華やかな雑誌の世界で感じていた「限界」
社会人になってからの「人付き合いとは何か」という原点は、私が32歳のときに経験した出来事から始まりました。
当時の私は、女性向けファッション雑誌の副編集長。
アパレルブランドのスポンサー、海外ブランド、タレント、モデル、カメラマン、スタイリスト……。
毎日がまるでショーウィンドウの中のような“キラキラした世界”に身を置いていました。
けれどその華やかさの裏で、私はずっと「雑誌という枠の中でしか仕事ができない自分」に限界を感じていました。
心のどこかで「人の心に長く残る“本”をつくりたい」という気持ちが膨らんでいたのです。
だから、会社にずっとお願いし続けました──「書籍の編集部に異動させてください」と。
異動後に起きた“人が引いていく”現象
そして32歳のとき、念願叶って異動が決まりました。
その瞬間、私のまわりの景色は一変します。
まるで潮が引くように、それまで親しくしていた人たちが離れていったのです。
スポンサーも、ブランド担当者も、モデルのマネージャーも、誰もが新しい副編集長のもとへ。
仕事の関係とはいえ、あまりの変化に愕然としました。
「人間関係って、こんなにもあっさり消えるものなのか」
けれど、それが現実でした。
私が人に囲まれていたのは、“利害関係”でつながっていたから。
私自身ではなく、“雑誌の副編集長”という肩書に価値があっただけだったのです。
書籍編集者として“ゼロ”からの出発
異動した書籍編集部では、最初の本が世に出るまで半年かかりました。
実績ゼロ。担当作なし。企画を出しても、誰も本気で取り合ってくれない。
32歳にして、まるで新人に戻ったような日々でした。
このとき、私は初めて真剣に考えました。
「仕事を通じて人とつながるって、どういうことなんだろう?」と。
雑誌の世界では、華やかだけれど短命な関係が多かった。
取材や広告のための“お付き合い”はあっても、それはプロジェクトが終われば終わる関係です。
でも、書籍づくりは違いました。
一冊の本を完成させるまでには、著者と編集者が何度も本音をぶつけ合います。
「本当に伝えたいことは何か」
「読者にどう届かせるか」
そのやり取りの中で、自然と“人としての信頼”が生まれていきます。
「またみやがわさんと作りたい」と言われる関係へ
本が完成したときの達成感は、仕事の成功というよりも、「ひとりの人間と心を通わせた証」のようなもの。
そしてその本が読者に届き、誰かの心を動かしたとき、著者との関係は“仕事の枠”を超えていきます。
やがて私は、著者の方々からこう言われるようになりました。
「次も主婦の友社で出したい」ではなく、
「またみやがわさんと一緒に本を作りたい」と。
その言葉を聞いたとき、胸が熱くなりました。
自分の“看板”ではなく、“自分という人間”を信頼してもらえた証拠だからです。
雑誌の世界で失った人間関係を、書籍の世界で「信頼関係」として再構築できた。
それが、いまの私を形づくっています。
失った経験が、人と向き合う力をくれた
あの32歳のとき、人が波のように引いていった経験は、正直つらかった。
寂しくて、惨めで、「自分には価値がない」と思ったこともありました。
けれど今では、あの経験があったからこそ「人とどう向き合うか」を真剣に考えるようになりました。
いま私は、電子書籍のプロデュースを通じて、多くの方の“はじめての出版”をお手伝いしています。
ほとんどのクライアントが初めての著者です。
だからこそ、まずは「どんな思いを持っているのか」「どんな人なのか」を丁寧に知ることから始めます。
それが信頼の第一歩になるからです。
看板ではなく、人と人として信頼を築く──
その原点は、あの32歳の春にありました。