新人賞をとらずに作家になる話

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小説
 Twitterで新人賞や原稿持ち込みの話題が流れてきた。
 ぼくは文学賞を応募していた頃、一次落ちとかふつうにしまくっていて、受賞はおろか最終候補になったこともなかったので「新人賞」にはわりとコンプレックスがある。なんか、「新人賞は受賞よりも〝最終候補に残りました〟っていう電話のほうがうれしい」というデビューあるあるなんかも存在するようで、ワイもいっかいくらい電話もらいたかったあなぁ〜みたいにおもう。でもいったん雑誌掲載とかされてしまえば、新人賞をとった/とってないは作品評価に関係ないっぽいのでいまではぶっちゃけどうでもいい……のだけど、「ああ〜やっぱ獲りたかったナァ……」みたいにたま〜にセンチメンタル全開になるのも否定はしない。

 新人賞は「とりあえず小説を書いた」以外になにもないひとが作家になるためにできる最もかんたんで、もっとも有効なアクションだ。ジャンルや賞によってまちまちだけど、数百〜数千の倍率をくぐり抜けて受賞した作品にはなにかしらの力があるとぼくはおもうし、その結果に至った運も含めて応募者の作家性が問われているようにもおもえる。
 だけど、「新人賞を獲らなければ職業作家になれない」というのも疑問だ。数百、数千の倍率をくぐり抜けるなんてほとんど運ゲーだし、だいたいそもそも小説なんていう書き手も読み手も未熟な世界でバチバチ争うことにそんな意味があるのか?
 ぼくはいろいろあって新人賞を獲らずに小説を書いたり文芸批評をやったりする仕事にありつけたのだけれど、ここでちょっと「新人賞をとらずに小説家になる」ことについて考えてみた。

どうすればデビューできるのか?

 作家になるには新人賞とるとか持ち込みとか、そういう話が先行しがちだけど、ぶっちゃけそれは表面上の問題でしかない。
 そうした方法やルートに関係なく、「商業媒体に自作が掲載される」というのはその過程でその作品を強く引っ張ってくれた力強い読者がいたってことであり、いわゆる「どうすればデビューできるか」は、作者を引っ張り上げてくれる読者といかに出会うかの問題になるとぼくは考えている。

 小説を仕事にしようと思うなら、そのどこにいるかわからない「引っ張ってくれる読者」と出会う準備をすればいい。そのひとは新人賞の選考に関わっているかもしれないし、ネットでボヤッと文章を読んでいるかもしれないし、知り合いに「だれかおもろい作家知ってる?」と友だちに聞き回っているかもしれない。
 推しの引っ張りかたもさまざまで、掲載の意思決定を持つ(あるいはそれに関与できる)文芸誌編集者もいれば、同業者・批評家や一般読者などが話題にしてくれたりするケースもある。お笑い芸人の世界だと、
 1:オトナ(業界人)
 2:袖(同業者)
 3:客
 の3つのうち2つにウケれば売れる! っていう話があるらしいんだけど、これに似ているかもしれない。打算的なことを考えて小説を書いてもダメだけど、しかし少なくともじぶんの小説は誰にどうウケるかは知っておいた方がいい。

 たとえば新人賞の選考で最終候補に残ったりしてます!っていうひとは、その賞を運営している組織(雑誌編集部)には期待してもらえているとおもう。担当編集がついているひともいるだろうし、そういうひとは書けたものを片っ端からその新人賞や担当編集に送りまくるのがいいんじゃない? とおもう。

ぼくの場合

 ぼくが職業作家になったきっかけは「たべるのがおそい」の公募だ。たべおそvol.1のあとがきに「公募もやっています」と一行だけポロッと書いていたのをダメもとで送ったら編集長・西崎憲さん返事をいただいた。
「まぁ今回はダメかもだけど、おもしろいからがんばって!」という話で、それがきっかけで西崎さんが準備していた電子書籍レーベル「惑星と口笛ブックス」に参加させてもらうことになった。
 惑星と口笛ブックスでは「コロニアルタイム」という短編集を出させてもらって、それがその年の日本SF大賞のエントリー作に推薦してもらえたのがけっこう個人的には大きかったとおもう(たぶんこのときエントリーされてなかったら、SF作家として認知されていなかったからかなりヤバかっただろうな……)。
 それからも「たべるのがおそい」には公募で短編を送り続け、1回で3作送った回もあった。ダメかも……と心が半分折れていた時期、vol.6で「誘い笑い」が掲載決定になった。このときすっごいホッとしたのをおぼえている。

