恋のイルミネーション・外伝/星野るな

コンテンツ
音声・音楽

オリジナル曲とオリジナル小説のコラボ作品です。


前回のバレンタインの物語からの外伝です。
白雪ひかりの親友、星野るなの物語です。
この物語から3曲が生まれました。
①「KISSよりチョコがスキ!」→今風に「Choco > Kiss」です。1/15リリースしました。
②「いちごラブ」→今風に「いちご♡」です。2/15リリース
③「かじって恋して、ストロベリー!」2/15リリース
恋のイルミネーション本編

恋のイルミネーション物語 外伝 ~いちごとチョコの恋時間~星野るなを主人公にした物語

主要登場人物

星野 るな(ほしの るな)
年齢:17歳
性別:女性
立場:高校2年生、白雪ひかりの親友
性格:恋バナ担当で親友の背中を押す役。いちごとチョコがあれば幸せ。ズレた発言で周囲を和ませる。恋に対してはマイペースで、「急がない恋派」
役割:今回の主人公。一応気になる人はいるが、親友と甘いものがあれば満足。誰からも愛されるキャラだが、決してお節介ではなく、ほんの少し背中を押すタイプ

白雪 ひかり(しらゆき ひかり)
年齢:17歳
性別:女性
立場:高校2年生、るなの親友
性格:明るく、ちょっと照れ屋で感情表現が素直
役割:本編の主人公だが、今回は親友枠。るなの良き理解者であり、るなの"永久親友枠"

小日向 まな(こひなた まな)
年齢:16歳
性別:女性
立場:高校1年生、るなとひかりの後輩
性格:元気で憧れ体質。るなを「るな先輩」と慕っている
役割:るなの恋心に最初に気づき、さりげなくサポートする役割。純粋な応援者

桐生 蒼(きりゅう あおい)
年齢:18歳
性別:男性
立場:高校3年生、美術部部長
性格:穏やかで観察眼が鋭い。感性が豊かで、言葉選びが独特
役割:るなの「一応気になる人」。るなの"ズレた発言"を面白がり、自然体で接してくれる。るなが唯一「ちょっとドキドキする」相手

橘 ゆずは(たちばな ゆずは)
年齢:17歳
性別:女性
立場:高校2年生、るなのクラスメイト
性格:しっかり者でちょっと毒舌。でも根は優しい
役割:るなの恋を外側から冷静にツッコミつつ、実は誰よりも応援している

朝比奈 透(あさひな とおる)
年齢:18歳
性別:男性
立場:高校3年生、ひかりの恋人
役割:サブキャラ。ひかりとの関係を通じて「ゆっくり育てた恋」の先輩例として登場

舞台・設定

場所:
地方都市の高校とその周辺。商店街、カフェ、コンビニ、公園、そして冬から春にかけてのイルミネーションスポット
時代背景:
現代。2月の「いちごの日」周辺から始まり、バレンタインデーを経て、春の訪れまでを描く
物語の世界観を特徴づける重要な設定:
「るな基準の記念日」という概念。るなは日常の小さな幸せを勝手に記念日化する
いちごとチョコという二つの「甘さ」が、恋心のメタファーとして機能
「恋は急がなくていい」という、るな独自の恋愛哲学
ひかりと透の関係が「ゆっくり育てた恋の成功例」として物語の背景に存在

第1章: 赤い予感の2月

第1節:いちごの日の約束

「ねぇ、ひかり」
放課後の教室。窓から差し込む2月の柔らかな陽射しが、机の上のプリントを照らしている。
るなは鞄に教科書を詰め込みながら、隣の席のひかりに声をかけた。
「今日はいちごの日だよ。たぶん」
「……たぶん?」
ひかりは顔を上げて、くすっと笑った。その笑顔を見るのが、るなは好きだった。
「だってさ、赤くて、甘くて、なんか"今日はいちごだな"って日、あるじゃん」
「意味わかんない」
「わかんなくていいの。るな基準だから」
そう言いながら、るなは胸を張る。ひかりは呆れたように首を振ったが、その目は優しかった。
「で、どうするの? その"るな基準のいちごの日"」
「決まってるじゃん。いちご食べに行く」
「またコンビニ?」
「違う違う。今日は奮発」
るなはスマホを取り出して、画面をひかりに見せた。そこには、駅前のケーキ屋の期間限定メニュー——「苺づくしのショートケーキ」の写真が映っている。
「うわ、美味しそう」
「でしょ? 練乳クリームで、いちごが12粒も乗ってるんだよ。12粒!」
「数えたの?」
「当たり前じゃん。いちごは数えるもの」
ひかりは笑いながら立ち上がった。
「じゃあ、行こっか。るなのいちごの日、付き合うよ」
「ひかり、大好き!」
るなは嬉しそうに鞄を肩にかけた。
二人が教室を出ようとしたとき、廊下から元気な声が響いた。
「るな先輩、ひかり先輩!」
振り返ると、後輩の小日向まながこちらに駆けてくるところだった。ポニーテールが揺れて、笑顔が眩しい。
「まなちゃん、どうしたの?」
「あの、今日って暇ですか? 一緒にカフェ行きませんか?」
「ごめんね、まなちゃん。今日はいちごの日だから」
「……いちごの日?」
まなは首を傾げた。
「るな基準の記念日だよ」と、ひかりが代わりに説明する。「深く考えちゃダメ」
「あ、そういうやつですか! るな先輩らしい!」
まなはすぐに納得して、にこにこと笑った。
「じゃあ、また今度誘ってください! 楽しんできてくださいね!」
「ありがとう、まなちゃん。今度はまなも一緒に行こうね」
「はい! 約束ですよ!」
まなは嬉しそうに手を振って、階段の方へ走っていった。
「いい子だよね、まな」
「うん。るなのこと、すごく慕ってるよね」
「そうかな? でもまなは誰にでも優しいし」
「ううん、るなに対しては特別だよ。憧れてるんだと思う」
「え、なんで?」
ひかりは少し考えてから、言った。
「るなって、自分のペースを大事にしてるじゃん。周りに流されないっていうか。それが、まなには新鮮なんだと思う」
「……なんかよくわかんないけど、褒められてる?」
「褒めてるよ」
「やった」
るなは満足そうに笑った。
駅前のケーキ屋は、いつもより少し混んでいた。るなとひかりは、ショーケースの前で真剣な顔でケーキを選んでいる。
「ねぇ、ひかり。苺づくしのショートケーキと、いちごのミルフィーユ、どっちがいいと思う?」
「るな、さっき苺づくしって決めてたじゃん」
「でも、ミルフィーユもいいなって……」
「じゃあ、両方買えば?」
「え、いいの?」
「るなのお金でしょ」
「そうだった」
るなは少し考えて、店員さんに声をかけた。
「すみません、苺づくしのショートケーキを二つと、いちごのミルフィーユを一つください」
「三つも食べるの?」
「ひかりと半分こするから、実質二つ」
「……るな算だね」
二人はケーキを持って、近くの公園へ向かった。ベンチに座って、袋からケーキの箱を取り出す。
「はい、ひかりの分」
「ありがと」
るなは自分のショートケーキを開けて、フォークを手に取った。いちごが12粒、綺麗に並んでいる。
「……幸せ」
「まだ食べてないのに?」
「見てるだけで幸せなの」
ひかりは笑いながら、自分のケーキにフォークを入れた。
「ねぇ、るな」
「ん?」
「最近、ちょっとだけ顔違うよね」
るなは不思議そうにひかりを見た。
「え、太った?」
「違う違う。なんていうか……光ってる」
「なにそれ」
「イルミネーション前、みたいな顔」
ひかりは一瞬だけ黙って、フォークを止めた。それから、少し照れたように笑う。
「……るなって、そういうの気づくよね」
「恋バナ担当だからね〜」
るなは胸を張って、いちごを一粒口に入れた。甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
「でもさ、ひかり」
「なに?」
「恋ってさ、別に急がなくていいと思うんだ」
ひかりは少し驚いたように、るなを見た。
「…うん」
「甘いものみたいにさ、ゆっくり味わった方がいい」
「るな、それ……」
「ん?」
「なんか、深いこと言ってるよ」
「そう? でもほんとだよ。ほら、このいちごだってさ」
るなはフォークでいちごを一粒指した。
「一気に食べたら一瞬で終わっちゃうじゃん。でも一粒ずつ、ゆっくり食べたら、幸せな時間が長くなる」
「……たしかに」
「恋も同じだと思うんだよね。急いだら、ドキドキする時間が短くなっちゃう」
ひかりは静かに頷いた。
「るな、たまに名言言うよね」
「でしょ。いちご半分あげる」
「さっき一個もらったじゃん」
「友情ボーナス」
「なにそれ」
二人は笑いながら、ケーキを食べ続けた。
ケーキを食べ終えて、るなとひかりは公園のベンチで少しぼーっとしていた。夕方の空が、少しずつオレンジ色に染まっていく。
「ねぇ、るな」
「ん?」
「るなって、気になる人いないの?」
唐突な質問に、るなは少しだけ固まった。
「……いないこともない、けど」
「いるんじゃん」
「でも、"一応"だから」
「一応って?」
「なんていうか……好きって言うほどじゃないっていうか」
るなは少し考えて、言葉を選ぶ。
「ちょっとドキドキするくらい?」
「ふーん」
ひかりは意味ありげに笑った。
「誰?」
「……秘密」
「えー、るなのくせに教えてくれないの?」
「だって、まだ自分でもよくわかんないんだもん」
るなは頬を膨らませた。
「ひかりは朝比奈先輩のこと好きって、ちゃんとわかってたじゃん」
「それは……まぁ、ね」
ひかりは少し照れたように笑った。
「でも、るなは自分の気持ちに気づくのが遅いタイプなんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。いつも周りのこと見てるから、自分のことは後回しにしちゃうの」
「……そうかな」
るなは少し考え込んだ。
「でもさ、ひかり」
「なに?」
「恋してても、親友枠は永久契約だからね」
「なにそれ」
「破棄不可。更新不要。ずっと有効」
ひかりは一瞬驚いて、それから、ぎゅっと笑った。
「…当たり前でしょ」
その言葉に、るなは満足した。
「よし、じゃあ帰ろっか」
「うん」
二人は立ち上がって、公園を出た。
帰り道、商店街を抜けていると、るなの足が止まった。
「あ」
「どうしたの?」
「ちょっと待って」
るなは、道の先を見つめている。そこには、小さな画材店があった。店の前に、誰かが立っていた。
高校の制服を着た男子生徒。背が高くて、少し猫背。手には、スケッチブックを抱えている。
「……桐生先輩」
るなは小さくつぶやいた。
「え、誰?」
「美術部の部長」
ひかりは、るなの横顔を見た。るなの頬が、ほんの少しだけ赤い。
「もしかして……」
「違うから」
るなは慌てて否定した。
「ただの先輩だから」
「ふーん」
ひかりは意味ありげに笑った。
そのとき、桐生蒼がこちらを振り返った。るなと目が合う。
「あ、星野さん」
桐生先輩は穏やかに笑って、手を上げた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
るなは少し慌てて、頭を下げた。
桐生先輩はゆっくりと近づいてきた。
「今日はいい天気だったね」
「はい。あの、桐生先輩、画材買いに来たんですか?」
「うん。卒業制作の追い込みでね」
「そうなんですね」
るなは少し緊張しながら答えた。ひかりは、二人のやりとりをにこにこと見ている。
「星野さん、今日は"るな基準の記念日"?」
「え、なんで知ってるんですか?」
「前に聞いたじゃん。"るなは勝手に記念日を作る"って」
「あ……そうでしたっけ」
るなは少し恥ずかしそうに笑った。
「今日は、いちごの日です」
「いちごの日、か。いいね」
桐生先輩は本当に楽しそうに笑った。
「星野さんの"るな基準"、面白いと思うよ」
「……面白いって、変ってことですか?」
「違う違う。肯定的な意味で。普通の人は、カレンダーに書いてある記念日しか気にしないけど、星野さんは自分で幸せを見つけてる。それって、すごいことだよ」
るなは、少しだけドキッとした。
「……ありがとうございます」
「じゃあ、俺はこれで。また学校でね」
「はい」
桐生先輩は軽く手を振って、画材店の中に入っていった。
るなとひかりは、その場に立ち尽くしていた。
「……るな」
「なに?」
「顔、赤いよ」
「え、嘘」
るなは慌てて頬に手を当てた。
「絶対、桐生先輩のこと好きでしょ」
「違うから! ちょっとドキドキしただけだから!」
「それを"好き"って言うんだよ」
「……わかんない」
るなは頬を膨らませた。
ひかりは優しく笑って、るなの肩をぽんと叩いた。
「まぁ、るなのペースでいいよ。急がなくていいんでしょ?」
「…うん」
るなは小さく頷いた。
「でもさ、ひかり」
「なに?」
「桐生先輩って、なんでるなのこと"星野さん"って呼ぶのかな」
「え、それが気になるの?」
「だって、みんな"るな"って呼ぶじゃん」
「たしかに」
ひかりは少し考えた。
「でも、"星野さん"って呼び方、丁寧で優しいよね」
「…そうかな」
「そうだよ。桐生先輩、るなのこと大事にしてくれてるんだよ、きっと」
るなは少し照れたように、視線をそらした。
「……帰ろ」
「うん」
二人は並んで歩き出した。
その夜、るなは自分の部屋でベッドに寝転んでいた。スマホを見ながら、今日のことを思い返している。
いちごのケーキ。ひかりとの会話。そして、桐生先輩との短いやりとり。
「"るな基準、面白いと思うよ"、か……」
るなは小さくつぶやいた。
桐生先輩は、るなの"ズレた発言"を笑わない。いつも肯定してくれる。それが、るなにとっては少し特別だった。
「……でも、これって恋なのかな」
るなは天井を見上げた。
恋って、もっとドキドキするもの? もっと、相手のことばかり考えちゃうもの?
るなにはよくわからない。
「まぁ、いっか」
るなはスマホを置いて、目を閉じた。
「急がなくていいんだよね」
そう自分に言い聞かせて、るなは眠りについた。
窓の外では、冬の星が静かに輝いていた。
翌日の昼休み。るなはひかりと一緒に、屋上で弁当を食べていた。
「ねぇ、ひかり」
「ん?」
「バレンタイン、どうする?」
「どうするって?」
「朝比奈先輩にチョコ、あげるでしょ?」
「まぁ、うん」
ひかりは少し照れたように笑った。
「るなは? 桐生先輩に?」
「え、なんで?」
「だって、気になってるんでしょ?」
「……友チョコなら、あげてもいいかな」
「友チョコ?」
「うん。本命じゃないから」
ひかりは呆れたように笑った。
「るな、それ絶対本命でしょ」
「違うもん」
「ラッピング、絶対こだわるでしょ?」
「……わかんない」
るなは頬を膨らませた。
そのとき、屋上のドアが開いて、まながひょっこり顔を出した。
「るな先輩、ひかり先輩、いましたー!」
「まなちゃん、どうしたの?」
「あの、ちょっと相談があって……」
まなは少し恥ずかしそうに、二人の前に座った。
「実は、バレンタインのこと、なんですけど……」
「おお、まなも誰かにあげるの?」
「はい! 憧れの先輩がいて……」
「いいねぇ! 誰誰?」
るなは目を輝かせた。恋バナになると、るなは本当に楽しそうだ。
「あの、サッカー部の……」
まなは顔を赤くしながら、名前を言った。
「あー、あの人! いいじゃん! 爽やかで!」
「ですよね! でも、どうやって渡したらいいかわからなくて……」
「大丈夫大丈夫。まなの真っ直ぐな気持ち、きっと伝わるよ」
るなは自信満々に答えた。
ひかりは、その様子を微笑ましく見ていた。
「るなって、人の恋バナには積極的だよね」
「そりゃそうだよ。恋する人を応援するの、大好きだもん」
「……自分の恋は?」
「それは別」
るなはきっぱりと答えた。
「るなは、ゆっくり派だから」
ひかりとまなは、顔を見合わせて笑った。
「るな先輩って、ほんとマイペースですよね」
「でしょ?」
るなは誇らしげに笑った。
そして、ふと空を見上げた。
2月の空は、まだ少し冷たいけれど、どこか春の予感がした。
バレンタインまで、あと数日。
るなの心の中で、小さな予感が、ゆっくりと育ち始めていた。

