私は理学療法士として医療現場で従事する傍ら、アスレティックトレーナーの資格も取得し、スポーツ現場やアスリートへの指導にも携わってきました。
その中で、
主訴は「痛み」だったものの、実際には「身体の使い方の崩れ」が本質的な問題であり、その結果としてパフォーマンス低下を招いていたケースに出会いました。
今回は、水泳選手の一例をもとに、
当時その選手の身体で何が起きていたのかを整理していきます。
首の痛みから見えた身体の状態
強豪大学の水泳部に所属する3年生。
専門種目は自由形。
最初の相談内容は「首が痛い」でした。
身体を確認すると、首から肩甲帯にかけての筋緊張が強く、背骨や肩甲骨の可動性も低下している状態でした。
痛みが出始めたのは、大会前で練習量が増えている時期だったそうです。
クロールでは、腕を前方へ大きく伸ばす動きが重要になります。
しかし肩甲骨や背骨の動きが硬くなると、腕を十分に前へ運ぶことができません。
その代償として、この選手は僧帽筋を中心とした頸部〜肩の筋肉を強く使い、「力んで」距離を確保していました。
結果として首の動きが阻害され、痛みが出現していました。
この痛み自体は比較的短期間で軽減しました。
問題はここからです。
自己ベストが止まった時期
詳しく話を聞くと、自己ベストは高校1年生のときから更新できていないとのことでした。
筋力向上を目的としてウェイトトレーニングにも力を入れていましたが、
フォームや重量設定は我流の状態。
筋力は向上している。
しかしパフォーマンスは向上しない。
ここで起きていたのは、
筋力がスポーツ動作にうまく変換されていないという状態でした。
鍛える前に整えるという考え方
ベンチプレスやデッドリフトは、基本的に一方向の運動軸で構成されます。
一方で水泳動作では、複数の方向の動きが同時に組み合わさります。
使い方が崩れたまま筋力を上積みすると、
崩れた動きが強化されてしまいます。
逆に、使い方が整った状態で筋力を高めると、
その力は比較的スムーズに競技動作へ還元されていきます。
鍛えるかどうかの前に、
今の身体が「力を受け取れる状態かどうか」を確認する。
この視点はとても大切だと感じています。
使い方を整えた結果
肩甲骨・背骨・骨盤・股関節の連動を意識したトレーニングを行いました。
約1ヶ月後の大会で、高校1年生以来となる自己ベストを更新。
その後は自由形だけでなく、背泳ぎ・バタフライでも自己ベストを更新していきました。
この話はアスリートだけのものではありません
デスクワークによる肩こりや腰痛、
長年続く膝の違和感、
運動を始めるとすぐに痛めてしまうケースなども、
背景には「身体の使い方の崩れ」が関係していることがあります。
痛い場所だけを見るのではなく、
「なぜそこが頑張らされているのか」という視点を持つことで、
見える景色は大きく変わります。
不調が続いている方。
頑張っているのに結果が出ない方。
それは怠惰や努力不足ではなく、
向いている方向が少しズレているだけかもしれません。
その小さな方向修正が、
大きな変化につながることは少なくありません。