※まずは深呼吸
リラックスしてゆっくり読み進めてください
湿った空気が頬を撫でていく。
足元のアスファルトはまだ昨夜の雨を吸い込んだままで、ひんやりとした冷たさが足裏越しに伝わってくる。
その道を歩くたび、何かが胸の奥でじわじわと疼く。
遠くから聞こえる車のタイヤが水を切る音さえ、どこかやりきれなさを感じさせた。
街灯はその光を惜しむかのように弱く揺れている。
見上げれば、夜の端がわずかに色を変え始めていた。
青とも灰ともつかない、その曖昧な空の色。
しばらく眺めていると、自分の輪郭すらその空に溶けていくような気がしてくる。
一歩、また一歩。
足を進めるたび、靴が水たまりを軽く弾く音が響く。
耳に入る音はそれだけだ。
街はまだ眠っていて、聞こえるのは自分の呼吸と、心臓が僅かにリズムを刻む音だけ。
ふと立ち止まる。
目の前に広がる広場の真ん中に、一本の木がそびえていた。
葉を落とし、枝だけになったその木は、まるで静かに何かを語りかけてくるようだった。見ていると、不意に胸がぎゅっと締め付けられる。
その木の根元に、何かが置いてあるのが見えた。
近づいていくと、それは古びたギターだった。
弦はところどころ錆びていて、きっと長い間ここに置かれていたのだろう。
誰が置いたのかも、なぜこんなところにあるのかもわからない。
でも、不思議とその存在が気になった。
手を伸ばしてギターを持ち上げると、思った以上に軽かった。
軽いけれど、その重さがどこか心地よい。
ふと指先が弦に触れた。その瞬間、小さな音が空気を震わせた。
音は不安定で、不揃いで、どこか心許ない。
それでも、静かだった空気が少しだけ揺れた気がした。
「これでいいんだ」と、どこかから声が聞こえた気がした。
いや、声なんて聞こえるはずがない。
ただ、そんな言葉が浮かんできただけだ。
再び弦に触れる。
今度は意識的に、少し強めに音を鳴らす。
その音はさっきよりも力強く、少しだけ輪郭を持って広がっていった。
夜明け前の空に吸い込まれていくような感覚。
指がぎこちなく動くたび、音が次々と生まれていく。
その一つ一つが、不思議と胸に響く。
どんな音であろうと、どんなに不揃いであろうと、それがここに響いているということ自体に、なぜだか涙が出そうになった。
目の前の空は、いつの間にか薄明るさを増していた。
灰色の雲が少しずつ色を変え、橙色の光がその隙間から差し込む。
どこか遠くで鳥が鳴いた。
ギターを抱えたまま、空を見上げる。
その時、胸の奥にわずかだけど確かなものが灯った。
それは小さな火花のようで、かすかな熱を持っていた。
足元の冷たいアスファルトが、今では少しだけ温かく感じられる。
どこかに向かうのか、どこに向かうのかわからないけれど、一歩を踏み出す。
音はまだ、空に響いている。
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今回は、折れそうな心を奮い立たせられるように催眠スクリプトを組み込みました。
心が折れそうなとき、未来への希望が見えなくなるとき、そんな状態を曖昧な夜明け前の空に見立てて書きました。
心が疲れたときや、立ち上がる勇気が欲しいときにゆっくりと読み進めてください。
最後までご覧いただきありがとうございます。
この投稿が少しでもあなたの役に立ちますように。