パワハラをした人に対する世間の風当たりはとても強いですね。
パワハラは悪いことだから厳しく罰するべきだ。
でも、私が職場のパワハラトラブルの解決にあたっているとき、パワハラをする人が悪い人に思えたことはありません。
とくに管理職の方々は、パワハラトラブルを起こしやすいとしても、まじめで責任感が強く、事務処理能力が高い人が多いです。
だからこそ起きてしまう、という実情もあります。
パワハラをゼロに近づけることはできますが、人間関係のトラブルはゼロにはできません。
そして、人間関係トラブルがパワハラとゴチャ混ぜとなって問題視される風潮があります。
パワハラ的な人を批判したり、罰したりするだけでは何の改善につながりません。
会社が加害者を処罰すれば加害者反省するだろう、と思っている人が多いのですが、罰で人を意のままに変えようとすること自体がパワハラ的な発想です。
深刻なパワハラトラブルが発生する前に、管理職の皆さんの言動を修正することが予防策として効果的です。
こんなセリフを使ってしまう人はパワハラ傾向が強め
パワハラ的トラブルを起こしやすいタイプの人がいます。
そういった人たちがよく使うセリフがありますが、そのセリフから、トラブルを起こしやすい認知傾向がうかがわれるので、私は常々こういった言葉に注目しています。
皆さんの職場で次のような言葉が耳に入るようでしたら、コミュニケーションや仕事についての向き合い方に問題があることがうかがえるので、何らかの改善策を検討することをおすすめします。
どんな職場でも、該当する言葉を一つや二つは耳にすると思いますが、日常的に3つ以上を耳にするのであれば、ちょっとあぶないかもしれません。
日常的に耳にする言葉が5個以上あったら、かなり危険だと思います。
管理職の方の部下に対する発言を想定して一つずつ解説します。
(1)こんなこともできないの?
これを言われたときに、前向きな気持ちで働く気分になれる人は少ないでしょう。
管理職は部下の能力を最大限に発揮させて、それを成果につなげることが仕事です。
つい口癖で使ってしまう気持ちはわかりますが、もし部下のやる気を引き出すことを望んでいるのであれば、百害あって一利なしと思います。
「この言葉で自分は頑張る気になった」という管理職さんがたまにいますが、自分がそうだったから皆もそうだと思い込むのもパワハラ的傾向の一つです。
誰だって苦手なことはあるのに、「こんなこともできないの?」と言えてしまうのはなぜか?
「あなたは管理職のくせに部下のやる気を引き出すことさえできないの?」
って言われたら心が痛みますよね。
私も胸が痛むし、効果が薄そうなので、そういう言葉は使いません。
(2)やる気あるの?
もしその相手が、「実はやる気をもっていた」としたら、その相手はどういう気分になるでしょう。
やる気があるのかどうかを本当に心配している人は、「やる気あるの?」と言う言葉を使うでしょうか。
「やる気あるの?」というセリフは、「やる気がない」と決めつけて相手を批判するときによく使われます。
やる気がないことを批判する前に、<本当にやる気がないのかな><なぜやる気がでないのだろう>と考えるのが管理職の仕事です。
私が管理職なら、
「今日はどんな気分?」
「もしかするとなにか不安があるんじゃない?」
「納得できないことがあるんじゃない?」
などの問いかけ方を考えます。相手の心理状況を把握するためです。
(3)君のせいだよ
ミスやトラブルは複合的な要因で発生していることが多いので、特定の誰かに責任を問うことには慎重であってほしいです。
「責任感を持ってもらうため」という人もいますが、その言葉で責任感が生じる可能性は低いと思います。
どうしても責任を問うのであれば、そのメリットとデメリットを考えましょう。
責任を問うとなにかよいことがあるのか。
逆に、それを言われた人はどのように考え、どう変化するか。
それは相手の心理状況や性格的特徴にもよるのですが、そういったことを総合的に考えましょう。
仕事である以上、常に心理的効果を考えましょう。
もし一方的に責任をなすりつけてしまうような結果になると、信頼関係を決定的に損なう恐れのあるセリフです。
(4)反省したほうがいいよ
反省とはなんでしょう。自分の間違いに気がつき再発防止に努めること?
もし本当にその必要があるのなら、前向きに思考を深められるような問いかけをした方が効果が高いでしょう。
「反省しろと言われたが、具体的にどうしたらいいかわからなかった。」
という感想をよく聞いています。
すでに反省している人に「反省しろ」と言えば、相手を理解していないことになります。
反省していないかもしれない人に反省しろと言うだけではあまり効果がないです。
反省していないのであれば、反省をしない心理的な仕組みを気にする方が現実的に意味があるでしょう。
(5)ちゃんと考えて
相手がちゃんと考えていないことを前提にしたセリフですが、相手は本当に何も考えていなかったのかどうかを、確認したうえでの発言でしょうか?
もし本当に「考えていなかった」のであれば、その理由について考えてみましょう。そもそも「何も考えていなかった」のだとしたら、よほど何か深刻な事情がありそうなものです。
「考えていない理由」をわかっているなら、「考えろ」というメッセージを伝える前に、「相手が考えられる状況を作り出すこと」を考える方が効果的でしょう。
そういうことを考えないうちに、口癖で「ちゃんと考えて」と言ってしまうことはよくあります。まずは管理職が率先して考えましょう。
(6)ちゃんと聞いてたの?
自分の意図が相手に伝わっていないと感じた時に、このセリフがよく使われます。
このセリフを使う人は、「自分はわかりやすく伝えた」と思い込んでいる可能性が高いです。
そもそも、コミュニケーションは常に不完全であって、私たちが期待するほどには相手に伝わりません。
ましてや、自分の話し方に問題があるかもしれないのに、自分には全く非がないと思い込んでしまうと、穏やかなコミュニケーションが成り立ちません。
実例として、主語を使わないクセがある管理職さんが、部下に対してこういうセリフをよく使っていて、部下たちは意味がわからくて困惑するのですが、上司を怖がってそれを誰も指摘しないので、ご本人は今もまだ自分の話し方のクセに気がつかないままだったりするのです。
自分の言動に疑いを持たない人はパワハラ傾向が強めでありながら、自身の改善のキッカケを得にくい傾向があります。
(7)何度言ったらわかるの?
「何度言ったらわかるの?」と言われて、「そうですねえ。3度です。」と答える人はいないでしょう。
正しくは、「私の話をしっかり聞いて欲しい。」という意味ですよね。
だったらそう言えばいいのに、無意識にこういったねじ曲がったコミュニケーションになってしまっています。
これも、自分は正しく相手に伝えたから自分に問題はない、という前提で、つい使ってしまうセリフです。
何度言っても伝わらないのであれば、どこかに何かしら問題があるのであって、自分の方から先に、「コミュニケーションのどこかに問題があるんだろうな」「この人はこういう部分の情報処理が苦手なのかも」など、いろいろな可能性を想定しながら冷静に分析してみましょう。
コミュニケーションに問題がないのであれば、相手に理解力がないか、納得していないか、納得していても実行できない環境にあるかのいずれかでしょうから、そのあたりを探ってみましょう。
「厳しく言えば何かよいことがある」
という信念を持っている人はパワハラ気質が強めですが、改善の余地は充分あります。
私なら、自分の伝え方をもっと工夫しようと考えます。
(8)前にも言ったけれど・何度も言うように
これも、自分は正しく伝えたと言う思い込みを前提としていることがあります。
自分を信じやすい人はパワハラ傾向が強めです。
しかも、周囲の人々は怖がって、本音を言えません。
言葉では簡単には伝わらないし、大事なことは何度でも伝えればいいと考えてはいかがでしょう。
相手に伝わっていない可能性があるのであれば、「どう思う?」と問いかけをして相手の理解度を分析しましょう。
それでも相手の反応がにぶいのであれば、あなたは相手から信頼されていない可能性があります。
それは相手のせいではなく、あなたの問題かもしれません。
(9)正気か?・本気か?・ふざけてるのか?・いやがらせか?
「正気ではない」「本気ではない」「ふざけている」「いやがらせをしている」という評価を伝えるセリフですが、その確証を持ってこのセリフを使っている人はほぼいないでしょう。
つまり、あなたの一方的な思い込みである可能性があります。
そして、その相手は実際は、正気だし、本気だし、ふざけていないし、いやがらせをしているつもりもないことがほとんどです。
だとすると、根も葉もない言葉で相手の人格を攻撃している解釈され、この言葉を使っている人自身が人格的に低い評価を受けてしまいます。
相手と対等の信頼関係を築きたいのであれば、このセリフはなかなか出てこないでしょう。または、よほど親密な関係であると思って油断しすぎているのかもしれません。
しかし、自分が思うほどに相手は親密だと思っていないことがよくあります。
この言葉を使うことの業務上のメリットがどこにあるのかを考えてみましょう。
(10)遠回しな言い方や皮肉めいた表現の言葉
相手にあれこれと考えさせようとして、わざと率直でない発言をする人は、
(言わないでもわかるだろ・こっちの立場を察してくれよ・率直に話すのがイヤなんだよ)
という心理が働いているケースが多いです。
対人関係に苦手意識を持っている人や、人に対して関心が薄いタイプ、劣等感が強めの人に多い現象です。
相手を理解する前に一方的に批判できてしまうクセがあったりもします。
基本的に、他人の心理を正しく理解することは難しいことです。
言葉は相互理解の道具として使うのですから、誤解をされやすいあいまいな言葉や、相手に余計に考えさせるような使い方をわざと選び、相手にそれを察することを期待するのであれば、自分がなぜそうしてしまうのかを心理的に分析してみましょう。心理カウンセリングを受けることをおすすめします。
以上で10個のセリフの解説おわり
言葉の使い方から、その人の思考のクセがみえてきます
パワハラ的トラブルに関わりやすい人にありがちな思考のクセとして、次のようなものを私は思い浮かべます。
(a)たいした根拠もないのに他人を評価し、それに自信を持ってしまう
(b)自分が言葉を発すれば瞬時に正しく理解されるはずだと思ってしまう
(c)ミスやトラブルが発生したとき、とりあえず他人のせいにしてしまう
(d)人の本音よりも言葉や表面的な態度を気にしている
(e)他人の言葉を自分への批判や攻撃だと受け取り、すぐ反撃する
(f)怒りを伝えると相手がすぐに反省し改善してくれるあろうと思っている
こういう心理は誰にでもありますが、それが強めに出てしまう特徴があったり、心理状況がたまたまそうなってしまう時期(イライラしていたり)であったりします。
「こういった言葉を使うな」
とは、私は思いません。
そうではなくて、こういった言葉をつい使ってしまう心理状態がご本人を追い詰め、苦しめているのだとしたら、改善できたらいいですね、と考えます。
いまの自分の思考のクセに気がつき、適切なコミュニケーションの考え方を身に着ければ、改善の道は開けます。気分がラクになりますよ。
理論よりも体験することが重要
この記事を読んでいただきありがとうございます。
これを読んだ方の反応もいろいろでしょう。
仮にこの話に納得でき、そのうえで「自分はこれで大丈夫」と満足したとしても、実際にはなにも変わっていない、ということがよくあります。
もしご自分にパワハラ的要素があるかもと思われたのであれば、ぜひ一度、利害関係のない第三者の意見を聞いてみることをおすすめします。
私は経営幹部クラスの方々にこういったカウンセリングやアドバイスを行っています。
社外の人間なので遠慮しないでお話ししますが、私は相手を優しく穏やかに肯定し続ける<脱力系カウンセラー>です。
1時間お話ししただけでも、かなり高い確率で何らかの<気づき>が得られるでしょう。
<肯定的で穏やかなコミュニケーション>
を身をもって体験してもらうことは、とても効果的です。
楽しく前向きな気分で改善を進めていただきます。
徐々に、リラックスして思ったことを話せるようになり、自信がわいてくるでしょう。
つまり、パワハラ気質の改善は充分可能です。あきらめないでください。
人生死ぬまで成長
私はしばしば、会社の皆さんから
「どうせあの人は変わりませんよね」
と言われるのですが、
「根本的な特徴が変わらなくても人は成長しますよね。」
と申し上げます。
たまたま経験が少なかったゆえに未発達だった部分。
それは誰にでもありますから、
<死ぬまで成長>
という発想でお願いしています。
今日の自分も、今日の彼も、これから成長し変化してゆくのです。
つまり、人はみな成長過程にあって、常に不完全なのです。
それを認め合っている二人が、パワハラ訴訟の当事者になって争いあえるものでしょうか。
人は不完全だから常に成長し続ける。
そのことを認めたうえで、
「ごめんなさい。もっと気を付けるよ。」
という態度を上司が取らなければ、部下や後輩は成長しにくいでしょう。
だから、社内の人材育成のためには、上層の方々から先に、
「人生死ぬまで成長。人は皆不完全。」という意識を持っていただきたいです。
「俺は絶対に正しいが、部下たちはみんなバカ。」
と本気で思っている経営幹部さんは、実際に一定数存在します。
でもそれは、何らかの劣等感の裏返しです。
お互いにバカ扱いし合っている会社では、効率の良い仕事はできないでしょう。
この取り組みは、組織の上層の人たちから取り組むのが理想ですが、実際にはなかなか難しいので、会社の実情が許す範囲で、できるところから始めましょう。
そうすれば、放っておいても会社の雰囲気はやがて良くなってゆくでしょう。
私の場合は、対策の導入のところから、各社の実情に合わせてアドバイスします。