junction ~わたしの人生を変えたこと⑬~

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~⑫からのつづき~

女性医師に起こしてもらったあとで、エコー検査の結果を聞きました。

・エコーでは、左右のすべての手指に明らかな炎症がみえた。
・関節の滑膜に炎症が起っているので、関節リウマチに間違いない。
・手指しか検査をしていないが、手首や足の関節痛もリウマチによるものと考えてよい。
・関節リウマチだけではなくシェーグレン症候群も合併している。

説明のあと、廊下で待つことになりました。


しばらくすると、入院担当医だった安西先生が待合室のわたしのもとに来られました。


ほかの患者さんたちが大勢いらしたので、安西先生とわたしは待合室の片隅で一カ月ぶりにお話をしました。

「松本さん…。入院時から関節痛をうったえていたあなたに、関節エコーのオーダーをし忘れました。膠原病内科医がリウマチを見逃しました。ごめんなさい。」


今日までわたしたち家族を苦しめた安西先生からの謝罪でした。


あの大柄なヤンキー先生がいてくれなかったら、安西先生はこの場面においても頭を下げることはなかったと思います。


上品な言葉でわたしを拒絶し続けたプライドの高い安西先生。


その先生との再会は、まさかの謝罪をきっかけにわたしの感情を軟化させました。


伝えたいことがあり過ぎると、かえって言葉が出てこなくなるものです。


できるだけ冷静に、先生に分かっていただけるように静かに話しかけました。


「安西先生は、入院中に『あなたは、病名を欲しがっているようにしか見えません。』とおっしゃられましたが、わたしは病名が分かれば治療法があるかもしれないので、元気になりたい一心で病名が分かることを望んでいました。」


目を見てじっと話を聞いてくださる安西先生を見て、わたしはホッとして話を続けました。


「退院の説明の時にわたしが夫に『もう、あきらめよう』と言ったのを覚えていらっしゃいますか?」


はい。と小さくうなずく安西先生。


「わたしはあの時、こちらでは何を伝えても分かっていただけないので…。
○○(大学病院)はあきらめてほかの病院に行こう!そういう気持ちで言ったんです。」


つい声が大きくなってしまったのに、安西先生は変わらずにじっと聞いてくださいました。


「でも、今日で痛みの原因がわかりましたし…。前を向いて早く治療して元気になりたいんです。だから、安西先生を許します。」


先生を許す。
大学病院の誤診を許して、未来を信じてもう一度頑張る。


安西先生に向けてというより、自分への誓いでもあったのでしょう。


言い終わったあとに、体の中心から力がわいてくる感覚がありました。


しかし、その後の安西先生の言葉はわたしの気持ちを打ち消すようなものでした。


「先ほど林先生とも相談して決めたのですが、松本さんには来週の林先生の外来に来てもらいます。」


「え?来週ですか?今日診ていただけないんでしょうか?」


「それは、無理です。こちらが予約票ですので、お大事に。」


来週の日付が印刷された林先生の外来予約票を手渡して安西先生は立ち去ったのでした。


また林先生か…。
入院中に一度も顔を見なかった主治医の林先生。


姿を見せない林先生にいつも邪魔をされている気がしました。


もはや敵キャラのような存在の林先生に、ふつふつとした怒りをおぼえていました。


帰宅後、話を聞いた子どもたちは次々とわたしに話しかけてきました。


病院の対応には怒っているものの、
”良かったね!治療してもらえるね!”と喜んでいるように見えました。


しかし、夫の怒りは相当なものでした。


ふだん穏やかな人が沸点に達してしまうと、いくらなだめてもすぐに静まることは期待できません。

痛みや微熱にもなんの対処もないまま、林先生に初めてお会いする予約の日を迎えました。


今日から治療が始まることへの期待を胸に、診察室の扉を開けたわたしに


「ここでは、あなたと3分以上話しませんよー!」


林先生のぶっきらぼうな第一声に抑えていた怒りがこみ上げてきました。


「はじめまして。松本かよです。」


嫌味をこめての自己紹介となりました。


「あぁハイハイ。じゃあ薬ね、出しとくから。次回三週間後ね。いい?
じゃ、外で待ってて。」


3分なんてとんでもない、20秒で診察室を出されてしまったのです。


採血結果の説明もなく、病気を見落としていたことの謝罪は一言もありませんでした。


その場で大声を出して先生を批難したかったのですが、必死にこらえました。


誤診についての謝罪は安西先生との待合室での立ち話、あの一回だけでした。


この時には気づいていないのですが、当時処方されていた抗うつ薬がわたしには合っていません。


本来の性格よりもイライラしやすく感情のコントロールができなくなっていたのです。


会計待ちや薬待ちの時間には動悸や手の震え、そして強いイラ立ちを感じていました。

まるで爆発寸前のダイナマイトみたいに…。


混雑する大学病院でながく待ちました、ようやく院内薬局から内服薬を受け取ったのですが…。


説明のために薬剤師さんが取り出した薬を見て唖然としました。


林先生はわたしに、ありえないような処方をしていたのです。

~⑭へつづく~

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