超短編小説「悪魔が来りて笛を吹く」

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※この作品は「悪魔からの着信」の続編です。できればそちらを先にお読みいただければありがたいです。


「グボボボボーー」独特のエンジン音とともに目の覚めるようなフィストラルブルーのスポーツカーが来客用駐車スペースに止まった。
マクラーレン570S  Spider。
白いブラウスに、グレーのパンツ、ハイヒールにサングラスをかけた女性が跳ね上がったドアの奥から降りてきた。
女性はそのまま音楽室に向かった。


横浜市内某公立高校の学園祭
軽音楽部が音楽室で演奏を行っていた。
演奏が終わったところで女性の低い声がボーカルの高嶋に向かって届いた。
「アンタ、勝手に人のもの持ち出すんじゃないよ!」
(やべー、来ちゃったよ)
開場がざわついた。

「皆さん、お騒がせして申し訳ございません、すぐに帰りますので。」
誰もが知っているバイオリニストの女性がそう言うと、
「何か1曲弾いて下さい!」会場から声がかかった。
「申し訳ありません、きょうは野暮用で来ただけですので…」

「テレビで見るよりキレイ!」「若い!」そんな声が会場から漏れた。
それを聞き逃さなかった女性は、じゃあ最近やりだしたフルートを少しだけと言って、持ってきたフルートでいきなり「夜に駆ける」を演奏した。
最初から演奏する気でフルートを持ってきたのか理由はよくわからなかったが大盛り上がりだった。

「失礼いたしました、ではこれで」と言って高嶋の持ってきた「John Lennon」とサインの入ったギターを持ち帰ろうとした。
「アンタの腕ならそこに置いてある部活の備品で上等だわ。」

「今度はバイオリンでもう1曲!」と会場から声がかかった。
「申し訳ないですけど、バイオリンは契約とか、大人の事情とか色々あってそう簡単に弾くことができないんです。」
「えー、…」「聞きたーい!」
「お気持ちはうれしいんですが、申し訳ございません…」

「アレ高嶋のお袋さんだろ、お姉さんじゃないよね!」「クラッシック界の森高千里って言われてるらしいけど、むしろ森高よりキレイじゃねぇっ!」
その声が聞こえてきた瞬間スイッチが入った。
「車からバイオリン取ってきな!」と言って車のキーを高嶋に投げ渡した。


「では特別に『悪魔のロマンス』を演奏させていただきます。これマジでヤバいので絶対SNSに載せないでください。 載せたらマジでぶっ殺すから!」
会場が静まり返った。


演奏が終わると拍手が鳴りやまなかった。ハンカチで目頭を抑えている生徒もいた。
天使のような笑顔で満足そうにバイオリンを丁寧にケースにしまって帰り支度をしていると会場から掛け声がかかった。
「アンコール!」「アンコール!」
「お前ら、調子に乗んじゃねえぞ!」
再び会場が静まり返った。



※この作品はフィクションです。登場する人物団体は架空のもので実在するものと一切関係ありません。

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