非新人賞作家でやる難しさ

 やっぱり新人賞は獲れるなら獲っておいたほうがぜったいに良い。出てしまえば新人賞作家も非新人賞作家も関係ないのだけど、「次の1本を出せるか」の環境が大きく違うんじゃないか、と個人的におもう。
 新人賞作家は「出版社がデビューさせた」作家なので、新しい小説を書けたら担当編集に持っていけばいい。だけどそこらへんからポッと出た作家だと次の掲載先をじぶんで探さなくちゃいけない。
 掲載はされたけど担当編集がつかない……というのは正直めちゃめちゃつらく、たべるのがおそいで「誘い笑い」が掲載されてからSFマガジンで「花ざかりの方程式」が掲載されるまでの1年半はもう二度と経験したくないくらい辛かった。ちょっとでもツテがあれば片っ端から原稿読んでください!とお願いして回るのだけど、原稿の返事をもらったのは一回もなかった。
 あくまでもぼくの経験の話だけど、新人賞作家と非新人賞作家では編集者の担当意識がぜんぜん違うのかもしれない。渡した原稿がボツにすらならない、原稿の良し悪し以前に「読んでもらえない」というのが大きな壁で、持ち込みをガンガンやって作家になろうとする人は、「編集さんに読んでもらうための努力」をしておかないとなんともならないからね……。

やっていてよかったこと

 まぁ「編集者め……!」みたいな謎の憎悪を滾らせてもいいことはひとつもないので絶対やめたほうがいい。
 ぼくの場合、仕事に直結しなくても応援してくれる作家・編集者・Twitterのフォロワーがたくさんいたのがだいぶありがたかった。ぼくはそもそも仕事云々を抜きにしても小説が好きだったので、むかしから文芸ネタでブログを書きまくっていたし、また趣味でフィッツジェラルド 、ウェルズ、リチャード・パワーズなどを翻訳していたりもして、趣味が合いそうなひとには職業関係なく原稿を送りつけたりしていた。それはけっこうよろこんでもらえたりして、なかにはちょっとした仕事につながったりしたものもある。また、「花ざかりの方程式」の掲載につながったのも当時の担当編集さんがnoteのぼくの記事を読んでくれたのがきっかけだった。
 結果的にはブログやnote、翻訳が営業ツールっぽくなっちゃったのだけど、フツーに好きなことを好きなようにやって大量に発信するのを積み重ねていくのが「原稿を読んでもらえる」きっかけになるんだなとおもった。やっていてよかった。

実績の積み上げ

 ぼくは阿波しらさぎ文学賞という地方文学賞をいただいたことがあるのだけれど、「地方文学賞は作家としての実績にカウントされない」みたいな風潮をめちゃめちゃ感じていて、これがイヤだった。というか、デビューのルートとして新人賞が強すぎるせいか、「大手新人賞以外は文学賞じゃねー」みたいな圧も感じるというか、なんかもったいない話だなと。
 地方文学賞が実績にならない、次の仕事につながらない理由として大きいのは「主催団体が文芸誌を持っていない」からだとぼくは考えている。雑誌がないと「賞をあげました!次はここで書いてください!」みたいな流れにはなりようがない(ちなみに阿波しらさぎ文学賞は主催の徳島文学協会が文芸誌「徳島文學」を持っているので受賞後はここから依頼をいただけるのでオススメ)。

 新人賞を獲らずに作家になろうとするなら、一番むずかしいのは「出版の意思決定権を持つひとに自作を読んでもらう」ことだろう。持ち込みできる/できない問題の大きな論点は「どうやったら読んでもらえるか?」にあって、たとえば平野啓一郎さんはクッソ熱い手紙をしたためてブン投げた。それはともかく、原稿を持ち込むならば(あえて変な言いかたをすると)「読んでもらう原稿を作るより、原稿を読んでもらえる理由を作る方がむずかしい」くらいじゃないかな(これ、ぼくもいまだに悩んでいることなんだけれど)。相手の立場になって考えると読む理由がない原稿を読む時間は作れなさそうだし。
 読む理由を作るために「書き手の実績」をいかに積めるか……ってぼくは大事だとおもうんだけど、たぶんこれからはもっと同人誌・ウェブ掲載・小規模文学賞がちゃんと実績としてカウントされるようになってくるとおもう。ZINEの制作とか盛んに行われているし、SFではWEBメディア「バゴプラ」もオープン、プロアマ不問の殴り合い「ブンゲイファイトクラブ」もけっこう存在感がある。

おわりに

 こういう話をするのはダサいし、ところどころイケてないのでじぶんでもどうかとおもう。すごいツラい時期のことも思い出したし、書いて気分はサイアクだぜ!ってかんじだ。
 最近になってやっと「この編集さんとはこういう仕事をしたいな……!」みたいなのが見えてきて、「ただ小説を書く」以外での仕事のたのしみが徐々に感じられるようになった。

 ぶっちゃけ、まとめると「好きなことを楽しく好きなようにひたすら続けるといいことがある」くらいのクソみたいな内容しかこの記事からは得られないとおもう(みんな付き合わせてゴメンな!)。ただひとつ、「新人賞だけが作家のルートじゃない、それをもっと本当のことにするためにもみんな新人賞を通らずに作家になろうぜ!」と詐欺師的なことをいっておわりにしたい。

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