「人が足りない」
「現場が忙しすぎる」
「もう採用しないと回らない」
会社を運営していると、このような悩みに直面することがあります。
もちろん、本当に人が足りない場合は、人を増やす必要があります。
無理な状態を続ければ、
品質の低下、納期遅れ、ミスの増加、社員の疲弊につながります。
しかし、注意したいことがあります。
それは、人を増やせば、必ず会社が楽になるわけではないということです。
人を採用したのに、現場の忙しさが変わらない。
新しい人が入ったのに、できる人の負担が減らない。
人数は増えたのに、利益が残りにくくなる。
このようなことは、実際に起こります。
なぜでしょうか。
それは、人手不足の原因が、単純な人数不足ではないことがあるからです。
1. 仕事は、放っておくと増えていく
まず考えたいのは、仕事はなぜ増えていくのか、ということです。
会社の中では、まじめな人ほど仕事に熱心に取り組みます。
お客様のために。
上司のために。
現場のために。
会社のために。
少しでも良くしようと考え、丁寧に仕事を進めようとします。
その結果として、本来は「必ず必要な仕事」ではなかったものが、
少しずつ増えていきます。
たとえば、
・念のために作る資料
・あった方が親切な確認作業
・昔から続いている報告
・誰かが気を利かせて始めた集計
・なくても大きな問題は起きない会議
・一部の人だけが見ている管理表
こうした仕事は、最初から悪いものではありません。
むしろ、始まった時点では意味があったはずです。
「これがあると便利だ」
「念のため確認しておこう」
「お客様のために、もう少し丁寧に対応しよう」
「上司に説明しやすいように資料を作っておこう」
このような前向きな気持ちから始まっていることも多いです。
しかし問題は、時間が経つにつれて、
それがあたかも最初から必要だった仕事のように扱われることです。
最初は「あった方がよい仕事」だったものが、
いつの間にか「必ずやるべき仕事」に変わってしまう。
ここに、仕事が増えていく大きな理由があります。
2. 仕事を減らす判断は難しい
仕事を増やす時の理由は、比較的わかりやすいです。
「ミスを防ぐため」
「お客様に丁寧に対応するため」
「上司に説明しやすくするため」
「現場の状況を把握するため」
一方で、仕事を減らす判断は難しくなります。
なぜなら、仕事を減らした時のリスクは、事前には見えにくいからです。
この資料をやめたら、誰かが困るのではないか。
この確認を減らしたら、ミスが増えるのではないか。
この会議をなくしたら、情報共有に支障が出るのではないか。
実際には、やめても大きな問題が起きない仕事もあります。
しかし、やめる前にはなかなか確信が持てません。
そのため、多くの会社では、仕事を減らす判断が先送りされます。
「念のため、続けておこう」
「今までやっていたから、急にやめるのは不安だ」
「何かあったら困るから、とりあえず残しておこう」
このようにして、仕事は減らずに残り続けます。
そして、新しい仕事だけが追加されていきます。
結果として、現場はどんどん忙しくなります。
この状態で人を増やしても、根本的な解決にはなりません。
なぜなら、すでに必要性が薄くなった仕事まで含めて、
人を増やして対応しようとしているからです。
3. 仕事は特定の人に集中しやすい
次に起こりやすいのが、仕事の集中です。
会社の中には、特定の人にしかできない仕事が生まれることがあります。
「この業務は○○さんしか分からない」
「このお客様は○○さんでないと対応できない」
「この資料は○○さんが作らないと正しくならない」
このような状態です。
一見すると、○○さんは非常に頼りになる人です。
実際、会社にとって重要な存在であることも多いでしょう。
しかし、ここには注意が必要です。
「○○さんしかできない」という状態は、会社にとってはリスクです。
その人が休んだら、仕事が止まる。
その人が異動したら、誰も分からなくなる。
その人が退職したら、業務が引き継げなくなる。
それにもかかわらず、この状態はなかなか解消されません。
なぜなら、「○○さんしかできない」という状態は、
○○さん本人にとって都合がよい面もあるからです。
その状態が続くほど、○○さんは会社にとって欠かせない存在になります。
○○さんがいないと仕事が回らない。
○○さんに聞かないと判断できない。
○○さんが対応しているから安心できる。
こうなると、本人も無意識のうちに仕事を手放しにくくなります。
もちろん、悪意があるとは限りません。
「自分でやった方が早い」
「人に教える時間がない」
「中途半端に任せると品質が下がる」
「結局、自分が確認することになる」
このように考えている場合も多いです。
しかし結果として、仕事は共有されません。
やり方も整理されません。
他の人も育ちません。
そしてますます「○○さんしかできない」状態が強くなっていきます。
これが、仕事が集中して暗黙知化する状態です。
4. 人を増やしても、仕事を渡せない
この状態で新しい人を採用すると、何が起きるでしょうか。
人数は増えます。
しかし、仕事はすぐには分担されません。
なぜなら、仕事のやり方が整理されていないからです。
マニュアルがない。
判断基準がない。
どこまで任せてよいか分からない。
誰が何を確認するのか決まっていない。
結局、最後は○○さんが見ないと不安になる。
