超短編小説「その女、凶暴につき」

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女子バレー部のキャプテン 黒崎サオリ はいらだっていた。
いつもならノータッチで相手コートに突き刺さるスパイクがことごとくブロックにワンタッチされてしまう。


横浜市内某公立高校 学園祭 

体育館で女子バレー部対一般生徒のエキシビジョンマッチが行われていた。
一般生徒の方は、バレー部以外の男子、先生もメンバーに入っていいという連合チームだった。
女子バレー部の圧倒的勝利かと思われていた試合だが、いざふたを開けてみると接戦だった。

連合チームのエースアタッカーは非常勤講師の杉本 桂 身長は172cmとバレー部の選手と比較するとそれほど高いというほどではなかったが、何といっても跳躍力がすごかった。
最高到達点は高校選抜の女子平均285㎝を上回る297cmだった。
一方バレー部のエースアタッカー黒崎サオリは身長178㎝で最高到達点303cm。あと数cm背が高かったら火の鳥NIPPONに選ばれていたかもしれない。


25点ラリーポイント制で行われている試合は、15対15。なかなか点差がつかないゲームにサオリはいらだっていた。
「全部私に上げて!」サオリはセッターの白石クミに言った。
しかし、サオリのスパイクは、男子バスケ部員のブロックにことごとくワンタッチされ、それを繋がれて桂にスパイクを決められるという場面が増えてきた。


21対21

バレー部のサーブが相手コートに入り、きれいなレシーブがセッターに返ると丁寧なトスが上がり桂が大きくジャンプした。
ブロック3枚をあざ笑うかのようにフェイントが決まった。21対22この試合、初めて連合チームがリードした。

「タイムアウト!」セッターのクミが大声でバレー部顧問の主審に伝えた。
円陣を組んだところでクミが何か言うたびにバレー部員がうなずいた。
そして最後にもう一言 何か言うと、全員大きくうなずいた。


連合チームのサーブが入る。きれいなレシーブがセッターのクミに返った。レフトオープンからサオリが助走をはじめ豪快なジャンプ、タイミングを合わせてブロック3枚が飛んだ。 トスはライトのサイドアタッカーに上がっていた。ノーマークで連合チームのコートにスパイクが突き刺さった。

22対22。

その後バレー部が連続ポイントを取って25 対22でバレー部が勝った。
まるで春高バレーで優勝したかのようにバレー部員が大騒ぎして喜んでいた。いつもは勝ってもクールだったサオリが一番喜んでいた。 
「クミ、ありがとう。」
「ううん、何といってもサオリがいるからよ。」


「みんな、今まで私がキャプテンでやってきたけど本当にふさわしいのはクミだと思うの。で、きょうからクミにキャプテンをやってもらおうかと思うんだけど…」
「私に務まるかしら?」

中には不安そうな顔をする部員もいたが、サオリの「私がフォローするから大丈夫」という一言で全員賛成した。
「先生、そういうことできょうからクミがキャプテンでよろしいでしょうか?」
「キミたちが決めたならそれでいい。」
チーム一の高身長からチーム一の低身長にキャプテンが変わった。


コート脇で桂がスポーツタオルで汗を拭いていると、サオリがやってきた。

「先生、ありがとうございました。私自身すごく勉強になった試合でした。」

「こちらこそ、ありがとう。おかげでいい汗かいたわ。ところで、タイムアウトの後 アンタたち見違えるほど動きが良くなったけど… 白石さんが何か言ってたみたいだったけど…。」

「あーあ、クミがいつも言っているようなことで大した事じゃないです。」

「よかったら、教えてくれない。」

「じゃぁここだけの話にしてくださいね。」

「オーケー、秘密は守るわ。」

「もっと早く動け ‼ もっと高く飛べ !! チンタラやってたらお前らぶっ殺すぞっ !! …って」

「 …… 。」

近くで聞いていたバレー部の顧問がニヤリとほくそ笑んだ。



※この作品はフィクションです。 登場する人物・団体は全て架空のものです。実在するものとは一切関係ありません。

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