情報共有を密にしながら状況を慎重に見守ることになりました。
【施設との情報共有】
一方で、ICが実施される場合に備え、私はB氏の要求にあったAさんが入所している施設とも施設とも連絡を取り合っていました。
カルテには施設でもB氏への対応に苦慮していることが記載されていましたが、私が連絡を取り合った施設担当者さんは、Aさんが入院してからの担当になったとのことで、B氏に対して特に対応が難しいという印象を持っておられず、当初は病院の対応について疑問を感じておられたようです。
これは担当者の方が悪いという意味ではありません。
施設担当者から見れば、病院側の説明を受けるまでは判断材料がなかっただけのことです。
そこで私は、
・系列病院入院中の経過
・当院での対応経過
・現在は医療安全担当者の私が対応窓口になっていること
などを説明しました。
担当者の方は驚かれていましたが、病院側の状況について理解を示してくれました。
また、今後B氏から施設に病院とのICに関する確認があった場合に備え、
「病院からICへの同席を求める依頼の電話があった」
「担当者の同席依頼は、家族さんからの希望ということしか聞いていない」
と答える方針で対応を統一しました。
これは特別なことではなく、関係機関同士で認識を共有し、事実に基づいて対応するための調整です。
しかし、この施設への調整の翌日、再びB氏から「□日のICのことで」と私を指名しての電話があり、ICに関することになると、どうしても対応せざるを得ない私は、B氏からの電話に対応することにしました。
【再びのキャンセル】
B氏は、私が電話に出ると「□日のICについてその後はどうなっているか」と確認してきました。
私は「休日にあなたが病院に来られたときに、看護師に『ICには行く』と言っていたと報告を受けているので準備を進めています」と返答しました。
続いてB氏は「施設への連絡についてはどうなっているか」と確認してきました。
これに対して「施設の担当者には当職から同席の依頼をかけている」と説明したところ、B氏は「□日のICはキャンセルしたはずだ」と言い始めました。
私はB氏に対して、「今さっきICに出る前提で話をされていたのでは?」と指摘しましたが、B氏は、
①私がICに関与しているのが気にくわない
②前に入院していた系列病院と当院での入院、診療の経過に納得できていない。
③系列病院入院中に「今の施設には戻れない」と失礼なことを言われた。
とキャンセルの理由を述べました。
私は①について、私がICに同席しないことを提案しましたが、「そもそもお前が関与しているICには出ない」と頑なに拒否。
③については誤嚥の管理が施設では難しいとの説明であったはずだがと説諭しましたが、それも「病院を出ても行くところなんかないと言われた」と主張を繰り返しました。
私は「いろいろなお考えがあるのは理解しますが、まずは患者さんの現在の病状や今後の方針について主治医から説明を受けていただくことが大切ではないでしょうか」と説得しました。
しかしB氏は断固として拒否し、結局このときの電話では、予定していたICはキャンセルとなりました。
(その2へ続く)