第4話:揺れ始める距離と、言葉にできない感情

記事
占い
会議での評価から数日。

私は、以前よりも明確に「見られている」と感じるようになっていた。

ミスをしないように、ではない。
「どう成長しているか」を、見られている。

それは、少しだけ怖くて、でも同時に嬉しかった。

「澪さん、この分析、もう一段階踏み込めますか」

昼過ぎ。
蒼さんが、私のデスクの横に立っていた。

相変わらず無駄のない声。
感情の揺れを感じさせないトーン。

でも以前と違うのは、
“任せられている感覚”があることだった。

「もう一段階、ですか…?」

私は画面を見つめながら問い返す。

「はい。表面的な傾向は見えていますが、その“理由”までは届いていません」

短い。
でも、的確すぎる指摘。

「…分かりました。やってみます」

そう答えながら、心の中では少しだけ焦っていた。

(……できるかな)

その日の帰り道。

私はカフェに寄って、ノートとパソコンを広げていた。

いつもなら「これで十分」と思っていたラインを、
今日は越えようとしている。

数字の裏にある動き。
ユーザーの心理。
市場の流れ。

何度も資料を見返しながら、
“なぜそうなるのか”を掘り続けた。

(……まだ浅い)
(……もっと見えるはず)

時間が過ぎていくのも忘れて、
気づけば外はすっかり暗くなっていた。

翌日。

私は少しだけ緊張しながら、資料を蒼さんに提出した。

「……確認お願いします」

声が、わずかに硬い。

蒼さんは無言で資料に目を通していく。

ページをめくる音だけが、静かに響く。

その時間が、妙に長く感じた。

「……ここまで来ましたか」

ぽつりと、蒼さんが言った。

顔を上げる。

表情は相変わらず変わらない。
でも、視線の奥が少しだけ違う。

「はい。前回の指摘を踏まえて、背景まで整理しました」

「分かります」

短く返ってくる。

そして、ほんの一瞬だけ。

「いいと思います」

その言葉が落ちた。

一瞬、時間が止まった気がした。

「……ありがとうございます」

私は、うまく言葉を返せていたか分からない。

ただ、胸の奥がじんわりと熱くなっていた。

その日の午後。

なぜか集中できなかった。

作業は進んでいるのに、
頭の中に浮かぶのは、あの一言だった。

「いいと思います」

たったそれだけの言葉。

でも、それがこんなにも残るなんて思わなかった。

(……なんでだろう)

帰り道。

ふと、自分に問いかける。

嬉しかった。
それは間違いない。

でも、それだけじゃない。

もっと奥に、何かがある。

(……認められたかったんだ)

そう気づいた瞬間、
胸の奥が少しだけ静かになった。

ずっと、怖かったのかもしれない。

否定されること。
見てもらえないこと。

でも今は違う。

ちゃんと見られていて、
ちゃんと評価されている。

それなのに。

なぜか、少しだけ苦しい。

翌日。

「澪さん」

背後から呼ばれて振り返る。

「はい」

蒼さんが立っていた。

「次の案件ですが、澪さんにも一部任せます」

「……え?」

思わず声が漏れる。

「ここまでの内容を見る限り、任せても問題ないと判断しました」

相変わらず、感情は乗っていない。

でも、その言葉の重さは、はっきりと伝わってきた。

(……任せてもらえた)

嬉しい。

でも同時に、
また少しだけ、胸がざわつく。

「……やってみます」

私はそう答えた。

その声は、
少しだけ強くなっていた。

蒼さんは、軽く頷いた。

それだけ。

それだけなのに。

なぜか、その仕草が、
やけに印象に残った。

(……なんだろう、この感じ)

仕事としての距離は、確実に縮まっている。

でもそれ以上に、
“何か”が近づいている気がした。

まだ名前は分からない。

でも確かに、
静かに動き始めている。

私の中で、何かが変わり始めていた。

仕事だけじゃない。

もっと別の、
言葉にできない何かが。

続く。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら