【吉本ばなな炎上から考える境界線の病理】ペット依存で1000万溶かした実父の話。

【吉本ばなな炎上から考える境界線の病理】ペット依存で1000万溶かした実父の話。

記事
コラム

前回の記事では、吉本ばななさんのnote炎上をきっかけに、「健全な境界線」についてお話しした。

例え優しさであっても、作家またはひとりの人間としてのポリシーを守るためであっても、どんな理由があっても、境界線の甘さはときに家庭を跡形もなく崩壊させる狂気へと変わるものだということ。

そして、その一連の家族のごたごたに他人(ましてやファンまでも)を巻き込むことは罪深い行為だと思う、ということ。

ーーとまあ、偉そうに分析しているわたしだけど、実は、わたしの実父もばななさんの姉と同じ道を歩んでしまっている。

ペット依存になってしまい、最終的には犬の治療費に1000万円近い大金を使い果たし、両親は資産をめぐって裁判を起こし、結果として熟年離婚することとなったのだ。

もちろん、その過程でわたしもごたごたに巻き込まれそうになったりもした。

今日は、我が家が崩壊していくプロローグとして、「外面は完璧だった父」がペットへの共依存の沼に落ちていったリアルをお話ししたい。

ペットへの共依存がどれほど恐ろしいものなのか、なぜ起きるのか、それを食い止めることが出来る方法は無かったのか。

実体験を踏まえたわたしなりの考察と本音が、誰かの役に立ってくれることを願いながら書いている。

(⭐ばななさんのnoteの記事を読んで、トラウマのフラッシュバックを経験した方には刺激が強い内容かもしれません。ご注意ください。無理して読まなくても大丈夫ですので。)



昭和のスーパーサラリーマンが見せた、家庭内の「暴君」の顔

わたしの父は、言うなれば「昭和が生んだスーパーサラリーマン」だった。

時代に乗り、某有名外資系企業の日本CEOにまで上り詰めた、外面では文句なしに「出来る男」。

しかし、本来はとても神経質で繊細だった父は、ビジネスの最前線で厳しい競争を勝ち抜くストレスのすべてを、母とわたしたち家族にぶつけた。

「黒いカラスも、俺が白と言えば白なんや」

もはやギャグみたいだけど、これは父の口から実際に出ていたリアルな口癖。昭和の時代で、虐待を働く男を象徴しているかのようなセリフだな、と今になって思う。

父にとって、家族は対等な人間ではなく、自分の言う通りに動く「所有物」であり、そこには境界線など微塵もなかった。





何度か書かせてもらったが、わたしの母はアーティストでありプロの歌手である。自己中心的だけど魅力的で、人を惹きつけてやまない人間だ。
かいがいしく夫に寄り添う「三歩下がってついていく理想的な妻」とは、もともと違っていた。

母なりに頑張ってはみたものの、父の求める枠にはおさまらなかった。だからこそ父は、思い通りにならない母へ暴力を働いたのだろう。

やがて父の転勤を機に両親の別居が始まり、暴力を受けていた母は、父と離れて暮らす選択を離婚が成立するまで突き通した。父は何度か一緒に暮らすことを母に命令したが、その度に却下されていた。

還暦を過ぎたあたりだろうか。
家族というコントロールの対象を失い、さらに仕事の第一線を退いた父は、自分の人生にぽっかりと空いた「巨大な隙間」を埋めるように、一匹の犬を飼い始めました。

血統書付きの、ヨークシャテリア。
この1匹の犬が、父の精神破綻への道を切り開いてしまうのだ。




先におかしくなったのは、犬の方だった。


ペット、特に犬はご主人様を絶対とし、裏切ることはない。
家族も仕事も、自分の思い通りにならなかった父は、そこに強烈に魅了されていった。父の「すべてを思い通りにしたい」という歪んだコントロール欲求のはけ口が、すべてその一匹の犬に向かったのだ。

一緒の布団で寝て、一緒に起きて、一緒にご飯に行く。一見、「よくある愛犬家」の微笑ましい光景に見えるかもしれない。
しかし、人間と24時間ベッタリと、境界線なく同化して暮らすうち、先におかしくなったのは犬の方だった。

父が用事で、たった30分でも家を空けようものなら、犬はパニックを起こして家中のものを噛みちぎり、ぐちゃぐちゃに破壊するようになった。脱走防止の柵をこじ開けようと体当たりを繰り返し、父が帰宅すると、犬の鼻や手足が「血まみれ」になっているのが日常茶飯事になったのだ。

普通の感覚なら「異常事態」だと気づくはず。しかし、境界線のバグった父は違っていた。

「この子は、俺がいないと生きていけない。それほど俺を愛してくれているんだ」

鼻を血まみれにして泣き叫ぶ犬の姿を、父は自分への「歪んだ愛情」だと勘違いし、歓喜したのだ。




1000万円を溶かした、終わりなき「理想郷」の狂気

ここから、父の執着は引き返せない領域へと加速していく。

高額な餌やサプリ、過剰な医療費、犬のための環境作り。おもちゃに見守りカメラ、頑丈でクッション性の高い柵など……。危ないことから遠ざけようと、犬を閉じ込めるようになっていった。

