先日、日本キャリアデザイン学会主催の「地方創生とキャリアデザイン」という研究会に参加してきました。ノンフィクション作家の神山典士氏、衆議院議員の石破茂氏、法政大学の梅崎修教授が登壇し、各氏の取り組みや知見から様々な視点を伝えていただきました。雑感等書きたいと思います。
・東京一極集中は、明治維新からの国策であった。
・将来に向けての人口減少は危機的だが、日本人は危機を見て見ぬふりしてしまう。
・江戸期は地方分散を保つ政策があった。
・地方のことはそこに住む人が分かることで、霞が関では分からない。
・かつて全ての地方自治体に給付された1億円は自治体の力量を視るものだった。
・海水浴場が減る、海水浴客はもっと減る、等、体験すること自体が少なくなっている。
・早い年齢のうちからふるさとのことを書くことで、その人にふるさと愛が育まれる。
・年齢、年代が交わる、異年齢教育の体験価値。
・わいわい冠婚葬祭すべての行事が行われる、大広間という場が旧来の家にはある。
・会えて楽しい、と、テレワークのバランスをどうとるか。
・キャリア=生き方、一身専属のものであり、時間と空間がある。時間先行になりがち。
・会社の選択が最初にあることで、キャリアデザインに制約をもたらしている。
・自分の居所でのキャリアについてどう実体をつくってゆくのか。
・仕事や稼ぐためだけのキャリアは、「空気」のようなものになってしまう。
以上は、私がメモをとったものです。多くの語りの中のほんの一部ですが、ここからだけでも、日本国民1人ひとりのキャリアデザインに、何が大きく影響しているのか、を垣間見ることができると思います。日本という国の姿が、地方を豊かにしてゆくことで、将来にわたって確定している人口減少や都市の大量消費を是とする資本主義の限界に対して「適応的に変化」し、真に持続性のある日本の未来を創れるであろうことが伝わってきました。
キャリアの空間的要素として、「中央にいること」と「地方にいること」が見てとれますが、これも二項対立的に見るのではなく、コロナ禍を経て発達した情報技術を活用して、どちらの空間にも持続的にアクセスしてキャリアデザインをおこなうことが可能な時代になってきていると言えるでしょう。もちろん、時間的要素が空間的要素の選択に大きくかかわると思います。20代なら、30代なら、50代なら…。ライフキャリアの面でもワークキャリアの面でも、時間軸のどのあたりに自分が位置するかを認識することで、いつどこに自分の居所を置くのがベターか、判断が変わってくるでしょう。
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研究会で紹介された、石破氏・神山氏共著の『「我がまち」からの地方創生 分散型社会の生き方改革』に、こんな記述があります。引用します。
(引用)
「都市生活者は好きと嫌いのスイッチをオフにしている」。そう語った人がいた。確かに、毎日の通勤電車も狭い家も高い家賃と生活費も、「嫌だ」と本音を言い出したら都市生活は成立しない。私もこれまでは、そのスイッチをオフにしていたのだ。けれど人間性を取り戻すにはこのスイッチをオンにするしかない。するとどうなるか――。
好きと嫌いのスイッチ。つまり、そこに居所を定めるために、我慢をするとか、耐えるということでしょう。都市生活者は、会社の近くに住むとか、徒歩圏で何でも揃う便利さとか、最新の情報が集まるところにいたいとか、そういった様々なニーズを満たすことと引き換えに、都市生活のデメリットは受け入れる。そうして、都市空間で自らのキャリアが形づくられてゆく。もし好きと嫌いのスイッチを常時オフにしているのであれば、本来自律的であるはずのキャリアデザインにおいて、ヘルシーとは言えないでしょう。だからこそ、「人間性を取り戻す」とまで言っているのだと思います。
地方なら好きと嫌いのスイッチは常時オンなのか?と言われれば、それもバッサリとは言い切れないと思います。例えば、地方移住した人が必ずと言っていいくらい経験するであろう先住者との関係づくりで、スイッチをオフにしたくなるようなこともあるのではないだろうか…、と想像します。地域で健全に共存するためには双方が乗り越えてゆかなければならないことなのですが。
おそらく、コロナ禍以降のデジタル化の急速な進展で、好きと嫌いのスイッチをオフにしてでも享受したい都市生活のメリットは薄れつつあるでしょうから、より自分らしくいられるのが地方だと心の底から思えるのであれば、地方に居所を持ち、地域社会との距離感やデジタルを駆使するバランスを「適当」に保って生活基盤を築いてゆけばよいのでしょう。
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地方への分散を拡げてゆくことと、自己のキャリアデザインは、人生を共にする家族1人ひとりのキャリアデザインにも大きく影響します。自分らしさの追求(Will・Can・Must)とともに、家族の幸せを家族みんなで考えることが肝要です。現在、都市生活を送っていて、地方への移住を考えている方は、住居、就職、ファイナンシャルプラン、教育、健康・医療、自治、地域社会とのつながり…等々、生活を具体的にイメージし、その結果、時間的空間的に家族がどのように幸せな生活を実現してゆくのかを、家族で大きな紙に落書きしながら対話することをおすすめします。これこそがライフキャリアデザインです。可能であれば、現地に足を運んで現地の空気に触れながらが、なおよいでしょう。そういったことを支援してくれるしくみも多くの自治体で備わっており、活用できます。
都市生活はある意味、何でも揃っているので、極論ルーティンで生きていけます。神山氏は「都会の電車は数分に1本来るから何も考えずに来た電車に乗ればいい。でも田舎の電車はその1本を逃したらアウトだから、何時に起きるか、いつ家を出るか、その用事ごとに考えて決めなければならない。みなさん、どちらが人として自立した状態だと言えますか?」といった主旨のことをおっしゃっていました。私は、こういったことを一度体感して、地方での生活にワクワク感を感じられるかどうかが地方移住のキャリアデザインの分かれ目だな、と思いました。
私自身は、現在は大都市にある職場で仕事をしています。かなり長い通勤時間をかけて、田んぼに囲まれた田舎の自宅との往復の毎日です。リアルな物体としての図書を扱う仕事なので、どうしても遠い職場まで移動をしなければならない毎日ですが、いずれはライフキャリアデザインに関するカウンセリング業務に集中したいと考えており、その暁にはフルリモートに移行できるかもしれないと考えています。田舎の自宅で仕事を完結できるのは、やはり魅力的です。通勤が無ければ、日の出日の入りに合わせた本来の人間らしい生活が可能になります。そんなことを夢見ています。(対面カウンセリングの大切さは重々承知しておりますので、並行して続けます。)
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今回は、地方創生とキャリアデザイン、についてお話しました。私は会社勤めとの複業でライフキャリアデザインカウンセラーとして個人や世帯の職業生活設計や資産設計のお手伝いを志しております。保持資格としては国家資格キャリアコンサルタントとAFP(日本FP協会会員)をコアスキルとして、これまでの会社生活や人生経験で学んできたことを活かして会社内や地域社会に向けた価値創造につなげてまいります。ご関心を持っていただいた方、ご相談事がある方は、どうぞお声がけください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。