商品開発・新技術投入で負け続けたニコン ユーザーとしての30年を振り返る

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今から3、4年前、私は約30年間使い続けたニコンをやめ、フジフイルムに乗り換えました。

それまでにも、「もうニコンはやめて、他社に乗り換えよう」と思ったことは、1度や2度ではありせん。振り返ってみると、乗り換えたくなった理由の背景には、いつも、ニコンの開発力の弱さ・新技術導入の遅さがありました。

これからのニコンも同様かどうかはわかりません。しかし、今から初めてカメラボディー・レンズを買う人、ニコンから他社、他社からニコンへと乗り換えようと考えている人のご参考にはなるだろうと思います。ユーザーとして見たニコンを語ってみます。

使い始めたころのニコン

今から40年ほど前の学生時代に、バイト代で初めてカメラ(一眼レフのフィルムカメラ)を買って以降、しばらくはキヤノンのユーザーでした。

その後、全国紙に入社しました。当初は取材記者だったにもかかわらず、人事異動の希望を出してそれが通り、写真部員(報道カメラマン)になりました。ニコンのユーザーになったのはそのときです。

よく、「プロ用のカメラはニコンとキヤノンが2強」といわれます。私がカメラマンとなった30年あまり前もそういわれていましたが、実は、報道関係に限るとニコンの圧勝でした。たとえば、プロ野球の試合のカメラマン席に行くと、キヤノンはせいぜい10人に1人か2人しかいませんでした。

私がニコンに切り替えたのも、「会社のカメラボディー・レンズの備品は全部ニコンでそろえている。キヤノンを使う人間がいると、備品を二重にそろえなければいけないし、そういったことはしない。お前もニコンにしろ」と先輩・上司から強要されたためです。

新技術に飛びつくキヤノン、慎重なニコン???

そのころに、ニコンとキヤノンを比較していわれていたことを、真偽は気にせずに列挙してみます。

(1)新聞社系の人はカメラの扱い方が荒いし、新聞紙面の印刷は粗い。出版社系カメラマン・雑誌紙面はこの逆。ボディーの頑丈さではニコン、レンズのよさではキヤノンになる。だから、新聞社系の人はニコンを使うし、出版社系の人はキヤノンを使う。

(2)ニコンはカメラ専業メーカーだが、キヤノンはファクスなどの事務機器も作っている。ニコンの方がカメラにまじめに取り組んでいる。

(3)キヤノンは新技術があると、すぐに採用する。一方、ニコンは慎重で、新技術はしっかりと検証して、信頼できるまで採用しない。

この(3)でいわれていた「新技術」とは、「内蔵露出計の電子化」「露出優先オート・シャッタースピード優先オート・プログラムオート」あたりだったと覚えています。この少し前までは、カメラボディーやレンズには電子部品はまったくなく、電池さえ要らないものでした。今の電子部品の塊とは雲泥の差です。

ニコンの敗戦の歴史

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振り返ってみて、「どうもウソだったな」と思うのは、(3)です。「ニコンは新技術の採用に慎重なのではない。技術開発力がない。その上、新技術採用のタイミングを間違うことも多い」といったように見えます。

その実例と思えることを、主にキヤノンと比較で挙げてみます。

(1)オートフォーカス方式
カメラメーカー各社がオートフォーカス機を出したのは、1980年代半ばから後半にかけてです。当初、ニコンはボディー内モーターを採用しました。キヤノンは当初から今までずっとレンズ内モーターです。

「ボディー内モーター」とは、その名前の通りです。レンズを装着すると、直径3ミリほどの軸がボディーとレンズの間で連結されます。この軸が回転することで動力がボディー側から伝わり、レンズ内のピント合わせの部品が動きます。

「ユーザーが持つ数は、一般的にボディーよりもレンズのほうが多い。モーターの数はボディーの数だけでいいので、全体で考えると安くなる」のがメリットとされました。一方、「広角レンズ・標準レンズ・望遠レンズ・超望遠レンズのどれもを、同じモーターで動かすことになる。大きなレンズに対しては非力」がデメリットです。

レンズ1本ごとにその内部にモーターを置く「レンズ内モーター」のメリット・デメリットはその逆です。超望遠レンズに限らず、合焦点速度(ピントが合うまでの速度)はレンズ内モーターを採用したキヤノンの圧勝でした。

今では、ニコンもレンズ内モーターに移行しました。特殊なものを除いてデジタル一眼レフ用のレンズ・ミラーレス用のレンズの全てにオートフォーカスのためのモーターが組み込まれています。また、ボディーの側ではモーターが省略される機種もでてきました。搭載しているものも、過去に販売された「ボディー内モーター対応のレンズ」のためです。