なんとその犬は、のちに「うつ病」と診断され、毎日うつ病の薬を飲むようになっていた。

さらに父は、犬が健全に暮らせるようにと、伊豆に温泉付きのペット可マンションを購入した。そして頻繁にドッグフォトを撮影しては、一人暮らしをしている祖母の家中に貼り付け、まるで関係ないのに、元気のない人を見つけてはその犬の写真を配り歩く。

たまにある電話でも、犬の話しかしない。父の人間関係は、完全にその犬一匹だけに狭まっていかった。

わたしは、犬にとっての本当の健康や幸せとは、たくさん走れる庭や自然、そして他の動物との交流の中にあるのでは、と思う。
やんわりと、でもしっかり何度か意見してみたけど、父にはそれが一生解らなかった。解りたくなかったのだろう。

「〇〇(犬の名前)には、俺しかいないんだから」

それが口癖になっていった。そして、高層マンションの、決して広いとは言えない部屋で、自分と犬だけの「偽りの理想郷」を描き続けた。

悲劇は、その犬が12歳を迎えた頃にやってきた。犬が、癌になってしまったのだ。

この時点で、わたしは父とかなりの距離を置いており、以降は親戚伝いに聞いた話である。
犬の癌の治療費は、えげつないものだったらしい。

「これ以上はできません、治療を止めましょう」と獣医に言われるたびに、父はそれを拒絶し、別の病院を探しては高額な治療を繰り返し、無理な延命を望んだそうだ。親戚が「狂っている」「異常だ」と言っても聞かなかったという。

父の歪んだ愛のせいで、最後は医療の力で無理やり生かされ続けた犬。あんまり知らないけれど、その犬が可哀想で仕方ない。

父が犬に注ぎ込んだ、1000万円という大金。それは犬への愛ではなく、「自分の寂しさを埋め、自分の思い通りになる世界を維持するため」の、あまりにも身勝手なコストだったのだ。




崩壊の結末。境界線なき家族の末路


自らの貯金をすべて犬に使い果たした父は、ついに、母とわたしにお金を無心し始めた。
これは、吉本ばななさんのお姉様が起こした騒動と、まったく同じ構図だ。

自分がペットに費やしたお金は、まるで「家族みんなのお金」であるかのような思考。
「自分を犠牲にして犬を救っているのだから、お金を出してくれて当たり前だよね?」ということだろうか。父の言い方はそんな可愛げのあるものではなかったけれど。

何にせよ、自分と他人の境界線が完全に消滅してしまった、哀れな事件だった。

さらに父は、わたしたちがお金を出さないと分かると、「実家を売りに出す」と脅すようになった。当時、実家にはまだ母が住んでおり、もちろん日々の生活費は母が自分で出している。自分の理想郷(犬への依存)を維持するためなら、家族が住む家さえ奪ってもいいという、暴走したエゴだった。

「離婚したらいいよ」

わたしは母に言った。
一生かけて幾度となく言ったそのセリフが、やっと母に届いた瞬間だった。

母に暴力と金銭要求を繰り返し、実家まで奪おうとする父から、今度こそ完全に離れるときが来たのだ。幸い、父のこれまでの数々の非道から、裁判をすれば母が実家の所有権を勝ち取れるのは明白だった。

こうして、我が家は「離婚」という形で、父を、そして父の狂気を切り離す選択をしたのだ。
それ以降、一切の連絡をとっていない。


最後に

吉本ばななさんの炎上を見て、多くの人は「なんて身勝手な家族なんだろう」と外側から叩くかもしれない。

しかし、その狂気の根底にあるのは、寂しさや苦しみを自分で処理できず、ペットを自分の分身のようにしてコントロールしようとする「境界線の病理」ではないだろうか。

ばななさんのお姉さんの「お母さんに奪われた人生」への対価は計り知れない。わたしと同じように、ばななさんもお姉さんに届かない言葉をたくさん投げかけたかもしれない。そう思うと胸が痛む。

共依存を止められるすべは無かったのか、と言われたら、正直「無かったかもしれない」と言いたい。やはり家族の因縁というのは深いものなのだ。

でも、わたしは父方の祖母の家の遺品整理で訪れたとき、壁一面にぎっしり貼られているその犬の写真を、

「気持ちわる~!」「狂ってる!」「やば~!」

と言いながら、びりびりに破ける精神を持てている。
冷たいようだが、「これこそが健全な境界線なのでは?」と自分を俯瞰して見て思った。

ばななさんもそうであって欲しいとは思っていない。それぞれの傷があり、似ているようできっと何もかも違うのだから。

ただ、「愛」や「優しさ」「正義」というキレイな言葉を隠れ蓑にした、歪んだ共依存の罠はいたるところに潜んでいるかもしれない、とは思う。

自分の境界線はいつだって試されている。
この記事が、誰かの心の境界線を守るヒントになれば幸いです。

今日も読んでくれてありがとう。



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