前回の冬物語の続編です。
この続編はバレンタインの物語です。
この物語から次の曲が生まれました。
曲名は「チョコの魔法」
本日1/15YouTube music・Spotify・Apple Music・Amazon Music・楽天Musicなどからリリースです。
第3章 バレンタイン 第1節「2月のはじまり」
二月になった途端、街の色が少し変わった気がした。
赤とピンク。
ハートの形。
チョコレートの甘い香り。
「……もう、そんな季節なんだ」
駅前の特設コーナーに並ぶ箱を横目に見ながら、私は小さく息を吐いた。
クリスマスが終わって、年が明けて、気づけば二月。
彼とは、変わらず連絡を取り合っている。
週に一、二度は会って、イルミネーションの残る道を歩いたり、カフェに寄ったり。
なのに。
「……私たちって、今なんなんだろう」
答えは、まだ言葉になっていなかった。
スマホが震える。
――おはよう
――今日、寒いね
画面を見ただけで、自然と頬が緩む。
「おはよう。ほんと寒い」
送信してから、少しだけ間を置く。
「……ねえ」
文字を打っては消して、また消して。
「今度、いつ会える?」
それだけを送った。
――今週末どう?
――ちょうど空いてる
胸が、少しだけ軽くなる。
「うん。会いたい」
そう返すと、
――俺も
たった三文字なのに、心臓が跳ねた。
でも、そのあとに続く言葉を、私は無意識に待ってしまう。
「……好き、とか」
来ない。
それが、少しだけ苦しかった。
昼休み、同僚と一緒にチョコレート売り場を覗いた。
「今年どうするの?」
「彼氏いるんだっけ?」
「……ううん」
そう答えると、少しだけ間ができる。
「でも、気になる人はいる?」
「……うん」
「じゃあ本命じゃん」
本命。
その言葉が、胸に落ちる。
「でも……まだ、はっきりしてなくて」
「えー、なにそれ。もどかしい」
笑われても、否定できなかった。
帰り道、ショーウィンドウに映る自分を見る。
少し考え込んだ顔。
「……このままで、いいのかな」
彼と過ごす時間は、好き。
優しくて、楽しくて、あたたかい。
でも、このまま曖昧な関係でいるのは、少しだけ怖い。
夜、部屋でベッドに座りながら、スマホを手に取る。
――週末、楽しみにしてる
彼からのメッセージ。
「……私も」
そう返信してから、胸に手を当てた。
「……バレンタイン」
もうすぐだ。
渡す?
渡さない?
言う?
言わない?
チョコレートは、ただのお菓子じゃない。
気持ちを形にしてしまうもの。
「……逃げたくないな」
小さく、でもはっきりと呟いた。
窓の外では、イルミネーションの名残が、まだ淡く光っている。
冬は、終わりに近づいている。
でも、この恋は――
今、試されようとしていた。
第2節「渡したいもの」
二月の空気は、冬の終わりを知っているみたいに、少しだけやわらかかった。
それでも吐く息はまだ白くて、夜のイルミネーションの中で、ふわりと消えていく。
「……寒い?」
隣を歩く彼が、少し照れたように聞いてくる。
「ううん、大丈夫」
本当は少しだけ寒い。でも、それ以上に胸の奥が落ち着かなくて、
寒さのことなんて、どうでもよくなっていた。
バッグの中。
小さな箱が、わずかに重さを主張している。
(……まだ、言えない)
それは“告白”じゃない。
でも、ただのお菓子でもない。
――言葉よりも先に、渡したいもの。
「今日さ、イルミネーション、前より明るくない?」
彼が空を見上げて言う。
「うん。なんだか……キラキラしてる」
自分の声が少し上ずっているのが、わかってしまって、
私は誤魔化すように笑った。
ツリーの前で立ち止まると、
白と金色の光が、ふたりを包み込む。
その瞬間、胸の奥で、何かが決まった。
「……ねえ」
「ん?」
彼が振り向く。
その笑顔が、いつもより近くて、心臓が跳ねる。
「あのね……これ」
バッグから取り出した、小さな箱。
リボンは何度も結び直したから、少しだけ不格好だ。
「え?」
一瞬、彼が驚いた顔をする。
「まだ、その……特別な日じゃないけど」
声が震える。