「キヤノンのレンズ内モーターの方が正解だった」というしかないでしょう。

(2)イメージセンサーのフルサイズ化
いくつか前史的な製品もあるものの、今のデジタル一眼レフ(デジイチ)につながる製品は、ニコンでは1999年発売の「D1」、キヤノンでは2000年発売の「EOS D30」が最初です。どちらも、イメージセンサーはAPS-Cサイズでした。

キヤノンがフルサイズ機である「EOS-1Ds」を出したのが、2002年です。一方、ニコンでの同様のものは、「D3」です。発売は2007年なので、キヤノンより5年遅れました。

APS-Cサイズのイメージセンサーは、フルサイズのイメージセンサーに比べて、約9分の4の面積しかありません。画素ひとつひとつの大きさが同じならば、面積が大きいほど多くの画素を並べることができます。画素数が同じならば、画素のひとつひとつが大きくなります。

実際には後者が意識されることが多く、「画素を大きくできるので、画素ひとつひとつが受ける光の量が増え、その分、正確に光の情報をキャッチできる。画質のきれいさにつながる」と説明されることがほとんどです。

現在では、ニコン・キヤノンとも、デジタル一眼レフの上位機種にはフルサイズ、下位機種にはAPS-Cサイズと使いわけて、カメラボディーを作り続けています。

このニコンが遅れたことについて、「ニコンは本当は、機能の上から考えると、イメージセンサーはAPS-Cサイズで十分と考えていたのではないだろうか」の意見も聞いたことがあります。しかし、この間に、高級機の多くの愛用者、特にプロカメラマンがニコンからキヤノンに乗り換えました。もし、「APS-Cサイズで十分と考えていた」が当たっているのならば、「機能の上」は今は触れませんが、「経営の上では判断を間違った」と考えてもいいかもしれません。

そうではなく、単に「フルサイズ機を作りたくても作れなかった」のならば、開発力でキヤノンに負けたことになります。

(3)ミラーレス機の投入
今、デジタル一眼レフを追いやる形で、ミラーレス機のシェアが伸びています。ここでも販売時期に差がつきました。

ニコンは2011年にミラーレス機「ニコン 1シリーズ」を発売しました。しかし、イメージセンサーの面積はフルサイズの7分の1程度しかありません。「コンデジと今のミラーレス機との間ぐらいの商品」といったところです。

APS-Cサイズ・フルサイズのミラーレス機に限れば、キヤノンは2012年、ニコンは2018年の参入です。

このニコンの2018年はソニーやフジフイルムに比べても目立って遅れました。理由としては、「自社の主力商品はあくまでデジタル一眼レフと考えていた。ミラーレス機を出すことで、自社のデジタル一眼レフの売り上げが落ちるのを懸念した」といわれています。

とうとう踏ん切りをつけてフジフイルムに乗り換えた

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私が最後まで残していたニコンの製品はミラー式のAPS-C機でした。フルサイズ機ほどではありませんが、重さが気になりました。「そろそろ“じいさん”といっていい年代になってきた。これからも撮り続けるには、重たいミラー式はやめて、軽いミラーレスに切り替えた方がいい」と判断しました。

たしか、ニコンの最初の本格的なミラーレス機が発売される直前、あるいは直後でした。実は、「長年のニコンの軛(くびき)から逃れる絶好のチャンスだ」と思い、ニコンの製品に対する興味は失っていたので、よく覚えていないのです。

フジフイルムを選んだ理由はいくつかありますが、ひとつは「APS-C機がメインで、フルサイズ機は作っていない」です。フルサイズよりもさらに大きなイメージセンサーの中判の製品は作っています。プロカメラマンの中でも、ポスターなどを撮る人向けの特殊なものです。「フルサイズを作る技術はあるが、あえてやっていない」と見ていいでしょう。

ニコンでは本当に考えていたかどうかわからない「APS-Cサイズで十分」を、フジフイルムではそう判断し、ぶれずに実践しているように思えました。

また、フジフイルムのボディーはすべてミラーレスで、デジタル一眼レフはありません。この割り切り方も、好ましく思えました。

電子部品の差が、カメラの性能の差を決めるようになった

最後に、「技術開発・新技術導入で、なぜ、ニコンはこんなにもキヤノンに負け続けたのか」の推論をひとつ挙げておきます。「電子部品で負けた。ニコンはカメラ専業だったので、電子部品の部門はなかった。一方、キヤノンはファクスやコピー機なども作っていたので、電子部品のノウハウを転用できた」

また、2006年に、コニカミノルタのカメラ部門を買収して、ソニーがデジカメに参入しました。電子部品についてはこれ以上の巨人は。そうはいません。「カメラの世界で、ソニーの存在がどんどん大きくなるのも当然だろう」と思ってみています。

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