こうなると、新しい人が入っても、できる人の負担はあまり減りません。
むしろ、教える、確認する、修正する、説明するという仕事が増えます。
その結果、現場ではこのような声が出ます。
「採用したのに楽にならない」
「新人に教える時間がない」
「結局、できる人に仕事が戻ってくる」
「人は増えたのに、前より忙しい」
これは、採用そのものが悪いわけではありません。
採用する前に、
仕事の分け方や教え方が整理されていなかったことが問題なのです。
人を増やす前に、まずは仕事を渡せる状態にしておく必要があります。
誰がやっても一定の品質でできるようにする。
判断基準を明確にする。
手順を見える形にする。
特定の人にしか分からない状態を減らす。
こうした準備がないまま人を増やしても、
思ったほど効果は出にくくなります。
5. 採用は、大きな投資である
さらに、人を増やすことはコスト面でも大きな判断です。
日本では、正社員として採用すると、よほどの理由がない限り簡単に解雇することはできません。
会社にとって、人の採用は長期的な責任を伴う判断です。
たとえば、年収500万円の人を30年間雇用した場合、
単純計算で1.5億円です。
もちろん、実際には途中で離職することもあります。
昇給もあります。
社会保険料や採用費、教育費もかかります。
そのため、単純な年収だけで判断できるものではありません。
ただ、ここで大切なのは、
採用を「人を一人増やすこと」とだけ考えないことです。
採用は、会社にとって多額の投資です。
設備投資をする時には、多くの会社が慎重に考えると思います。
本当に必要か。
どれくらい効果があるか。
回収できるか。
他に方法はないか。
人の採用も、本来は同じように考える必要があります。
忙しいから採用する。
現場が大変そうだから採用する。
売上が増えそうだから先に人を入れる。
もちろん、そうした判断が必要な時もあります。
しかし、仕事の中身や利益構造を見ないまま採用すると、
あとから固定費の重さに苦しむことがあります。
6. 人を増やす前に確認したいこと
人手不足を感じた時、すぐに採用を否定する必要はありません。
本当に必要なら、人を増やすべきです。
ただし、その前に確認したいことがあります。
まず、今ある仕事の中に「あった方がよい仕事」が増えすぎていないか。
昔は意味があったけれど、今も本当に必要なのか。
誰も見ていない資料はないか。
目的が曖昧な会議はないか。
念のためだけに続けている確認作業はないか。
次に、仕事が特定の人に集中していないか。
○○さんしかできない仕事が増えていないか。
その仕事は、本当にその人しかできないのか。
整理すれば他の人にも任せられるのではないか。
そして、採用後に利益が残るか。
人を増やすことで売上が増えるのか。
売上は増えなくても、品質や納期を守るために必要なのか。
増えた人件費を吸収できるだけの利益構造があるのか。
この3つを見ないまま採用すると、人数は増えたのに、忙しさも利益の出にくさも変わらない状態になりかねません。
7. 人手不足の正体を見極める
人手不足には、いくつかの種類があります。
本当に仕事量に対して人が足りない場合。
必要性が薄い仕事が増えすぎている場合。
特定の人に仕事が集中している場合。
仕事のやり方が共有されていない場合。
利益率の低い仕事を多く抱えている場合。
これらを区別せずに、
すべてを「人が足りない」と考えると、判断を誤ります。
必要なのは、採用するかどうかを感覚で決めることではありません。
なぜ忙しいのか。
どこで仕事が詰まっているのか。
何を減らせるのか。
誰の仕事を共有すべきなのか。
人を増やした後に利益は残るのか。
こうした点を整理したうえで、人を増やすべきかを判断することが大切です。
8. まとめ
人手不足を感じた時、人を増やすことは有力な選択肢です。
しかし、人を増やせば必ず会社が楽になるわけではありません。
仕事は、放っておくと増えていきます。
まじめな人ほど、良かれと思って「あった方がよい仕事」を増やします。
そして時間が経つと、それが「必ずやるべき仕事」のように扱われるようになります。
また、仕事が特定の人に集中すると、暗黙知化が進みます。
「○○さんしかできない」状態は、会社にとってリスクである一方で、本人にとっては都合がよい状態にもなり得ます。
さらに、採用は大きな投資です。
年収500万円の人を30年雇用すれば、単純計算で1.5億円になります。
だからこそ、人を増やす前に考えるべきことがあります。
・その仕事は本当に必要か
・特定の人に仕事が集中していないか
・採用後に利益が残るか
人が足りないように見える時ほど、
まずは仕事の中身と流れを整理することが重要です。
採用するのか。
仕事を減らすのか。
仕事を共有できる形にするのか。
価格や受注内容を見直すのか。
現状を整理すると、次に取るべき打ち手が見えやすくなります。
人を増やすべきか、今ある仕事を見直すべきか。
採用、業務改善、利益構造の判断は、頭の中だけで考えていると複雑になりがちです。
経営判断、事業計画、管理会計、業務改善などについて、
「何から整理すればよいかわからない」
「自社の場合はどう考えればよいか相談したい」
という方は、お気軽にご相談ください。
現状を一緒に整理しながら、
次に取るべき打ち手を考えるお手伝いをいたします。