最終話 「それでも、あなたを選びたい」

記事
小説
放課後。

窓の外は、少し赤く染まり始めていた。

春の終わり。

初めて澪と出会った日から、
まだそんなに時間は経っていないはずなのに。

ずっと前のことみたいに感じる。

「…また見てる」

声。

振り向くと、澪が少し笑っていた。

最近、この顔をよく見る。

柔らかく笑う顔。

最初は、
こんなふうに笑うなんて思わなかった。

「見てねぇし」

反射で返す。

でも。

「見てた」

即返される。

もう勝てない。

「…うるさい」

そう言うと、
澪が小さく笑った。

その笑い声が、
やっぱり好きだと思う。

前みたいな苦しさは減った。

でも。

不安が消えたわけじゃない。

嫌われたらどうしようとか。

離れていったらどうしようとか。

考えることは、今もある。

でも。

それでも隣にいたいと思った。

それが答えだった。

「ねえ」

澪が少しだけ真面目な声になる。

「…あの日さ」

「あの日?」

「電話した日」

第8話の夜。

『好きだよ』

初めて、ちゃんと言葉にした日。

思い出した瞬間、
また少しだけ心臓が熱くなる。

「…うん」

澪が少しだけ視線を落とした。

「ちょっと怖かった」

小さい声。

「もし違ったらどうしようって」

胸が締め付けられる。

自分も同じだった。

怖かった。

関係が壊れるのが。

でも。

「…俺も」

自然に言葉が出る。

「めちゃくちゃ怖かった」

澪が少しだけ笑う。

「知ってる」

「顔に出すぎ」

「うるさい」

また笑う。

その空気が、
心地いい。

沈黙。

でも、不思議と苦しくない。

前なら、
沈黙が怖かった。

今は違う。

隣にいるだけで、
ちゃんと安心できる。

そのとき。

澪が、少しだけ手を動かした。

指先が、触れる。

一瞬。

でも。

すぐには離れなかった。

心臓が跳ねる。

「…っ」

澪が少しだけ照れた顔をする。

その顔が可愛すぎて、
頭がおかしくなりそうだった。

「…嫌?」

小さい声。

「嫌なわけないだろ」

即答だった。

澪が少し笑う。

そして。

今度はちゃんと、手を繋いできた。

温かい。

たったそれだけなのに。

胸がいっぱいになる。

好きって、
こういうことなんだと思った。

特別な何かじゃなくて。

隣にいたいとか。

笑っててほしいとか。

そんな小さい気持ちの積み重ね。

「…ねえ」

澪が前を向いたまま言う。

「これからも、ちゃんと隣いてよ」

夕焼けの光。

繋いだ手。

少し照れた横顔。

全部が綺麗で。

「…うん」

自然に笑っていた。

「俺も、離れる気ないから」

澪が少しだけ目を丸くする。

そのあと。

嬉しそうに笑った。

最悪な出会いだった。

でも。

あの日、出会えてよかったと思う。

遠回りして。

不安になって。

傷つきそうになって。

それでも。

何度でも思う。

「やっぱり、好きだな」

夕焼けの中。

繋いだ手だけは、
最後まで離さなかった。

完。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら