「…しのぶ!、大変!…」
「何よ、そんなに慌てて、お化けでも出たの?」
「そう、出たのよ、バケモノが!」
…
横浜市内某公立高校 学園祭
競技かるた部の部長 広瀬しのぶは将棋部の会場を見学していた。
競技かるた部の副部長が慌ててしのぶを呼びに来た。
…
「見たことあるような気がするけど…」
しのぶ がそう言うと副部長が答えた。
「1年生らしいんだけど、強い人とやりたいと言ってきて、うちの2年生とやらしたんだけど全く歯が立たなくて…」
競技かるた部では部員対一般生徒のエキシビションマッチが行われていた。
畳の上で部員とその1年生が対戦中だったが、その1年生は部員に1枚も取らせていなかった。
「…」
バシッーン
「…くからに…」
(早い、ふくからにの「ふ」が聞こえるより先に手が動いた気がした。)
1年生の持ち札がなくなった。
そのスーパー1年生がしのぶの方を見て言った。
「広瀬さん、私と勝負してください!」
「どうして私の名前知ってるの?」
「この学校で広瀬さんの名前を知らない人はいませんよ。」
「勝負してもいいけど、私が勝ったら競技かるた部に入部してくれない?」
(高校選手権で戦うには、今の部員だけでは心もとない、彼女が入部してくれたら大きな戦力になりそうだ。)
「いいですよ、その代わり私が勝ったら…私が部長でいいですか?」
会場が静まり返った。
「上等じゃない。」
…
試合は一進一退だった。互いに自分の持ち札を取り合い、残りはお互い15枚になった。
「しの…」
「バシッーン」
すごい勢いではじかれた『ものやおもふとひとのとふまで』と書かれた札が競技かるた部の顧問の先生の額に張り付いた。 顧問は「勝負あったな。」
と言いながら自分の額に張り付いた札を手に取った。
…
その後 スーパー1年生は1枚も札を取ることができなかった。
副部長が顧問に聞いた。
「先生、どうして分かたんですか?」
「広瀬は、相手のクセを見抜いたんだ。あの1年生は自分の持ち札が読まれたときは一瞬わずかに頭が自陣の方へ動く。これくらいのレベルになると、相手のちょっとした動き、呼吸を感じ取って瞬時に札を取りに行くのだが、広瀬の頭はどんな時も微動だにしない。」
…
「ようこそ、競技かるた部へ。じゃあこの入部申込用紙に記入して。」
しのぶがそう言うとスーパー1年生は住所と名前を記入した。
「真田 和歌奈」 … 聞いたことがある名前だった。
(思い出した。)3年前 競技かるた中学生クイーン選手権で当時3年生だったしのぶが決勝戦で戦った1年生が真田和歌奈だった。
副部長がスマホで検索した。
『競技かるた中学生クイーン選手権 真田和歌奈 選手 2年連続クイーン位獲得。 尚、それまでは広瀬しのぶ 選手が1年生から3年生まで3連覇を達成している。』
「広瀬部長、私もっと強くなりたいんですけどなれますかね?」
「まずそのクセを治すことからね。」
「どうすれば、治りますか?」
「そうね、私も前にやったけど、頭の上に水の入った洗面器を乗せてこぼさないようにする練習からね。」
顧問がニヤリとほくそ笑んだ。
※この作品はフィクションです。登場する人物・団体は架空のものです。実在するものとは一切関係ありません。