でも、止まらない。
「気持ちだけ、先に……渡したくて」
彼は黙ったまま、箱を受け取った。
開ける音が、やけに大きく聞こえる。
「……手作り?」
「うん」
頷くと、彼は小さく笑った。
「すごいな。こういうの」
「え?」
「……嬉しい」
たったそれだけの言葉なのに、
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「ありがとう」
その一言が欲しかった。
それだけで、全部報われる気がした。
ツリーの光が、彼の横顔を照らす。
「……魔法みたいだな」
「え?」
「チョコなのにさ。なんか……心にくる」
私は思わず、息を吸った。
(ああ……届いてる)
言葉にしなくても。
まだ「好き」って言えなくても。
この距離、この空気、この夜。
手と手が、そっと触れて、
どちらからともなく、指が絡む。
「冷たい」
「……あったかいよ」
彼がそう言って、少しだけ強く握った。
イルミネーションの向こうで、
小さな花火が、音もなく咲く。
冬の夜に、甘い予感が広がっていく。
(きっと、この魔法は――)
今日だけじゃ、終わらない。
そう思えた夜だった。
第3節「伝えた言葉、受け取った気持ち」
チョコレートを渡した夜から、数日が過ぎた。
街の空気は、少しだけ変わった気がする。
同じ道、同じ光。
それなのに、胸の奥が落ち着かないまま、時間だけが進んでいった。
(……あのまま、でいいのかな)
返事を急がせたくなかった。
でも、何も変わらないまま終わるのも、怖かった。
そんな気持ちを抱えたまま、
私は彼と、いつものイルミネーションの場所に立っていた。
「ここ、やっぱり好きだな」
彼が言う。
「うん……私も」
光が、ゆっくり瞬いている。
白い息が、ふたりの間で溶ける。
沈黙。
でも、嫌じゃない。
「……この前のさ」
彼が、少しだけ真剣な声で言った。
心臓が、跳ねる。
「チョコ。あれ……すごく嬉しかった」
「……ほんと?」
「うん」
彼は頷いて、少しだけ視線を逸らす。
「正直に言うとさ……あれもらってから、ずっと考えてた」
私は、何も言えずに、ただ聞いていた。
「言葉じゃなかったのが、逆によかった」
「え……?」
「“好き”って言われたら、嬉しいけど、
それと同時に、ちゃんと返さなきゃって思うだろ?」
確かに。
私は、小さく息を吸った。
「でも、あのチョコは……」
彼は、ゆっくりと言葉を探す。
「待ってくれてる感じがしてさ」
胸の奥が、ぎゅっとなる。
「だから、俺も……ちゃんと伝えたいって思った」
彼が、こちらを見る。
イルミネーションの光が、瞳に映る。
「……好きだよ」
短い。
でも、はっきりとした声。
一瞬、世界の音が消えた気がした。
「……私も」
言葉は、思ったよりも自然に出た。
「ずっと……好きだった」
彼が、少し驚いたように目を見開いて、
それから、照れたように笑う。
「そっか……」
その笑顔を見た瞬間、
胸の奥で、何かがほどけた。
彼が、そっと手を伸ばす。
「……手、いい?」
「うん」
指と指が、重なる。
前よりも、ずっと自然だった。
「寒くない?」
「……平気」
「無理すんなよ」
「してない」
そんな、どうでもいい会話が、
全部、愛おしい。
光の向こうで、小さな花火が上がる。
ぱっと咲いて、すぐ消える光。
「ね」
私が言う。
「この冬、ちゃんと覚えておきたい」
「俺も」
「きっと、忘れないよね」
「忘れない」
彼は、少しだけ力を込めて、手を握った。
白い息が、ふたつ重なって、夜に溶ける。
言葉は、ちゃんと届いた。
気持ちは、ちゃんと受け取った。
それだけで、
この冬は、十分すぎるほど、あたたかかった。
第4節「余韻と日常の変化」
朝の空気が、少しだけ軽く感じられた。
同じ時間に起きて、同じ道を歩いているはずなのに、
足取りが、昨日までとは違う。
(……付き合う、って)
言葉にすると、まだ少し照れる。
でも、確かにそこにある。
スマートフォンが震えた。
おはよう
今日、寒いから気をつけて
それだけのメッセージなのに、
胸の奥が、きゅっとなる。
おはよう