第2節:チョコレートの告白準備

2月12日。バレンタインまで、あと2日。
放課後の家庭科室には、るな、ひかり、そしてクラスメイトの橘ゆずはの三人がいた。
「ねぇねぇ、るな。トリュフとガトーショコラ、どっちが簡単だと思う?」
ひかりがレシピ本を広げながら聞いた。
「うーん、トリュフじゃない? 丸めるだけだし」
「でも、丸めるの難しいんだよね」
「そうなの?」
るなは不思議そうに首を傾げた。
横でゆずはが、静かに自分のレシピを見ている。
「ゆずはは何作るの?」
「生チョコ。シンプルなのがいいかなって」
「へぇ、ゆずはっぽい」
「……それ、褒めてる?」
「褒めてるよ」
るなは笑った。
ゆずはは少し考えてから、るなに聞いた。
「るなは、何作るか決めた?」
「うーん、まだ迷ってて……」
「友チョコでしょ? なら何でもいいんじゃない?」
「……そうなんだけどね」
るなは言葉を濁した。
ゆずはは、るなの様子をじっと見た。
「……もしかして、友チョコじゃない?」
「え、ど、どうだろう……」
るなは視線をそらした。
ひかりがくすくすと笑っている。
「るな、わかりやすいよ」
「え、なにが?」
「さっきから、ラッピングの本ばっかり見てる」
「……これは参考資料」
「参考資料ね」
ゆずはは呆れたように笑った。でも、その目は優しかった。
「まぁ、るなのペースでいいんじゃない? 友チョコでも本命でも、るなが納得する形で作ればいいと思うよ」
「……ゆずは、優しいね」
「普段からこれくらい優しいわよ」
「それは嘘」
「……まぁ、否定はしないわ」
三人は笑い合った。
そのとき、家庭科室のドアがノックされた。
「失礼しまーす!」
元気な声と共に、まなが顔を出した。
「あ、るな先輩! ひかり先輩も!」
「まなちゃん、どうしたの?」
「実は、チョコ作りのこと聞きたくて……」
まなは恥ずかしそうに、手に持ったノートを見せた。そこには、チョコレートのレシピがびっしりと書かれている。
「うわ、すごい研究してるね」
「はい! 絶対失敗したくないので!」
まなの真剣な表情に、るなは微笑んだ。
「まなは偉いなぁ。ちゃんと準備してて」
「るな先輩も準備してるじゃないですか」
「え、してる?」
「してるわよ」とゆずはが横から言った。「さっきからラッピングの本見てたじゃない」
「あ、それは……」
るなは言葉に詰まった。
まなは、きらきらした目でるなを見つめている。
「るな先輩、誰かに渡すんですか?」
「……まぁ、一応」
「本命ですか?」
「わ、わかんない」
るなは慌てた。
まなは少し不思議そうな顔をした。
「わからない……んですか?」
「うん。なんていうか……友チョコなのか本命なのか、自分でもまだよくわかんなくて」
「そうなんですね」
まなは納得したように頷いた。
「でも、迷うってことは、その人のこと大事に思ってるんですよね」
「……そうかもしれない」
るなは少し照れた。
ひかりが優しく言った。
「るなは、自分の気持ちに気づくのがゆっくりなタイプだからね」
「そうなの?」
「そうだよ。でも、それがるなのいいところ」
「……ありがと、ひかり」
ゆずははクールに言った。
「焦る必要ないでしょ。るなは、るなのペースで作ればいいのよ」
「うん……」
るなは少しホッとした顔をした。
まなは、るなの隣に座った。
「あの、るな先輩」
「なに?」
「私も、実は迷ってるんです」
「え?」
「本命チョコって、どうやって渡したらいいのかなって……」
まなは真剣な顔で聞いてくる。るなは少し困った顔をした。
「うーん、るなもよくわかんないんだけど……」
「でも、るな先輩、恋バナ担当じゃないですか」
「恋バナは得意だけど、自分の恋はまた別っていうか……」
るなは言葉を濁した。
「でもさ、まな」
「はい?」
「素直な気持ちが一番大事だと思うよ」
るなは真剣に言った。
「まながその人のこと大事に思ってるなら、その気持ちをそのまま伝えればいいんじゃないかな」
まなは、るなの言葉に目を輝かせた。
「……るな先輩、やっぱりすごいです」
「え、なんで?」
「ちゃんと、大事なこと言ってくれるから」
まなは嬉しそうに笑った。
「私、頑張ります!」
「うん。まななら大丈夫だよ」
るなは優しく笑った。
ひかりがそんな、るなを見て、微笑んでいた。
「るなって、人の恋には的確なアドバイスするのにね」
「え?」
「自分の恋には、すごく慎重」
「……だって、よくわかんないんだもん」
るなは頬を膨らませた。
ゆずはが笑いながら言った。
「まぁ、それがるならしいけどね」
その夜、るなは自分の部屋でレシピ本を広げていた。
「トリュフ、ガトーショコラ、生チョコ……」
どれも美味しそうだけど、どれが桐生先輩に合うかわからない。
「うーん、難しい……」
るなはベッドに寝転んで、天井を見上げた。
スマホが震えて、LINEの通知が来た。ひかりからだ。
ひかり:るな、決まった?
るな:まだ迷ってる😭
ひかり:るならしいね笑
るな:ひかりは朝比奈先輩に何作るの?
ひかり:ガトーショコラ。朝比奈先輩、甘すぎないのが好きだから
るな:さすが、ちゃんとわかってるね
ひかり:るなも、桐生先輩の好み知ってるでしょ?
るなは少し考えた。桐生先輩の好み……。
そういえば、前に一緒にいちごパフェを食べたとき、「甘すぎないのが好き」って言ってた気がする。
るな:ビターチョコとかいいのかな?
ひかり:いいと思う!
るな:でもさ、ひかり
ひかり:ん?
るな:これって友チョコでいいのかな……それとも本命チョコなのかな……
ひかり:るな、どっちだと思う?
るな:わかんない……
ひかり:じゃあさ、こう考えてみたら?
ひかり:桐生先輩に喜んでほしい?
るな:喜んでほしい
ひかり:桐生先輩のこと、もっと知りたい?
るな:……知りたい
ひかり:桐生先輩と、もっと話したい?
るな:話したい
ひかり:なら、答えは出てるんじゃない?
るな:……そうなのかな
ひかり:焦らなくていいからね。るなのペースで、ゆっくり考えてみて
るな:うん、ありがとう
るなはスマホを置いて、もう一度レシピ本を開いた。
「ビターチョコのトリュフ、か……」
ページをめくると、ちょうどいいレシピが載っていた。カカオ70%のチョコレートを使った、大人向けのトリュフ。
「これにしよう」
るなは決心した。
友チョコか本命チョコか。
その答えは、まだ、るなの中ではっきりとは見えていない。
でも、桐生先輩に喜んでほしい。
その気持ちだけは、確かだった。
「ゆっくり、でいいよね」
るなは自分に言い聞かせた。
そして、次にラッピングの本を開く。
「友チョコなら、シンプルな袋でいいけど……」
るなは、色とりどりのラッピング例を見つめた。
リボン、レース、透明な袋、紙の箱……。
「……ちょっとだけ、特別にしたいな」
るなは、小さな紙の箱のページに目を留めた。シンプルだけど、温かみのあるデザイン。
「これなら……うん、これにしよう」
るなはそのページに付箋を貼った。
友チョコでも本命でも、大事な気持ちを込めて作る。
それが、今のるなにできること。
翌日、2月13日。バレンタイン前日。
放課後、るなは一人で製菓材料のお店に来ていた。
「カカオ70%のチョコレート……っと」
棚からチョコレートを手に取る。それから、生クリーム、ココアパウダー、そしてラッピング用の小さな箱。
レジに持っていくと、店員さんが笑顔で言った。
「明日、バレンタインですね」
「はい」
「お友達に?」
「……たぶん」
るなは少し曖昧に答えた。
「頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
るなは照れながら、袋を受け取った。
店を出ると、商店街の人通りがいつもより多い気がした。みんな、バレンタインの準備をしているんだろう。
るなは袋を抱えて、家に向かって歩き出した。
そのとき、前から誰かが歩いてくるのが見えた。
「あ……」
桐生先輩だった。
るなは一瞬、隠れようかと思ったけど、もう目が合ってしまった。
「星野さん、こんにちは」
「こ、こんにちは」
桐生先輩は穏やかに笑って、るなの手元の袋を見た。
「買い物?」
「はい。あの、ちょっと……」
るなは袋を後ろに隠した。
「明日、バレンタインだもんね」
「そ、そうですね」
るなは顔が熱くなるのを感じた。
桐生先輩は少し考えてから、言った。
「星野さん、チョコレート好き?」
「え? はい、大好きです」
「そっか。俺も好きなんだ」
「そうなんですか?」
「うん。特に、ビターなやつ」
るなは心臓が跳ねた。
「……ビター、ですか」
「そう。甘すぎないのがいい」
桐生先輩はにこっと笑った。
「星野さんは、どんなチョコが好き?」
「私は……いちごチョコとか、ミルクチョコとか」
「甘いのが好きなんだね」
「はい」
「星野さんらしいね」
桐生先輩の言葉に、るなは少し照れた。
「でも、たまにはビターも……気になります」
「そっか」
桐生先輩は優しく笑った。
「じゃあ、俺はこれで。また明日ね、星野さん」
「はい」
桐生先輩は軽く手を振って、去っていった。
るなは、その場に立ち尽くしていた。
「……ビター、好きなんだ」
るなは袋を抱きしめた。
「よかった……」
心臓がまだドキドキしている。
るなは深呼吸をして、家に向かって歩き出した。
その夜、るなの部屋のキッチンには、
カカオ70%のチョコレートと生クリームが並んでいた。
窓の外はすっかり暗くなり、街の灯りがちらちらと瞬いている。
「……失敗しませんように」
るなは小さく手を合わせてから、エプロンの紐をきゅっと結んだ。
鍋にお湯を張り、ボウルを重ねて、チョコレートをゆっくり溶かしていく。
湯気と一緒に、ほろ苦い甘い香りが部屋に広がった。
「……いい匂い」
思わず、顔がゆるむ。
混ぜる手つきはぎこちないけれど、不思議と嫌な緊張はなかった。
“桐生先輩、ビターが好きなんだ”
昼間の会話が、頭の中で何度もリピートされる。
偶然かもしれない。
でも、それでもいい。
「……喜んでくれたらいいな」
るなは小さく呟いた。
生クリームを加えて、丁寧に混ぜる。
少しだけ、とろみが出てきたところで、冷蔵庫へ。
固まるまでの間、るなはラッピングの箱を机の上に並べていた。
白い小箱に、淡いピンクのリボン。
派手じゃないけど、どこか温かみのあるデザイン。
「……友チョコっぽいけど、ちょっと特別」
それでいい。
今のるなには、それくらいがちょうどいい。
しばらくして、チョコレートが程よく固まった。
スプーンですくって、ころころと丸める。
「……丸、むずかしい」
一つ目は少し歪で、二つ目は少し大きすぎた。
三つ目で、やっとそれっぽい形になる。
「……まあ、味で勝負ってことで」
るなは自分に言い訳しながら、ココアパウダーをまぶした。
並んだトリュフは、不揃いだけど、どれも愛嬌がある。
それは、どこか自分自身みたいで、るなは少し笑った。
箱に詰める前、るなは一粒だけ味見をした。
「……苦いけど、おいしい」
甘さの中に、少しだけ大人っぽい苦さ。
桐生先輩の顔が、ふっと浮かぶ。
「……合うかな」
合ってほしい、というより、
“合ってくれたら嬉しい”くらいの気持ちだった。
チョコを箱に詰め終え、そっとリボンを結ぶ。
「……完成」
時計を見ると、もうすぐ日付が変わりそうだった。
るなはベッドに倒れ込み、天井を見上げる。
「……これ、友チョコかな。本命かな」
自分で作ったチョコなのに、
そこに込めた気持ちの名前が、まだわからない。
でも、ひとつだけ確かなことがあった。
「……渡したい」
それだけで、今は十分だった。

