年次有給休暇は、シンプルな制度に見えて、実はトラブルが非常に多い分野です。「有給を取らせているつもりだった」「慣習的にこうしていた」その運用が、知らないうちに法律違反になっていることもあります。本記事では、年次有給休暇の基本から、実務で見落とされがちなポイントまで、解説します。
1 年次有給休暇の付与要件
有給休暇は、下記の2つの要件を満たした人に対して、付与されます。出勤率が低い人や入社して間もない人に対しては、付与されない場合もあります。もちろん、法令を上回る措置として、そのような方にも付与することは可能です。
(1)継続勤務の要件
1つ目の要件は、「6か月の継続勤務」です。継続勤務は、在籍期間を意味します。例えば、2026年1月1日入社の場合、半年後の2026年7月1日で、6か月の継続勤務の要件が満たされます。また、継続勤務は、在籍期間を意味しますので、休職期間も含まれることに注意が必要です。一見、休職期間は勤務していないから、継続勤務には含まれないとも考えられますが、休職期間であっても、会社に在籍はしているので、継続勤務に含めて考えます。
(2)出勤率の要件
2つ目の要件は、「全所定労働日の8割以上出勤」です。所定労働日は、いわゆる出勤日のことです。例えば、土日祝休みの人が、2026年1月1日に入社した場合、2026年7月1日までに、121日の出勤日があります。具体的には、2月は18日の出勤日、4月は21日の出勤日、6月は〇〇日の出勤日…といったように、出勤日をカウントし、6か月分合計の出勤日を算出します。
合計の日数に、0.8をかけます。121日なら、121日×0.8=96.8日となります。8割「以上」ですので、97日以上の出勤日があれば、要件を満たしていることになります。
2 年次有給休暇の付与日数
付与日数は、週の所定労働日数や週の労働時間によって、異なります。分類としては、フルタイムで働いている人と、そうでない人で分かれていると考えると、わかりやすいかもしれません。
(1)フルタイム勤務の付与日数
(2)パート・アルバイトの付与日数
パート・アルバイトにも、付与されることに注意が必要です。
3 年次有給休暇の取得方法
原則として、従業員の時季指定(この日、有給とりますという申出)により、取得の時季が決定します。事業の正常な運営を妨げる場合に限って、会社は、時季変更権を行使できます。時期変更権は、簡単に言えば、取得日を変更する権利のことです。
4 取得日の賃金
取得日の賃金は、以下の3つから選択することになります。
(1)平均賃金
(2)所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
(3)健康保険法に規定する標準報酬月額の1/30に相当する金額
(1)と(2)が原則とされています。(3)ついては、労使協定を締結した場合には、例外的に可能となります。(1)と(3)は、計算や労使協定の手間が多いので、実務上は、(2)の方法が一般的です。
5 時効
発生の日から、2年で消滅します。
6 年5日の年次有給休暇取得義務
2019年の法改正により、「10日以上」の年次有給休暇が付与された人は、1年以内に、5日間を取得しなければならなくなりました。取得できていない場合、会社が時季を指定して取得させなければなりません。これに伴って、会社による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。就業規則の参考は、下記のとおりです。
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第〇〇項
年次有給休暇が10日以上与えられた従業員に対しては、付与日から1年以内に、当該従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が従業員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、従業員が年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
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7 まとめ
年次有給休暇について解説しました。当事務所では、年次有給休暇のみならず、労務管理について、ご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。元労基署職員(労働基準監督官)の視点から、ご提案をさせていただきます。
8 根拠法令
第三十九条(年次有給休暇)
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
② 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。
③ 次に掲げる労働者(一週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前二項の規定にかかわらず、これらの規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の一週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数(第一号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令で定める日数とする。
一 一週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ないものとして厚生労働省令で定める日数以下の労働者
二 週以外の期間によつて所定労働日数が定められている労働者については、一年間の所定労働日数が、前号の厚生労働省令で定める日数に一日を加えた日数を一週間の所定労働日数とする労働者の一年間の所定労働日数その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める日数以下の労働者