ありがとう。そっちもね
送信して、画面を閉じる。
それだけで、少し笑ってしまう自分がいる。
学校の帰り道。
駅までの道が、いつもより短く感じた。
「待った?」
彼は、いつもの場所に立っていた。
「ううん、今来たとこ」
本当は、少し早く着いていたけれど。
並んで歩く。
自然に、距離が近い。
手をつなぐわけでもないのに、
肩が触れるだけで、心臓が跳ねる。
「……昨日さ」
彼が言う。
「うん?」
「夢に出てきた」
「えっ」
「普通に歩いてただけなんだけどな」
そう言って、少し照れたように笑う。
「それだけで、目が覚めた」
胸の奥が、ふわっと温かくなる。
「……私も」
「え?」
「夢、見た」
内容は言わない。
言わなくても、伝わる気がした。
帰り道のイルミネーションは、
もうすぐ終わる準備をしているみたいで、
光の数が、少し減っていた。
「寂しい?」
彼が聞く。
「ううん」
私は首を振る。
「だって……終わっても、残るものがあるから」
「……それ、俺?」
「たぶん」
彼が、くすっと笑う。
少しだけ、勇気を出して、袖を引いた。
今度は、彼のほうから、手を伸ばす。
指が絡む。
前よりも、ずっと自然に。
白い息が、夜に溶ける。
「なんかさ」
彼が言う。
「世界、変わった気しない?」
「……うん」
「でも、全部同じなのに」
「同じだから、いいんだよ」
イルミネーションの光が、
ゆっくりと瞬く。
特別なことは、何も起きていない。
でも、確かに、日常は変わった。
それは、静かで、あたたかくて、
いつまでも続いてほしい余韻だった。
第5節「未来への予感」
バレンタインが過ぎると、
街の空気は、ほんの少しだけ変わった。
甘い匂いが消えて、
代わりに、どこか軽やかな気配が混じる。
夕方、駅前の広場。
イルミネーションは、もうほとんど片付けられていた。
光の支柱だけが残っていて、
そこに、春を待つ静けさがある。
「こうして見ると、終わるんだなって感じるね」
彼が言う。
「うん……でも、ちゃんとあったって思える」
「うん」
短い言葉でも、心が揃っているのがわかる。
ベンチに並んで座る。
手袋越しの手が、そっと触れ合う。
「ねえ」
彼が、少しだけ間を置いて言った。
「春になったら、何したい?」
突然の質問に、少し考える。
「……お花見?」
「いいね」
「桜の下で、また歩きたい」
彼は、空を見上げた。
「今度は、白じゃなくて、ピンクの息だな」
「なにそれ」
「なんとなく」
くすっと笑う。
遠くで、工事の音がする。
次の季節を準備する音。
私は、そっと言った。
「来年の冬もさ」
「うん?」
「また、一緒に見たいな」
「イルミネーション?」
「うん」
少しだけ、勇気を出した言葉。
彼は、すぐに答えなかった。
でも、手を強く握り返す。
「……絶対」
それだけで、十分だった。
夜空には、星が少しだけ見えた。
もう花火は上がらないけれど、
胸の中では、静かに光っている。
恋は、はじまったばかり。
でも、終わりの見えない道を、
二人で歩き出した気がした。
冬の光は、もうない。
それでも、心の中には残っている。
次は、春。
まだ知らない景色が、
きっと、待っている。
恋のイルミネーションの小説読んでいただきありがとうございます🙇♀️
本来は続きが有るのですがバレンタインの章で一旦〆ます。
チョコの魔法はこの章から出来上がりました。
チョコの魔法は恋する女の子がチョコの魔法で告白ですが
KissよりもChocoが好きな女の子の曲も生まれました。
最初の曲タイトル案『KISSよりチョコがスキ!』でしたが、
今風に『Choco > Kiss』(KISSよりチョコがスキ!)です。
KissもChoco甘いですがChocoはKissする時の幸福感が4倍以上・心拍数が2倍以上に跳ね上がるとも言われています。
物語+オリジナル曲作成します。
小説とオリジナル曲同時作成します 世界観をまるごと形にしてみませんか? | ココナラ
あなたの・想い・大切な人・オリジナルキャラクター・忘れられない出来事それらをもとに、オリジナル小説+その物語のためだけのオ