デジイチとセットで買う標準ズーム あれほど使いにくいレンズはない

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初めてデジイチを買う人は、例外はないぐらいに標準ズームレンズもセットで買うでしょう。しかし、実は標準ズームは使いこなすのが難しく、これから写真の撮り方を覚える人にはおすすめしにくいレンズです。

標準ズームレンズとは

ここでの「標準ズームレンズ」は、広角の24ミリ相当前後から、中望遠の85ミリ相当前後までをカバーするもので考えます。200ミリ相当かそれ以上の望遠をカバーするものもありますが、これは「高倍率ズームレンズ」として別のものとしておきます。

スマホやコンデジに飽き足らなくなってデジイチ(デジタル一眼レフ)を買った場合、大半の人は標準ズームレンズもセットで買っているでしょう。メーカーの側も、「標準ズームキット」などの名称で、最初からカメラボディーと標準ズームをセットにした価格を設定しています。特に「エントリークラス」といわれる初心者向けのカメラボディーで、この売り方が目立ちます。

かつては単焦点の標準レンズから始めるのが一般的だった

「初心者には、カメラボディーと標準ズームのセットが当たり前」になる前、多くの人は50ミリの標準レンズ1本だけで撮り始めていました。でなければ、35ミリ前後の準広角1本だけでした。

昔からカメラを使っている私も、初心者におすすめのレンズが、いつ標準ズームレンズに置き換わったのかはよく覚えていません。しかし、2000年ごろであれば、「単焦点の標準レンズ1本で始めたら?」と知人にアドバイスしていた記憶があります。

今の人は「標準レンズ1本だけでは、撮れるものが限られる」と考えるのではないでしょうか。それも間違いではありません。しかし、そのころは「まずは、標準レンズを使い込んで、レンズとしての特徴や撮れる範囲を自分のものにする。標準レンズの限界を知ってから2本目のレンズに進む」といったやり方が、よくおすすめされていました。

また、その2本目以降のレンズのそろえ方ですが、「広角は0.7倍刻み、望遠は2倍刻み」とノウハウ本で書かれていたのを覚えています。「次に広角を買うならば35ミリ、その次は24ミリを選ぶ。望遠は100ミリ、200ミリの順番にする」ということです。すでにズームレンズも一般化していました。しかし、中級者以上を対象にしている、そのノウハウ本には登場しませんでした。

標準ズームレンズではいい写真が撮りにくいわけ

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今でも、「初心者こそ、単焦点レンズを使ったほうがいい。標準ズームでは写真を覚えない」とする人もいます。また、中級者・上級者に脱皮する段階で、単焦点レンズをそろえ始めるのは、当たり前にある光景です。

その理由をざっくりいえば、「標準ズームではいい写真が撮れない」でしょう。少し表現を和らげると、「一見便利そうな標準ズームだが、標準ズームは標準ズームなりの制約がある」です。

・その1.レンズが暗い

「レンズが暗い」は「F値が大きい」と同じ意味です。といっても、このどちらでもわからない人もいるでしょう。正確さは犠牲にして、イメージしやすいようにいえば、「レンズのガラス玉の直径が小さい。そのために、直径いっぱいいっぱいに使っても、一度に取り込む光の量が少ない」です。

単焦点レンズに比べて構造が複雑なので、ズームレンズでは直径を大きくしにくいのです。がんばって単焦点レンズに近いF値にしているものもあるにはあります。ただ、大きく重く、値段も高くなってしまいます。

「大きく光を取り込めないので、高速のシャッタースピードも使えない」「イメージセンサーを高感度で使わなければならない場面が増え、画質が悪くなる」といった欠点があります。

また、写真表現の上では、背景を大きくぼかした写真は撮れません。被写界深度を浅くする(ピントが合っていない部分をいっそうぼかす)には、直径の大きなレンズを、その直径いっぱいいっぱいで使う必要があるのです。

・その2.撮り方が安直になる

実は、「レンズが暗い」は、私自身はそう大きな問題とは思っていません。「初心者ならば、最初からいい写真を撮れなくてもいいのでは」とも思います。

「撮り方が安直になる」の方が、はるかに大きな問題です。

レンズは焦点距離ごとに、写り方・撮り方に違いがあります。標準ズームがカバーしている焦点距離でいえば、次のようになります。

・広角・準広角(24〜35ミリ相当)=「広角」を「広い範囲の角度が入る」と考えるよりも、「近いものはより大きく写り、遠いものはより小さく写る」と考えた方がいい。肉薄して撮ることで、見せたいものをしっかりと強調できる。

・標準(50ミリ相当前後)=肉眼で見たときに近い表現ができる。それだけではなく、アングル次第で広角的にも望遠的にも写すこともできる。

・中望遠(85ミリ相当前後)=肉眼で見つめるのに近い画角になる。また、背景を大きくぼかすことができるのも、広角などにはない特徴。そのため、ポートレート撮影ではもっとも一般的に使われる。

単焦点レンズを常用し、これらの特徴をマスターしている人ならば、撮るものが決まったら、自動的にどのレンズを使うかも決まります。たとえば、「店内を背景にして、お店の備品を撮るのならば広角レンズ」「表情を中心にして友人を撮るのならば中望遠」といった具合です。

標準ズームしか知らない人であればどうでしょうか。友人のポートレート写真を撮るのには、たまたま立った場所からファンダーをのぞき、相手が小さければ望遠側に、大きければ広角側にズームするだけではないでしょうか。レンズは、「倍率が変えられる望遠鏡」にしかなりません。焦点距離ごとに異なる写り方・撮り方も、意識しているはずはありません。
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広角(24ミリ相当)であることを意識して撮影した一例。1枚目の写真では立ったまま目線の高さでカメラを構えているが、2枚目の写真では歩道に腹ばいになって撮っている。わざわざ腹ばいになるのは、「この焦点距離のレンズで、このアングルからならば、こう見える」と予測がついているからだ。

本気で覚えるのならば、最初のレンズは準広角&中望遠の単体2本

「単焦点の標準レンズ1本で始める」は、今でも「一見、回り道だが、実は上達の早道」だと思います。

ただ、すでに標準ズームを買ってしまった人もいるでしょう。あるいは、「すぐにいろいろなものを撮りたいから、標準ズームを買う」という人もいるでしょう。また、単焦点の標準レンズは、この先レンズがそろったときに、「この焦点距離で撮るものが少ない」となりがちです。

準広角と中望遠の2本の単焦点レンズで始めるといいかもしれません。「大学の写真学科で、特に報道系志望の学生に最初に使わせるレンズ」と聞いたことがあります。私がかつていた全国紙の写真部でも、指導係になる人によっては、新人にはこの2本だけを使わせていました。野生動物やスポーツでも撮らない限り、この2本でほぼ間に合います。

すでに、標準ズームも持っているのならば、「旅行などで、荷物はなるべく減らしたいとき用」「使わないと思っているけど、念のためにカバンに入れおく用」「準広角・中望遠の故障時の予備」と考えておけばいいでしょう。

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