第2章: 溶けていく境界線

第1節:バレンタインのゆれる気持ち

2月14日。バレンタインデーの朝は、いつもより少しだけ空気が甘く感じた。
通学路では、可愛くラッピングされた袋を持つ生徒がちらほらいる。
るなも、鞄の中の小さな箱を、無意識に何度も確認していた。
「……あるよね」
ある。
ちゃんと、ここに。
教室に入ると、ひかりがすぐに気づいた。
「るな、おはよ。……その顔、もう作ったでしょ」 「え、わかる?」
「わかる。ちょっと誇らしそう」
「……そんなことないし」
そこへ、ゆずはがやってきた。
「るな、今日の予定は?」
「え、予定?」
「放課後。誰かに渡すんでしょ」
「……一応」
ゆずはは小さく笑った。
「まぁ、無理しないことね。
渡せなくても、るなの価値が下がるわけじゃないんだから」
「……ゆずは、たまに優しいよね」
「たまにって何よ」
ひかりがくすっと笑う。
「るな、大丈夫だよ。るなは、るなのペースでいい」
その言葉に、るなは少しだけ肩の力が抜けた。
「……うん」
放課後。
校舎の廊下は、いつもより少しそわそわした空気に包まれていた。
誰かが笑い、誰かが照れ、誰かが静かにすれ違う。
るなは、昇降口の前で立ち止まっていた。
「……今じゃなくてもいいよね」
そう思った瞬間、
前から見覚えのある背中が歩いてくる。
「……桐生先輩」
桐生先輩は、るなに気づいて、足を止めた。
「星野さん。どうしたの?」
「……あの、少しだけ時間いいですか」
声が、思ったよりも震えなかった。
それが、るなには少し不思議だった。
「うん」
二人は、校舎の外に出た。
冬の空気はまだ冷たいけれど、どこか春の匂いが混じっている。
るなは、鞄から小さな箱を取り出した。
「……これ」
桐生先輩は一瞬だけ驚いたように目を瞬かせてから、穏やかに笑った。
「もらっていいの?」
「……はい。友チョコ、です」
「“友”って言い切るんだね」
「……一応」
桐生先輩はその言葉に、くすっと笑った。
「ありがとう。星野さんらしいね」
「……そうですか」
「うん。無理してない感じがする」
るなは、少しだけ胸の奥が温かくなった。
「じゃあ、後でゆっくり食べるね」
「……はい」
それだけのやりとりなのに、
胸の奥に、小さな光が灯った気がした。
「……あの」
「ん?」
「今日は……るな基準の記念日、かもです」
「なんの?」
「“チョコの日”です。たぶん」
「たぶん、なんだ」
「はい。たぶんです」
桐生先輩は、楽しそうに笑った。
「じゃあ、その“たぶん記念日”、大事にするよ」
その言葉に、るなは少しだけ目を見開いた。
「……ありがとうございます」
桐生先輩は軽く手を振って、校舎の中へ戻っていった。
るなは、その場にしばらく立ち尽くしていた。
胸の奥が、じんわりと温かい。
ドキドキというより、ぽわっとした感覚。
「……これが、恋のはじまり、なのかな」
るなは、空を見上げた。
急がなくていい。
名前がつかなくてもいい。
でも、確かに、
今日という日は、るなの中で
“ちょっと特別なチョコの日”になった。
夜の部屋は、いつもより少し静かだった。
ベッドに腰掛けたるなは、
スマホを手に持ったまま、画面を見つめていた。
通知は、何も来ていない。
来るはずもないのに、
つい、何度もロック画面を点けてしまう。
「……変なの」
誰かに連絡をしたわけでもないし、
連絡先を交換したわけでもない。
それなのに、
胸の奥が、じんわりと落ち着かない。
布団にごろんと転がって、天井を見る。
今日のことを思い返すと、
桐生先輩の笑顔が、
やけに鮮明に浮かんでくる。
『じゃあ、その“たぶん記念日”、大事にするよ』
あの言葉。
「……たぶん、って言ったのに」
勝手に、ちゃんと受け取ってくれたみたいで、
それが、少し嬉しかった。
胸に手を当てる。
ドキドキ、というより、
ぽわっとした温度が残っている。
「……これでよかったんだよね」
本命って言わなかった。
でも、友チョコって言い切った。
逃げたわけじゃない。
ただ、今の自分にちょうどいい距離を選んだだけ。
「……急がなくていい」
るなは、そう呟いて、
目を閉じた。
カーテンの隙間から差し込む街灯の光が、
部屋の天井に、やさしく揺れていた。
その光を眺めながら、
るなは、ゆっくりと眠りについた。
翌朝。
少し寝不足のまま登校したるなは、
教室に入るなり、ひかりに見つめられた。
「……るな、昨日ちゃんと渡した?」
「……うん。一応」
「一応って何。どうだったの?」
「……普通。ちゃんと受け取ってくれた」
ひかりはほっとしたように笑う。
「よかったじゃん」
「……うん」
そこへ、ゆずはもやってきた。
「で?友チョコ?それとも……?」
「……友チョコ」
「即答なんだ」
「……即答です」
ゆずはは少しだけ意地悪そうに笑った。
「でもさ、るなの“友チョコ”って、 ちょっと特別そうだよね」
「……そうかな」
「そうだと思う」
ひかりが、くすっと笑う。
「るな、昨日の夜、何回スマホ見た?」
「……なんで知ってるの」
「図星でしょ」
るなは、小さくため息をついた。
「……見たけど、何も来てない」
「当たり前じゃん。連絡先知らないんでしょ」
「……うん」
ゆずはは肩をすくめる。
「まぁ、そういう“何も起きない夜”も、
 たまには悪くないでしょ」 「……そう、かも」
るなは、窓の外をちらっと見た。
昨日と同じ空なのに、
少しだけ明るく感じる。
「……でもね」
ひかりが、やさしく言った。
「何も起きなかったってことは、
 何も壊れてないってことでもあるよ」
「……壊れてない」
「うん。るなは、るなのペースで進めばいい」
その言葉に、るなは小さく頷いた。
「……急がなくていい、だよね」
ひかりとゆずはが、同時に頷く。
「そうそう」
「それそれ」
るなは、胸の奥に残っていた
昨夜のぽわっとした感覚を、思い出していた。
何かが始まった、とは言えない。
でも、何も始まっていない、わけでもない。
「……たぶん」
その“たぶん”が、
今のるなには、ちょうどいい言葉だった。
放課後、るなは、教室の隅で、
小さな紙袋をいくつか抱えていた。
「はい、るな。昨日のぶんね」
「ありがとう。はい、これ」
「今年のチョコ、可愛くない?」
「それ、絶対写真映え狙ってるでしょ」
「バレた?」
そんな軽いやり取りが、
教室のあちこちで交わされている。
ひかりも、にこにこしながらチョコを配っていた。
「るな、これ。いつもありがとうのやつ」
「……ありがとう。ひかりも」
包装を指でなぞりながら、
るなは小さく息をついた。
昨日の放課後とは、
空気がまるで違う。
今日は“バレンタインの翌日”。
恋のイベントの後で、
現実が少しだけ戻ってくる日。
「るな、昨日どうだったの?」
ゆずはが、からかうように聞いてくる。
「……普通」
「またそれ」
「普通です」
るなは、紙袋の中をちらっと見た。
チョコはたくさんあるのに、
なぜか、昨日渡した一個だけが、
やけに重く感じる。
「……でもさ」
るなは、ぽつりと言った。
「チョコの方が、キスよりドキドキするんだって。
しかも、幸せは4倍らしいよ」
「キスとかより、チョコの方が好きかも」
るなはそう言って、
何でもないみたいにチョコをかじった。
「は?」
「どういう理論?」
ゆずはとひかりが同時に突っ込む。
「だって、チョコってさ、
 あげても恥ずかしくないし、
 もらっても重くないし、
 甘いし……」
るなは少し考えてから続けた。
「気持ちを“包んで”渡せる感じがする」
「……それ、完全に恋の言い訳じゃん」
「違う。チョコの話」
「苦しいなぁ」
ひかりがくすっと笑った。
「でも、るならしい」
「……そうかな」
るなは、窓の外を見る。
昨日のことを思い出すと、
胸の奥が、また少しだけあたたかくなる。
「……今は、これでいい」
キスよりチョコ。
本命より“たぶん”。
それくらいの距離が、
今のるなには、ちょうどいい。
「チョコってさ、
 溶けても形変わっても、
 ちゃんと甘いじゃん」
誰に言うでもなく、そう呟く。
恋も、きっと同じだ。
今はまだ形が曖昧でも、
ちゃんと、甘い。
るなは、紙袋を抱え直して、
友だちの輪に戻っていった。
第2節:いちごフェアの偶然
土曜日。
るなは一人でデパートに来ていた。目的は、もちろん「いちごフェア」
「わぁ……すごい」
エントランスには、いちごをモチーフにした装飾が施されていて、甘い香りが漂っている。
るなは目を輝かせて、会場に入っていった。
「いちごタルト、いちごクレープ、いちごミルフィーユ……」
ショーケースには、色とりどりのいちごスイーツが並んでいる。るなは一つ一つ丁寧に見て回った。
「……全部、順番に食べたい……」
真剣な顔で悩んでいると、後ろから声がかかった。
「星野さん?」
るなは振り返った。
「え……桐生先輩?」
そこには、私服姿の桐生先輩が立っていた。黒いコートに、白いマフラー。いつもと違う雰囲気に、るなは少しドキッとした。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
るなは慌てて頭を下げた。
「桐生先輩も、いちごフェアに?」
「うん。甘いもの好きだからね」
桐生先輩はにこっと笑った。
「星野さん、一人?」
「はい。友達は今日予定があって……」
「そっか。じゃあ、よかったら一緒にどう?」
「え……いいんですか?」
「もちろん。俺も一人だったし」
桐生先輩は自然な笑顔で言った。
るなの心臓が、ドクンと跳ねた。
「……じゃあ、お願いします」
二人は、いちごフェアの会場をゆっくりと歩いた。
「あ、これ美味しそう」
るながショーケースの前で立ち止まった。そこには、いちごがたっぷり乗ったパフェが飾られている。
「いちごのプレミアムパフェ、か」
桐生先輩がメニューを読み上げた。
「練乳アイス、いちごソース、生クリーム……すごいボリュームだね」
「食べたい……」
るなは目を輝かせた。
「じゃあ、これにする?」
「でも、一人で食べきれるかな……」
「俺も食べるから、大丈夫でしょ」
「え、桐生先輩も?」
「うん。俺もいちご好きだし」
桐生先輩は笑った。
「じゃあ、注文しようか」
「はい!」
二人は、カフェスペースに入って、パフェを注文した。
窓際の席に座って、パフェが運ばれてくるのを待つ。
「星野さん、いちご好きだよね」
「はい、大好きです」
「いつから?」
「小さい頃からです。お母さんがよく、いちごのケーキを作ってくれて……」
るなは懐かしそうに笑った。
「それで、いちごが特別なものになったんです」
「いいね、そういうの」
桐生先輩は優しく言った。
「星野さんの"るな基準"も、そういう小さな幸せから生まれてるんだろうね」
「……そうかもしれません」
るなは少し照れた。
「桐生先輩は、甘いものいつから好きなんですか?」
「俺? 高校入ってからかな」
「意外と最近なんですね」
「うん。美術部に入って、デッサンのモチーフにケーキとか使うようになって……それで興味持った」
「へぇ」
「甘いものって、見た目も綺麗だし、描いてて楽しいんだよ」
桐生先輩は楽しそうに話した。
「特に、いちごはいい。赤い色が鮮やかで、形も可愛いし」
「桐生先輩、いちご描いたことあるんですか?」
「あるよ。今度見せようか?」
「見たいです!」
るなは目を輝かせた。
そのとき、店員さんがパフェを運んできた。
「お待たせしました。いちごのプレミアムパフェです」
「わぁ……!」
テーブルに置かれたパフェは、想像以上に豪華だった。いちごが山のように盛られていて、生クリームとアイスがたっぷり。
「すごい……幸せ……」
るなはうっとりと見つめてから、そっとスプーンを手に取った。
「写真、撮らなくていいの?」
桐生先輩がくすっと笑う。
「あ……撮ります!」
慌ててスマホを取り出し、角度を変えながら真剣な顔でパフェを撮る。
「いちごは……正義、なので」
ぼそっと呟いたるなに、蒼が吹き出した。
「なにそれ。名言?」
「るな基準です」
「じゃあ俺も賛成。いちごは正義」
そう言って、蒼もスマホで一枚だけ写真を撮った。
その仕草がどこか照れくさそうで、るなは少しだけ胸がくすぐったくなる。
「いただきます」
二人で同時にスプーンを入れる。
ひんやりとしたアイスと、甘酸っぱいソース。
口の中に広がるいちごの香りに、るなの頬がゆるんだ。
「……おいしい」
「でしょ。思ってた以上に、いちご強い」
桐生先輩は一口食べて、少し目を細めた。
「甘いだけじゃなくて、ちゃんと酸っぱいのがいい」
「わかります。甘いだけだと、途中で飽きちゃうんですよね」
「だよね。バランス、大事」
その“バランス”という言葉に、るなは一瞬だけ、ひかりのことを思い出した。
恋と距離感。甘さと、踏み込みすぎない優しさ。
――るな自身が無意識に選んできた距離。
「星野さん、こういうとこ来るときって、だいたい一人?」
桐生先輩がふと聞いた。
「はい。好きなものは、ひとりでゆっくり見たいタイプなので」
「わかる。人と来るのも楽しいけど、自分のペースって大事だよね」
そう言ってから、蒼は少しだけ視線を逸らした。
「……でも、たまには誰かと偶然一緒になるのも、悪くない」
るなはその言葉に、ほんの一瞬だけ言葉に詰まってから、頷いた。
「はい。今日みたいなのは……ちょっと、特別です」
桐生先輩は照れたように小さく笑った。
「じゃあ、この“いちごフェアの偶然”は、
 今年のいい思い出ってことで」
「はい。かなり上位に入ります」
そう言って、るなはもう一口、パフェをすくう。
いちごの赤が、春を先取りしたみたいに鮮やかで。
胸の奥にも、ほんのりと温かい甘さが残った。
その夜、るなは自分の部屋でベッドに寝転んでいた。
天井を見つめながら、胸の奥がまだ少しだけ甘くざわついている。
いちごパフェの余韻なのか、
それとも――偶然会った“桐生先輩”の笑顔のせいなのか。
スマホが、ぴこん、と小さく鳴った。
ひかり:
るな、いちごフェアどうだった?🍓
るな:
すごくよかった!
人多かったけど、楽しかったよ
ひかり:
何食べたの?
るな:
いちごパフェ
あと、いちごチョコクレープも…
ひかり:
欲張りすぎ😂
…で、一人で?
るな:
……桐生先輩と
ひかり:
え!?!?!?
それデートじゃん!!
るな:
ちがうよ!
ほんとに偶然会っただけだし!
席も空いてたから一緒に食べただけ!
ひかり:
はいはい😏
でもさ、それだけでドキドキする時点で
もう“恋の予感”ってやつじゃない?
るな:
……しないもん
チョコの方がドキドキするし
ひかり:
出た
「キスよりチョコが好きな女」
るな:
だってさ
チョコの方が
心臓ばくばくするんだもん
画面を見つめながら、るなは小さく息を吐いた。
本当は――
チョコよりも、キスよりも、
今日の“偶然”が一番ドキドキしていたことを、
ひかりには内緒のままで。
スマホを胸に抱えて、
るなは天井を見上げる。
(……でも、今日はチョコの勝ち、だよね)
そう心の中で言い訳しながら、
るなはゆっくり目を閉じた。
翌日の放課後。
まだ冬の名残りが残る風が、校舎の廊下をすり抜けていた。
るなは机に頬杖をついて、
ぼんやりと窓の外を眺めている。
そこへ、にやにやした顔のひかりが、
るなの隣の席に座った。
「ねえねえ、るな~
昨日の“偶然”どうだった?🍓」
「なにそれ」
「桐生先輩と、いちごフェアで「偶然」会って「偶然」一緒にパフェ食べたんでしょ~?」
「だから偶然だってば!
ひかりが変な言い方するからでしょ」
「でもさ
るな、昨日からちょっとだけ
顔やわらかいんだよね」
「気のせい」
「はいはい
チョコよりドキドキしちゃった?」
「ち、ちがうし
チョコの方が心拍数上がるし」
「はい名言きました
「キスよりチョコが好きな女」」
「もう!
それ言わないでって言ってるでしょ」
ひかりはくすっと笑った。
「じゃあさ、ホワイトデーはどうするの?」
「……は?」
「ほら
お返しあるかもじゃん」
「友チョコしかあげないし
変な期待しないで」
「ふーん😏
でもさ
もし桐生先輩から
ホワイトデーに何かもらったら」
ひかりは、わざとらしく間を置いてから言った。
「その時は
「チョコよりドキドキ」するんじゃない?」
「……しないもん」
そう言いながら、
るなの指先は無意識に
机の上ので手をきゅっと掴んでいた。
胸の奥が、
ほんの少しだけ、
昨日よりも速く鳴った気がした。

第3節:ホワイトデーのたぶん

3月14日。
朝から、るなは落ち着かなかった。
別に、期待しているわけじゃない。
チョコだって「友チョコ」って言い切ったんだから、お返しがあっても、なくても、どっちでもいい。
そのはずだった。
「……なんで今日に限って、学校来るのが早いんだろ、私」
下駄箱の前で、るなは小さくため息をついた。
いつもより20分も早く着いてしまった。
誰も来ていない廊下は、まだしんとしていて、窓から差し込む3月の朝の光だけが、静かに床を照らしている。
「……べつに、待ってるわけじゃないし」
誰に言うでもなく、そう呟く。
でも、靴を履き替えながら、無意識に3階の方向を見てしまった。
美術室のある、3階。
「……見てないし」
るなは正面を向き直して、教室へ向かった。
「おはよう、るな」
教室に入ると、ひかりがもう席に座っていた。
「おはよう。ひかり、今日早いね」
「るなこそ。20分も早くない?」
「……たまたま」
「ふうん」
ひかりは意味ありげに笑った。
「今日、何かあるっけ?」
「別に」
「3月14日だけど」
「……知ってる」
るなはそっと窓の外を見た。
「でも、友チョコしか渡してないから。関係ないし」
「はいはい」
ひかりはにこにこしたまま、何も言わなかった。
その笑顔が、るなには少しだけ憎らしかった。
1時間目、2時間目、3時間目。
るなはいつも通り授業を受けていた。
……いつも通り、のつもりだった。
でも、授業中に何度か教科書のページを間違えた。
先生に当てられたとき、少しだけ上の空だった。
「るな、大丈夫?」
隣のひかりが、小声で聞いてくる。
「大丈夫」
「顔、ぼーっとしてたよ」
「考えごとしてただけ」
「何の?」
「……いちごのこと」
「嘘だ」
るなは無言で教科書に視線を落とした。
お昼休み。
るなはひかり、ゆずは、まなの三人と、いつもの屋上へ向かった。
3月の空は、もう少しだけ春の色をしていた。風はまだ冷たいけれど、どこか柔らかい。
「ねえ、るな」
弁当を広げながら、ゆずはが言った。
「今日、何か来た?」
「……何が」
「とぼけないの」
「友チョコしか渡してないって言ってるじゃん」
「でも、相手がどう受け取るかは別でしょ」
るなは少し黙った。
「……来てない」
「今日はまだお昼じゃん」
「……うん」
まなが、おずおずと手を挙げた。
「あの、私、サッカー部の先輩から朝ちょっと呼ばれて……クッキーもらいました」
「おお!」
るなは目を輝かせた。
「それって脈ありじゃん!」
「そうですかね……! なんか、市販のものって言ってたんですけど……」
「関係ない関係ない。渡してくれたことに意味があるんだよ」
「……るな先輩、でも自分のことはどうなんですか?」
まなにそう言われて、るなは少し詰まった。
「……るなは見守り枠だから」
「見守り枠ってなんですか」
「自分の恋を遠くから眺めてる、みたいな」
「それって前に進んでないんじゃ……」
「まなちゃん、正論やめて」
ひかりとゆずはが同時に吹き出した。
「るな、さすがにそれは笑えないわよ」
「わかってるけど……だって、まだよくわかんないんだもん」
「何が?」
「自分の気持ちが」
るなは弁当のフタを閉めながら、空を見上げた。
「桐生先輩のこと、好きかどうか……まだはっきり言えないんだよね」
「でも、今朝20分も早く来たんでしょ」
「……ひかり、なんで知ってるの」
「顔に書いてある」
「……やだ」
るなは頬を膨らませた。
三人は笑った。でも、誰も急かさなかった。
それが、るなにはありがたかった。
放課後。
帰り支度をしているると、
「星野さん」
廊下から声がした。
振り返ると、桐生先輩が立っていた。私服じゃなくて制服姿。当たり前だけど、なんだかそれだけで少し心臓が跳ねた。
「桐生先輩……」
「ちょっといい?」
「は、はい」
二人は、廊下の端の窓際に移動した。
夕方の光が、斜めに差し込んでいる。
桐生先輩は、小さな紙袋をるなに差し出した。
「はい、これ」
「え……」
白い小さな紙袋。シンプルで、でもどこか丁寧な印象。
「バレンタイン、ありがとう。遅くなったけど、お返し」
「……いいんですか? 友チョコだったのに」
「友チョコでも、手作りのお返しは手作りで、って思って」
「て、手作りなんですか?」
「うん。不格好かもしれないけど」
るなは袋をそっと受け取った。中を覗くと、白い箱が入っていた。
開けていいですか、と聞くと、桐生先輩は頷いた。
箱を開けると、小さなクッキーが並んでいた。
星形と、まあるい形。ところどころ焦げているし、大きさもバラバラで、確かに不格好だった。
でも。
「……いちご味?」
クッキーの上に、細かく砕いたフリーズドライのいちごが散りばめられていた。
「星野さん、いちご好きだから」
桐生先輩はほんの少しだけ、照れたように視線を逸らした。
「……嬉しいです。」
「当たり前じゃん」
るなは、クッキーをじっと見つめた。
不揃いで、焦げていて、でもちゃんとイチゴが入っていて。
「……桐生先輩、クッキー作ったことあるんですか?」
「ない。初めて」
「初めてで、手作りで……」
「変だった?」
「変じゃないです」
るなは箱をそっと閉じた。
「すごく……嬉しいです」
「よかった」
桐生先輩は、ほっとしたように笑った。
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
廊下の向こうで、誰かの笑い声が聞こえる。
「あの、桐生先輩」
「ん?」
「食べていいですか、今」
「え、今?」
「……だめですか」
桐生先輩は少し驚いた顔をしてから、笑った。
「いいよ」
るなは箱を開けて、星形のクッキーを一枚取り出した。
一口かじる。
サクっとした食感と、ほのかな甘さ。それから、いちごのやわらかい酸味。
「……おいしい」
「本当に?」
「本当です。いちごがちゃんとする」
「焦げてるとこもあるのに」
「それも、味のうちです」
桐生先輩は少し笑って、窓の外を見た。
「星野さん、やさしいね」
「そうじゃなくて、本当においしいんです」
「……ありがとう」
今度は、桐生先輩の声がほんの少しだけ柔らかかった。
「あの」
るなが、もう一枚クッキーを手に取りながら言った。
「桐生先輩、卒業式、来週ですよね」
「うん」
「……寂しいな、ってちょっと思ってます」
桐生先輩は少し驚いたように、るなを見た。
るなは、クッキーをかじりながら続けた。
「急かすとかじゃないんですけど……なんていうか、先輩と話すの、好きだなって。最近ちゃんとわかってきたので」
「……好き、ね」
「はい。でも、それが恋なのかどうかは……まだ、たぶん、なんですけど」
るなは少しだけ笑った。
「"たぶん"ばっかりでごめんなさい」
「謝らなくていいよ」
桐生先輩は、静かに言った。
「たぶん、って言えるの、正直だと思うから」
「……正直すぎて、煮え切らないだけです」
「それでいいよ」
桐生先輩は窓の外に視線を向けたまま、続けた。
「俺も、星野さんと話すの好きだよ。それは確かで」
「先輩……」
「だから、卒業してもそれは変わらない。連絡もするし、帰ってくるし」
「……約束、ですよね」
「約束」
桐生先輩は笑った。
「星野さんが"たぶん"から"絶対"になったとき、ちゃんと教えてね」
るなは少し考えてから、言った。
「……教えます。たぶん」
「またたぶん」
「……絶対、に、してみます」
桐生先輩は、嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、るなの胸の奥が、じんわりと温かくなった。
チョコよりも、いちごよりも、もしかしたら。
そう思いかけて、るなはクッキーをもう一枚口に入れた。
「……おいしい」
「また言ってる」
「何回でも言います」
「……そういうとこ、好きだよ」
桐生先輩は笑いながらそう言って、軽く手を振って廊下を歩いていった。
るなは、しばらくその場に立ったままだった。
「……そういうとこ、好きって」
小さくつぶやく。
胸が、ドキドキしているのか、ぽわっとしているのか、わからない。
でも確かに、いつもより速く鳴っている。
「……これ、チョコよりドキドキしてる」
思わず声に出てしまって、るなは慌てて口を押さえた。
廊下には、もう誰もいなかった。
その夜。
るなはベッドの上で、白い箱を膝に乗せていた。
中に残ったクッキーを、一枚ずつ大事に食べながら、今日のことを思い返す。
不揃いで、焦げていて、でもいちごが入っていたクッキー。
「……初めて作ったって、言ってたな」
スマホが鳴った。ひかりからだ。
ひかり:るな、今日どうだった?ホワイトデー
るな:……来た
ひかり:え!!!何もらったの!?
るな:手作りのクッキー
ひかり:手作り!?!? それって完全に本命返しじゃん!!
るな:友チョコへのお返しだって言ってた
ひかり:いやいやいや
ひかり:手作りクッキーを友チョコのお返しにする男がどこにいるの
るな:……いちご入りだった
ひかり:完全にアウト(るなの意味で)
るな:どういう意味
ひかり:桐生先輩、絶対るなのこと好きだよ
るな:……そうかな
ひかり:そうだよ!で、るなは?
るなは少し手を止めた。
るな:……たぶん、好き?
ひかり:まだたぶんなの笑
るな:でも、今日は"たぶん"がちょっと強くなった気がする
ひかり:進歩じゃん!
るな:うん
るな:……チョコよりドキドキした、かも?
ひかり:きたーーー!!!
ひかり:「キスよりチョコが好きな女」がついに陥落!
るな:陥落って何?
ひかり:恋に、ってこと😊
るなはスマホを置いて、クッキーをもう一枚手に取った。
星形。不揃いで、ちょっと焦げていて。
でも、いちごの味がして、おいしかった。
「……急がなくていい」
るなはそう呟いてから、少しだけ笑った。
「でも、ちょっとずつ、わかってきてるよ」
窓の外には、3月の夜空が広がっていた。
星が、いつもより近く見える気がした。
「たぶん」から「絶対」になる日は、まだ先かもしれない。
でも、るなの恋は確かに、ゆっくりと、前に進んでいた。
翌日の放課後。
「るな先輩!!」
まなが廊下を走ってきた。
「どうしたの、まな、そんな慌てて」
「きいてください!昨日、お返しもらった話したじゃないですか」
「うん、クッキーね」
「今日また呼ばれて……一緒に帰りませんかって言われました!!」
「おお!」
るなは目を輝かせた。
「それ、完全にいい感じじゃん!」
「ですよね!? るな先輩、どうしたらいいですか!」
「行けばいいじゃん、一緒に帰れば」
「でも緊張して……」
「大丈夫。まなが笑ってれば、それだけでいいから」
まなはるなをじっと見た。
「……るな先輩、なんか顔がいつもより柔らかいです」
「え、そう?」
「はい。昨日、何かありましたか?」
るなは少し照れて、視線をそらした。
「……たぶん、ね」
「たぶん?」
「るな基準で言うと、"ちょっと特別な日"だった」
まなは、しばらくるなを見てから、ぱっと笑顔になった。
「よかったです! るな先輩が幸せそうで、私も嬉しいです!」
「大げさだよ」
「大げさじゃないです!」
まなは嬉しそうに、廊下を駆けていった。
るなはその後ろ姿を見送って、小さく笑った。
昨日もらったクッキーは、もう箱の中に三枚しか残っていない。
「……もったいないから、明日も食べよう」
るな基準で、三枚は"とっておく分"。
それくらい、大事な気持ちで。

第3章:桜イルミネーション

第1節:桜のつぼみは、まだ固く

3月15日。
卒業式の朝は、よく晴れていた。
るなは鏡の前で、制服のリボンを結び直した。いつもと同じ動作なのに、なぜか今日は手が止まる。
「……今日で、先輩は先輩じゃなくなるんだ」
小さくつぶやいて、深呼吸した。
昨日のことが、頭の中でまだじんわりと残っている。
白い箱。不揃いで、焦げていて、でもいちごが入っていたクッキー。
「星野さんが"たぶん"から"絶対"になったとき、ちゃんと教えてね」
あの言葉。
「……"絶対"に、してみます、って言ったのに」
るなは鏡の中の自分に向かって、小さく笑った。
まだ「たぶん」のままだ。でも、昨日よりは少しだけ、強くなった「たぶん」。
それで今日は、いい。
体育館は、朝からざわめいていた。
在校生が整列して、卒業生の入場を待っている。るなはひかりの隣に座りながら、ぼんやりと正面を見つめていた。
「るな」
ひかりが小声で話しかけてくる。
「昨日、クッキーもらったんでしょ。今日は大丈夫?」
「大丈夫だよ。なんで大丈夫じゃないことになってるの」
「だって、今日で桐生先輩が卒業するから」
「……うん」
るなは少し黙った。
「大丈夫、だよ。たぶん」
「また、たぶん」
「るな基準で"たぶん大丈夫"は、かなり大丈夫の方だから」
ひかりはくすっと笑った。
「るなって、ほんとにブレないよね。そこが、るなだよね」
「ブレてるよ、内側では」
「え、そうなの?」
「昨日から、ちょっとだけ落ち着かない」
るなは正直に言った。
「でも、先輩が卒業しても……終わりじゃないと思うから」
「そうだよ」
ひかりは優しく頷いた。
「始まりにだってなれる」
その言葉が、るなの胸にすとんと落ちた。
卒業生入場のBGMが流れ始めた。
厳かな音楽に合わせて、3年生が体育館に入ってくる。
るなは、自然と目で先輩を探していた。
列の真ん中あたり。いつもより背筋が伸びて、少し緊張した顔をして歩いてくる先輩が見えた。
「……先輩」
声には出さずに、るなは心の中でつぶやいた。
卒業式の制服姿は、なんだかいつもと違って見えた。同じ制服のはずなのに、今日は特別な重さを持っているみたいで。
(今日で最後なんだ、この制服姿)
そう思ったとき、胸の奥が、きゅっとした。
痛い、というより、温かくて切ない感じ。
るなは、膝の上でそっと手を握った。
式が終わって、体育館の外に出ると、あちこちで声が飛び交っていた。
「写真撮ろう!」
「先輩、ありがとうございました!」
「泣かないでよ、もう!」
笑い声と、泣き声と、春の風が混ざり合っている。
るなはひかりと並んで、その様子をしばらく眺めていた。
「るな、先輩のとこ行かないの?」
「……行っていいのかな」
「行けばいいじゃん」
「でも、後輩いっぱいいるし」
「るなも後輩だよ?」
「そうだけど……なんか、ちゃんとした先輩後輩ってわけでもないし」
ひかりは呆れたように笑った。
「るなって、こういうとき意外と奥手だよね」
「奥手じゃないもん。慎重なの」
「同じだよ、それ」
「違うもん」
二人はくすくすと笑い合った。
そのとき、まなが走り寄ってきた。
「るな先輩! ひかり先輩!」
「まなちゃん、どうしたの?」
「あの、写真いいですか? 三人で!」
「もちろん!」
まなのスマホを渡されて、通りかかった先輩に撮影をお願いする。三人並んで、カメラに向かった。
「はい、チーズ」
パシャっとシャッター音。
「あ、いい写真」
まなが画面を確認して、嬉しそうに笑った。
「先輩たち、来年も一緒にいてくれますよね?」
「もちろん」とひかりが答えた。
「……まなが飽きない限りはね」とるなも笑った。
「飽きません! 絶対!」
まなは力強く言って、それからふと、るなの方を見た。
「るな先輩、桐生先輩に挨拶、した?」
「……まだ」
「行った方がいいですよ。後悔しますよ」
「まな、まっすぐだね」
「だって、るな先輩のこと心配なので」
まなは真剣な顔でそう言った。
るなは少し照れながら、頷いた。
「……行ってみる」
桐生先輩は、校舎の外の渡り廊下の近くで、友人たちと話していた。
るなはしばらく遠くから様子を見ていたが、ひかりに背中をぽんと叩かれて、一歩を踏み出した。
近づくにつれて、蒼がこちらに気づいた。
「あ、星野さん」
「こ、こんにちは……あ、違う、おめでとうございます」
「ありがとう」
桐生先輩は優しく笑った。
周りの友人たちが、空気を読んでさりげなく離れていった。蒼と二人きりになる。
「今日、寒いね」
桐生先輩が言った。
「はい……でも、晴れてよかったです」
「だな。式の日に雨だと、なんか寂しいし」
少しだけ、間があった。
るなは、言いたいことが頭の中にたくさんあるのに、どれから言えばいいかわからなかった。
「卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
「……先輩と話すの、好きだったので」
「過去形?」
「あ、違います。好きです、今も」
桐生先輩はくすっと笑った。
「よかった。俺も好きだよ、星野さんと話すの」
「……先輩、美大、頑張ってください」
「うん、頑張る」
「いちご、食べてください」
「いちご?」
「えっと、その……気分転換とかに。甘いもの食べると元気出るから」
「るな基準?」
「るな基準です」
桐生先輩は笑った。その笑顔が、いつもより少しだけ眩しく見えた。
「星野さんはどうする? この先」
「え?」
「来年、3年生でしょ。勉強大変になるよ」
「……なんとかします、たぶん」
「たぶん、ね」
「"たぶん"が得意なので」
「知ってる」
二人は、また少し笑い合った。
言いたいことは、まだある。でも、今日はこれでいい。
それが、るなの中で静かに決まっていた。
「……これからも、元気でいてください」
「星野さんもね」
「はい」
るなは一歩引いて、ぺこりと頭を下げた。
「今まで、ありがとうございました」
桐生先輩は、少しだけ表情を和らげた。
「こちらこそ。……連絡、してもいい?」
るなは顔を上げた。
「え……」
「LINEとか。卒業したら関係なくなるのも、なんか寂しいし」
「……いいんですか?」
「嫌なら断ってくれていいけど?」
るなは少しだけ迷ってから、スマホを取り出した。
「……じゃあ、交換してください」
桐生先輩と画面を向け合って、IDを交換した。
「じゃあ、またね」
桐生先輩は軽く手を振って、友人たちのところへ戻っていった。
るなは、しばらくその場に立ったままだった。
スマホの画面に、追加された連絡先。
「桐生蒼」という名前が、さらっとそこにある。
「……なにこれ」
思わず声が出た。
胸の奥が、ドキドキしているのかぽわっとしているのか、よくわからない。でも確かに、いつもより速く鳴っている。
「……これ、チョコより全然ドキドキしてる」
校門の外に出ると、桜並木が続いていた。
つぼみはぷっくりと膨らんでいる。でも、花はまだ咲いていない。もう少し、あと少し、というところで、固く閉じたまま。
「ねぇ、るな」
隣に来たひかりが、桜を見上げながら言った。
「もうすぐ咲くね」
「うん」
「るなの気持ちみたい」
「……どういう意味」
「まだ咲いてないけど、ちゃんと春は来るって意味」
るなは桜のつぼみを見上げた。
赤みがかったつぼみ。開いていないけれど、ちゃんとそこにある。準備している、という感じ。
「……そうかな」
「そうだよ」
ひかりは優しく笑った。
「るな、桐生先輩に挨拶できた?」
「うん。連絡先も交換した」
「えっ!」
ひかりが声を上げた。
「それって進展じゃん!」
「向こうから言ってくれたんだけど」
「それでも!」
ひかりは嬉しそうに笑って、るなの腕を取った。
「るな、ゆっくりだけど、ちゃんと進んでるよ」
「……そうかな」
「そうだよ」
まなも走り寄ってきた。
「挨拶できましたか!?」
「うん、できた」
「よかったです! 顔、いつもより明るいですよ、るな先輩」
「そう?」
「そうです。なんか、すっきりした顔してます」
るなは、もう一度桜を見上げた。
まだ咲いていない。でも、もうすぐ咲く。
今のるなの恋は、ちょうどそんな感じだった。
「ね、ひかり」
「なに?」
「桜、いつ咲くかな」
「来週か再来週には咲くんじゃない?」
「そっか」
るなは少し笑った。
「じゃあ、咲いたら花見しよう。三人で」
「賛成!」とまなが元気よく言った。
「いいね」とひかりも頷いた。
「いちご大福、持ってくるね」とるなが言った。
「絶対いちごになるじゃん」
「だってるな基準だから」
三人は笑い合いながら、桜並木の下を歩いた。
その夜。
るなはベッドに仰向けになって、スマホの画面をじっと見ていた。
連絡先の一覧に、新しく追加された名前。
「桐生蒼」
「……なんか、まだドキドキするな」
るなは天井を見上げた。
ひかりからLINEが来た。
ひかり:るな、今日どうだった? 連絡先交換したって言ってたじゃん
るな:うん。先輩から言ってくれた
ひかり:それって脈ありじゃん!!
るな:どうかな……でも、嬉しかった
ひかり:るな、正直だね笑
るな:ひかりにはかくせないから
ひかり:で、気持ちはどう? まだ"たぶん"?
るなは少し考えてから、打ち込んだ。
るな:……たぶん、よりは少し強くなった
ひかり:どのくらい?
るな:チョコよりドキドキするくらい
ひかり:それって告白レベルでしょ!!
るな:そこまでじゃないもん
ひかり:でも進歩じゃん!
るな:うん……ゆっくりだけど、前に進んでる気がする
ひかり:それでいいんだよ、るな
ひかり:ゆっくりでも、ちゃんと咲くから
るな:……桜みたいに?
ひかり:そう、桜みたいに🌸
るなはスマホを置いて、カーテンの隙間から外を見た。
夜空に、月が浮かんでいる。
その光が、窓の外の桜の木をやわらかく照らしていた。
つぼみは、まだ固い。でも、ちゃんとそこにある。
「急がなくていい」
るなは小さくつぶやいた。
「でも、ちゃんと咲く」
今のるなにとって、その言葉は恋のことだけじゃなかった。自分自身のことでもあった。
スマホの画面を、もう一度点ける。
「桐生蒼」という名前を、静かに見つめる。
連絡は、まだしない。今日は、まだしなくていい。
でも、するとしたら。
「……いちごのこと、教えてあげよう」
るなは小さく笑った。
いちごフェアの新しい情報を見つけたとき。おいしいものを食べたとき。そういう、るな基準の記念日に。
それくらいの距離で、ゆっくりと。
カーテンの隙間の月明かりが、部屋の天井に静かに揺れていた。
るなは目を閉じた。
(ゆっくりでいい。でも、ちゃんと春は来る)
その確信が、胸の奥に、小さくて温かい光みたいに、灯っていた。


第2節:桜の光は、まだ遠く

 夜の空気は、まだ少し冷たかった。
 昼間の陽だまりが嘘みたいに、吐く息が白くほどける。
 「寒っ……でも、きれい……」
 るなは、思わず足を止めた。
 目の前に広がるのは、桜色のイルミネーション。
 本物の桜はまだ咲いていないのに、枝いっぱいに淡い光が灯っていて、夜の公園全体がやさしい桃色に包まれている。
 「写真、撮ろう撮ろう!」
 まなが楽しそうにスマホを構える。
 「はいはい、ちょっと待って」
 ひかりはるなの腕を引っ張って、無理やりフレームの中に入れた。
 「るな、顔かたいよ」
 「だって、まぶしいんだもん」
 「それはイルミネーションのせいじゃなくて、緊張してるだけでしょ」
 カメラのシャッター音が軽く鳴る。
 画面の中には、桜色の光に照らされた三人の姿が映っていた。
 「わぁ……なんか、卒業した実感がやっと来た感じする」
 まながぽつりと言った。
 「わかる。春って、始まりと終わりが同時に来る感じだよね」
 ひかりはイルミネーションを見上げながら言う。
 るなは、その言葉に小さく頷いた。
 終わったものと、これから始まるもの。
 その間に立っている感じがして、胸の奥が少しだけ落ち着かない。
 「ねぇ、るな」
 ひかりが、さりげなく声を落とす。
 「桐生先輩、来てないかな」
 「……さぁ」
 るなは、視線をそらした。
 本当は、無意識のうちに探していた。
 人混みの中に、見慣れた後ろ姿がいないか。
 でも、見つからないほうがいい気もしていた。
 「るな先輩、もし会ったらどうします?」
 まなが、ちょっと楽しそうに聞く。
 「どうもしないよ。挨拶するだけ」
 「それ、“どうもしない”に入らないですよ」
 「……るな基準では、入るの」
 ふたりがくすっと笑う。
 るなも、つられて少しだけ笑った。
 桜のイルミネーションの下には、小さな屋台が並んでいた。
 ホットチョコレート、桜餅、たい焼き。
 甘い匂いが、夜風にのって流れてくる。
 「たい焼き食べよ!」
 まなが迷いなく列に並ぶ。
 「るなは?」
 「……ホットミルク」
 「相変わらずだね」
 紙コップを両手で包むと、じんわりと指先が温まった。
 あたたかいものを持つと、気持ちまで少し落ち着く気がする。
 「るな、今日はどう?」
 ひかりが横に並んで歩きながら聞いた。
 「どう、って?」
 「卒業式から、ちょっと時間経ったでしょ」
 るなは、桜色の光を見上げた。
 作られた光なのに、不思議とやさしくて、本物みたいに揺れている。
 「……たぶん、前よりは落ち着いた」
 「たぶん、ね」
 「うん。るな基準で、かなり落ち着いた」
 ひかりは何も言わずに笑った。
 その笑顔が、るなにはありがたかった。
 歩いていると、遠くのほうに人だかりが見えた。
 ステージのような場所で、誰かがイベントの説明をしているらしい。
 スタッフらしき人たちが、イルミネーションの一部を調整しているのが見えた。
 (……あ、あそこ)
 一瞬、背の高い人影が視界に入った気がした。
 でも、よく見えなくて、すぐに人の流れに紛れてしまう。
 「るな先輩?」
 まなが不思議そうに覗き込む。
 「……なんでもない」
 本当に、なんでもなかったのかどうか、自分でもよくわからない。
 ただ、心臓が一瞬だけ、強く鳴った。
 「るな」
 ひかりが、静かに言った。
 「今日は、三人で楽しもう。ね」
 「……うん」
 それでいい。
 今日は、ただ桜の光の下で笑っていればいい日だ。
 三人で並んで歩きながら、イルミネーションのトンネルをくぐる。
 淡い光が、髪や制服の肩に降り注いで、現実と夢の境目みたいな景色をつくっていた。
 「来年は、本物の桜で花見しようね」
 まなが言う。
 「来年は、まなは受験生だよ」
 「え、やめてください現実……」
 「でも、来年も三人で来よう」
 ひかりが、やわらかく言った。
 るなは、ゆっくり頷いた。
 「……うん。約束」
 桜のイルミネーションは、まだ咲いていない花の代わりみたいに、夜の中で静かに光っている。
 本物の桜は、もう少し先。
 るなの気持ちも、きっとそれと同じ。
 まだ、咲いていない。
 でも、光の中で、ちゃんと春を待っている。


