「お姫様か!」
私は、母に向かって怒鳴っていた。
何度も、何度も。
相当でかい声で。
何があったのか、もう詳しくは覚えていない。
ただの感情の吹き出しだった。
たぶん、そんなに重要なことじゃなかった。
でも、その瞬間、私は限界だった。
「お姫様か!」
「お姫様か!」
同じ言葉を、繰り返し叫んでいた。
母は、何も言わなかった。
ただ、じっと私を見ていた。
怒鳴り終わったあと、ふと我に返った。
「近所迷惑だな」
そう思った。
こんなに大きな声で怒鳴って、近所の人に聞こえただろうか。
そして、自己嫌悪に襲われた。
「なんで、こんなに怒鳴ってしまったんだろう」
「母は病気なのに」
「私は最低だ」
母は、ただじっと私を見ていた。
怒ってもいなかった。
悲しんでもいなかった。
ただ、静かに、私を見ていた。
その目を見て、さらに自己嫌悪が深まった。
「私は、なんて酷いことをしているんだろう」
でも、あの瞬間、私は本当に限界だった。
何が限界だったのか、今となってはわからない。
ただ、何かが積み重なって、爆発した。
介護をしていると、怒鳴ってしまうことがある。
綺麗事じゃない。
優しくしたいと思っていても、怒鳴ってしまう。
あの日、私は「お姫様か!」と怒鳴った。
何度も、何度も。
その言葉が、何を意味していたのか、今でもわからない。
でも、あの瞬間、私はそう叫ぶしかなかった。
怒鳴ったあと、私はずっと自分を責めていた。
「もっと優しくできたはずだ」
「母に対して、なんて酷いことを」
でも、今思えば、あの時の私は、十分頑張っていた。
怒鳴ってしまったのは、私が冷たいからじゃない。
限界だったからだ。
介護は、完璧にはできない。
怒鳴ってしまう日もある。
優しくできない日もある。
それでいい。
もし、今、介護をしていて、怒鳴ってしまったことがあるなら。
自分を責めないでほしい。
それは、あなたが冷たいからじゃない。
それは、あなたが限界まで頑張っている証拠だ。
「お姫様か!」
あの日の私は、そう怒鳴った。
今でも、その言葉を思い出すと、自己嫌悪が少し蘇る。
でも、同時に思う。
あの時の私も、精一杯だったんだな、と。
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