第9話 「好きって伝わったのに、不安は消えない」
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朝。
目が覚めた瞬間、
昨日のことを思い出した。
『…好きだよ』
電話越しに言った言葉。
何度思い返しても、
心臓が熱くなる。
(マジで言ったんだよな…)
恥ずかしさと、
信じられない気持ち。
でも。
それ以上に。
嬉しかった。
澪も、自分を好きだった。
それだけで世界が変わったみたいで。
昨日まで苦しかったものが、
全部少し軽く見える。
なのに。
(…なんでこんな不安なんだよ)
胸の奥が、妙に落ち着かない。
好きって伝わった。
想いも繋がった。
普通なら、
それで安心するはずなのに。
むしろ今の方が怖い。
(嫌われたらどうしよう)
頭の中に浮かぶ。
付き合ってない。
ちゃんと始まったわけでもない。
昨日は勢いだったのかもしれない。
時間が経ったら、
冷静になるかもしれない。
(…考えすぎだろ)
自分で分かってる。
でも、止まらない。
教室に入る。
澪がいる。
目が合う。
その瞬間。
昨日までとは違う空気が流れた。
澪が少しだけ目を逸らす。
頬、赤い。
(やば)
一気に心臓が跳ねる。
でも。
昨日みたいに話しかけてこない。
距離も、そのまま。
(…あれ?)
胸がざわつく。
昼休み。
澪は友達と話していた。
普通に笑ってる。
でも。
こっちを見ない。
(なんで)
昨日あんなこと言ったのに。
頭の中が、一気に不安で埋まる。
(やっぱり勢いだった?)
(後悔してる?)
考えなくていいことばかり浮かぶ。
気づけば、
視線で追っていた。
そのとき。
澪が立ち上がる。
そして。
真っ直ぐ、こっちに来た。
(え)
心臓が止まりそうになる。
「…ちょっと」
小さい声。
近い。
昨日より、
ずっと近く感じる。
「…なに」
声が掠れる。
澪は少しだけ目を逸らした。
そして。
「…今日、全然こっち見ない」
え。
思考が止まる。
「いや、見てたけど」
反射で答える。
「見てた」
澪が少し笑う。
「めっちゃ見てた」
終わった。
顔が熱い。
「…うるさい」
それしか言えない。
澪が、小さく笑う。
その笑顔を見た瞬間。
さっきまでの不安が、
少しだけほどける。
「…なんで避けるの」
昨日と同じ言葉。
でも。
今度は少しだけ柔らかい。
「避けてねぇよ」
「避けてる」
即返される。
そして。
澪が、少しだけ近づいた。
「…昨日、好きって言ったのに」
心臓が止まりそうになる。
教室。
昼休み。
人もいる。
なのに。
そんなこと普通に言うな。
「…っ、お前さ」
限界だった。
澪が少し笑う。
でも。
次の瞬間。
「…不安だった?」
真っ直ぐな声。
全部見抜かれてる。
言葉が出ない。
澪は少しだけ黙って。
「…私も」
そう言った。
一気に胸が締め付けられる。
同じだった。
好きって伝わっても。
両想いになっても。
不安は消えない。
むしろ。
大事になったから、怖い。
「…でも」
澪が少し笑う。
「ちゃんと嬉しかったから」
その一言で。
また全部、持っていかれた。
続く。