第3節:光の下で、偶然

 最終日の夜は、初日よりも人が多かった。
 口コミで広まったのか、桜色のイルミネーションのトンネルには、写真を撮る人たちの列ができている。
 るなは、一人で会場に来ていた。
 ひかりは用事があり、まなは家族と来るらしく、今日は珍しく別行動だ。
 「……ひとり、か」
 少しだけ寂しい。でも、不思議と落ち着いてもいる。
 イルミネーションの光は、ひとりで見ると静かで、考えごとがしやすい。
 桜の木に絡められたライトが、淡く揺れている。
 本物の桜はまだ固いつぼみのままなのに、光の花だけが先に咲いているみたいだった。
 (まだ咲いてないのに、こんなにきれいなんだ)
 そう思うと、胸の奥が少しだけ温かくなる。
 人の流れに乗って歩いていると、スタッフらしき人たちが脚立を立てて、ライトの角度を直していた。
 ケーブルをまとめたり、位置を調整したり、慌ただしい。
 (……あれ)
 その中に、見覚えのある横顔があった。
 黒いコートの下に作業用のエプロン。
 真剣な表情で、桜の枝にライトを結び直している。
 「……桐生先輩?」
 声に出す前に、足が止まった。
 見間違いじゃない。
 美術部のときによく見た、集中しているときの横顔だ。
 (ほんとに、手伝ってるんだ)
 蒼は、地域のアートボランティアとして、このイルミネーションの制作に関わっていると聞いていた。
 でも、こうして偶然会うとは思っていなかった。
 少し迷ってから、るなはそっと近づいた。
 「……桐生先輩」
 蒼は顔を上げて、一瞬きょとんとした後、すぐに表情を和らげた。
 「星野さん。来てたんだ」
 「はい……最終日なので」
 「そっか。ありがとう、来てくれて」
 “ありがとう”と言われる理由はないのに、その一言がなぜか嬉しかった。
 「制作、手伝ってるんですね」
 「うん。桜の枝の配置、ちょっと不安定でさ」
 蒼は、ライトが絡まった部分を直しながら言った。
 「こういうの、地味に大変なんだよ」
 「でも……すごくきれいです」
 るなは正直に言った。
 「まだ咲いてない桜なのに、ちゃんと春っぽくて」
 「それ、狙いなんだ」
 蒼は、桜のイルミネーションを見上げた。
 「本物が咲く前に、光で“予告編”を作る感じ」
 「予告編……」
 「うん。春はもうすぐだよ、って」
 その言い方が、なんだか先輩らしくて、るなは小さく笑った。
 「星野さんは、一人?」
 「はい。今日は別行動で」
 「そっか。……よかったら、少し一緒に見ていく?」
 作業の合間を縫って、蒼はそう言った。
 「いいんですか?」
 「ちょうど休憩入るところだったし」
 二人は、イルミネーションのトンネルの端にあるベンチに並んで座った。
 桜色の光が、静かに降りてくる。
 「……こうして見ると、作った人の気持ち、ちょっとわかる気がします」
 るなが言う。
 「どんな?」
 「咲いてないものを、咲いてるみたいに見せたくなる気持ち」
 蒼は、少し驚いたように目を細めた。
 「星野さん、たまに鋭いよね」
 「たまに、です」
 風が吹いて、イルミネーションが微かに揺れた。
 光の花びらが、ふわっと舞うみたいに見える。
 「でも、本物の桜が咲いたら、この光は消えるんですよね」
 「うん。役目終了」
 蒼は、穏やかに言った。
 「でもさ、消えるから意味がないわけじゃない」
 「……はい」
 「この光を見た人が、“あ、もうすぐ春だ”って思えたら、それでいい」
 その言葉が、るなの胸に静かに沁みた。
 (今の気持ちも、そんな感じなのかも)
 はっきり言葉にできないけど、
 ちゃんと“近づいている”って思えるだけで、少し前に進める。
 「先輩、美大、どうですか」
 「忙しいけど、楽しいよ。課題も多いけどね」
 「いちご、描いてます?」
 「まだ。桜ばっかり」
 蒼は苦笑した。
 「でも、もう少ししたら描くかも」
 「……そのときは、また見せてください」
 「うん。約束」
 少しだけ、間があった。
 でも、気まずさはない。
 夜の光の中で、沈黙もやさしくなる。
 「……星野さん」
 蒼が、不意に言った。
 「このあと、あったかい飲み物でもどう?」
 「……はい」
 それはデートじゃない。
 でも、ただの偶然よりは、少しだけ特別な時間。
 二人は並んで歩き出した。
 桜色のイルミネーションを背に、屋台の明かりのほうへ向かう。
 るなは、歩きながら思った。
 桜は、まだ咲いていない。
 でも、春はもう始まっている。
 そして、もうすぐ。
 いちごの花が咲く季節が来る。
 (そのとき、私は……)
 答えは、まだ“たぶん”のまま。
 でも、“たぶん”でもいいと思える夜だった。


オリジナル曲の歌詞紹介

①曲タイトル『Choco > Kiss』

【Intro】
きらきら チョコレート
ドキドキ はじまる恋の季節
【Verse 1】
心のなかで そっとKISS
甘くて溶けるこの気持ち
ほっぺもピンクに染まって
君の名前だけ見つめてる
【Pre-Chorus】
想いをチョコに詰めたら
どんな気持ちになるかな?
告白なんて映画みたい
でもね君に伝えたいの
【Chorus】
チョコよりKISSより
胸がぎゅっとなるよ
ハートの形で届けるね
「大好き…!」って言えたなら
世界がチョコの味になるの
Happy Valentine きっと今日だよ
【Verse 2】
放課後みんなでチョコ交換
友達の笑顔もおいしい
カカオに幸せ混ぜて
恋も友情も食べちゃおう!
【Pre-Chorus】
ねぇ見て 君が笑うたび
なんでこんなに嬉しいの?
このチョコ溶けるより早く
届けたい「大好き」を
【Chorus】
チョコよりKISSより
胸がぎゅっとなるよ
君にだけ味わってほしいの
照れちゃう視線そらしても
心はチョコより甘いの
Happy Valentine ゆっくり近づく
【Bridge】
ラッピングほどいた瞬間
未来がひらける気がした
“本命”なんてドキドキで
君にだけあげたいよ…!
【Final Chorus】
チョコよりKISSより
君と笑いたいよ
いっしょに食べればもっと幸せ
ハートにリボンをむすんで
恋も友情も抱きしめよう
Happy Valentine 今日が好き!
【Outro】
チョコとKISSのあいだから
ほんとの恋が生まれるの

②曲タイトル『いちご♡』

【Intro】
あまい予感が 近づいてくる
今日はいちごの日かもね♡
【Verse 1】
ショーケース越しに 目が合った
つやつや赤い 運命の粒
ひとつだけって 決めたのに
お皿の上で 笑ってる
【Pre-Chorus】
1粒 2粒 数えてたはずが
気づけばもう 止まらない
ダイエット? それは明日
今日は幸せ 優先でしょ
【Chorus】
いちご いちご だいすき!
練乳たっぷり とろけるキス
恋もいいけど 今はまだ
いちごがいちばん すきなんです
いちご いちご しあわせ!
ほっぺた落ちそう この瞬間
赤い魔法に 包まれて
今日もハートが 甘くなる♡
【Verse 2】
チョコソースかけて 背伸びして
大人味とか 言ってみる
ケーキにクレープ ミルフィーユ
選べないから 全部です!
【Pre-Chorus】
いちごフェアの 帰り道
袋の中で 揺れてる夢
カロリーよりも 大事なもの
「好き」って気持ち でしょ?
【Chorus】
いちご いちご だいすき!
サクサク ふわふわ 甘い恋
名前を呼ばれる その前に
いちごに 呼ばれちゃっただけ
いちご いちご しあわせ!
世界がちょっと やさしくて
赤い笑顔が 増えていく
今日はいちごに 恋してる♡
【Bridge】
もしも恋が 実ったなら
いちご半分 あげるかも
でも今はね 秘密だよ
この幸せ 独り占め♡
【Final Chorus】
いちご いちご だいすき!
何度だって 言いたいの
1粒ずつの ときめきが
毎日を 彩ってく
いちご いちご しあわせ!
季節はちょっと 違っても
いちごの 誘惑に
負けた私は 正解です♡
【Outro】
また明日も 会えるよね
いちご Love

③曲タイトル『かじって恋して、ストロベリー!』


【Intro】
Sweet & Dash!
ストロベリー・タイム!
いちご、いちご、いちごラブ
いちご、いちご、いちご好き
【Verse 1】
ショーケース越しに 赤く光る
主役みたいな その存在
一口目は ゆっくりねって
言われたけど 待てないよ
指についた 果汁みたいに
ドキドキが こぼれ落ちる
目が合っただけで
もう 甘さ限界!
【Pre-Chorus】
白く咲いた 小さな花
「尊重と愛情」って 意味を持つ
恋もちゃんと 育てたら
きっと 幸せに届くんだ
【Chorus】
かじって恋して ストロベリー!
甘酸っぱくて 止まらない
好きって気持ち 果汁100%
溢れて 染まってく
一番赤い 瞬間を
君と一緒に 味わいたい
未来を信じる この恋は
先見の明(ひかり)を 持ってるんだ
【Post-Chorus】
Hey! Strawberry!
Hey! 恋してる!
Hey! Strawberry!
Hey! 恋してる!
いちご、いちご、いちごラブ
いちご、いちご、いちご好き
【Verse 2】
練乳みたいな 優しさに
つい 頼りたくなるけど
素材そのままの 甘さが
一番 本物でしょ?
並んで洗った いちごみたい
形が違っても いいんだね
大事なのは
一緒に笑えること
【Pre-Chorus】
花から実へと 変わるまで
ちゃんと 時間がかかるんだ
「幸福な家庭」みたいな
未来を ちょっと想像した
【Chorus】
かじって恋して ストロベリー!
甘さだけじゃ 語れない
ちょっと酸っぱい この気持ちも
全部 好きなんだ
選んだ道が 正しいって
信じられる この想い
君となら この恋は
ちゃんと 実っていく
【Bridge】
もしも 傷ついた日が来ても
花はまた 咲くから
尊重し合う この距離が
恋を 強くする
【Final Chorus】
かじって恋して ストロベリー!
今が一番 フレッシュで
未来まで 続いてく
甘さを 分け合おう
赤くなったら 約束ね
一緒に 笑おうね
恋もいちごも 大好きって
胸を張って 言える日まで!
【Outro】
Sweet & Dash!
恋してる!
ストロベリー!

小説とオリジナル曲同時作成します

世界観をまるごと形にしてみませんか?
あなたの
・想い
・大切な人
・オリジナルキャラクター
・忘れられない出来事
それらをもとに、 オリジナル小説+その物語のためだけのオリジナル曲を制作します。
文章だけでは伝えきれない感情を
音楽がそっと包み込み
音楽だけでは描けない情景を
物語が広げていきます。
✔ 世界観重視
✔ ふんわり依頼OK
✔ 完全オリジナル
✔ AIを活用した高品質制作
AI技術を活用し、クリエイターの感性で構成・調整を行っています。
「読む」「聴く」だけでなく “感じる作品”を求めている方へ。

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