Q.就業規則をゼロから整備したら?~経営陣との認識乖離について~

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ビジネス・マーケティング

はじめに

この記事は、特定の会社の話ではありません。
銀行員時代に融資・関連会社紹介を通じて多くの企業の内情に触れ、その後は管理部門の責任者として複数の組織で制度改革に携わってきました。
その経験の中で「これは一社だけの話ではない!」と繰り返し感じた場面があります。
その共通点を、就業規則の整備というテーマに絞って書いたのがこの記事です。

対象は主にベンチャー・成長期の中小企業。規定の変更をしばらくしていない、または制度がないまま走ってきた会社が、初めて就業規則と向き合うときに必ずぶつかる壁があります。

まず何から始めるか

迷わず厚労省のモデル就業規則を起点にすることをお勧めします。法令上の最低基準が網羅されており、骨格として使うには十分です。

ただし、テンプレートはあくまで「骨格」でしかありません。問題はここからです。

壁① 「知らなかった」が積み重なっている

ベンチャー・中小企業に共通する問題があります。制度がないまま走ってきた会社ほど、法令上の義務を「知らないままやり過ごしてきた」状態が積み重なっています。

典型的なのが固定残業代(みなし残業)です。
「月30時間分の固定残業代を払っているから残業代は不要」——そう思っている経営者は少なくありません。
しかし実態はそんなことありません。30時間以上残業が発生した場合、超過分の残業代支払が必要になります。

よくある誤解
さらに見落とされがちなのが、固定残業時間を60時間など高い水準に設定しているケースです。
36協定の上限規制では、月45時間を超える残業は特別条項を結んでいても年6回までしか認められません。
さらに特別条項でも、年間720時間・月100時間未満・複数月平均80時間という上限は絶対に超えられません。
固定残業60時間の設定は「残業してもいい雰囲気」を制度として作り出すだけでなく、法令違反のリスクを常態化させます。

未払い残業代は過去3年分遡って請求できます。訴訟に発展したケースも珍しくありません。「知らなかった」では済まない典型です。

「30分単位でいいじゃないか」——勤怠管理の落とし穴

他に印象に残っているのが、勤怠を30分単位で丸めて管理していた会社です。理由を聞くと「紙で管理していて、計算が大変だから」とのことでした。

気持ちは分かります。しかし労働基準法上、労働時間は1分単位で管理する義務があります。30分単位の切り捨ては明確なルール違反です。

この会社では勤怠システムの導入を提案し、1分単位の管理に移行しました。しかしそれ以上に時間がかかったのが、その後の対話でした。

「勤務時間」と「勤務時間外」の概念自体が、社員の間で曖昧なままだったのです。
社員からの問い合わせ実績・ネット上のよくある疑問・新入社員研修の題材——これらを集めて整理し、「着替えの時間は勤務時間に含まれますか?」「始業前のミーティングは?」「直行直帰の移動時間は?」といった現場で実際に起きる疑問に一つひとつ答える形でFAQ資料をまとめました。

条文の説明より、「自分の日常に当てはめたらどうなるか」が分かる資料の方が、社員には圧倒的に刺さります。
システムを入れるだけでは解決しません。ルールの意味を腹落ちさせることが先です。

壁② 経営陣との合意形成

これが最も消耗する工程です。

ベンチャー・中小企業の経営者に多いのが「法令より事業優先」という思考パターンです。悪意があるわけではありません。
ただ、知らない。そして知らないがゆえに、見当違いの要望が来ます。
・「遅刻・早退は全部有給を使わせたい」
・「育休の条件をもっと厳しくできないか」
・「傷病手当金って会社が払うの?うちには関係ない制度でしょ」

法的に不可能なものや、義務として存在するものが混在しています。
正論だけで押しても合意は取れません。感情が先に来るからです。

傷病手当金については特に説明に時間がかかることが多いです。
業務外の病気・ケガで3日以上休業した場合、4日目から標準報酬日額の3分の2が最大1年6ヶ月支給される制度です。
支払うのは会社ではなく健康保険組合ですが、制度の存在を周知する義務は会社にあります。「うちには関係ない」では済みません。

有効だったアプローチは、ひたすら壁打ちです。
・「なぜこのルールを残したいんですか?」
・「これが嫌な理由は何ですか?」
・「その目的なら、こういう形でも実現できますがどうですか?」

相手の「なぜ」を引き出し、感情の背景にある本音を整理します。
その上で、法令の範囲内で可能な限り経営者の意思に近い着地点を一緒に探します。これを繰り返しました。

壁③ 社員への展開

就業規則は経営陣の合意を取れば終わりではありません。
伝え方の面では、むしろ社員への展開が、最も丁寧さを要する工程です。

何もなかったところに突然ルールが生まれます。社員からすれば「急に縛られる」感覚になりかねません。
萎縮や反発が起きないよう、導入の道筋を慎重に設計する必要があります。

ポイントは2つです。
1. かみ砕いたマニュアルの作成
就業規則の条文をそのまま渡しても読まれません。日常業務に即した言葉で「つまりこういうことです」と翻訳したマニュアルを別途用意しました。
前述の通り、FAQ資料もこの時点で作っていましたが、社員と一体感を出すために、質問をもらう為にリバイスする形をとりました。(一部の社員は積極的に取り組んでくれ、結果としてその流れが社内浸透に一役買ってくれました)

2.「規則・規定は双方を守るもの」という定義の丁寧な説明
就業規則は「会社が社員を縛るもの」ではありません。「会社と社員、双方の権利と義務を明文化することで、お互いを守るもの」です。
この定義を最初に丁寧に伝えることで、社員の受け取り方が変わります。ルールの存在が、安心の根拠になります。

この説明を丁寧にやり切った会社では、展開後に「自分の権利も守られてフェアになれた」という声が複数上がりました。制度の中身より、伝え方が信頼を作ります。

今すぐ確認したいチェックリスト

以下に複数当てはまるなら、就業規則の見直しを検討してみてください。
【基本整備】
□ 就業規則が5年以上更新されていない
□ 常時10人以上の従業員がいるが、労基署への届出をしていない
□ 就業規則を社員に周知していない、または周知方法が不明確
□ 固定残業代の時間数・金額が給与明細に明示されていない
□ 勤怠管理を15分・30分単位で丸めて運用している
□ 有給管理が個人任せ、または年5日取得義務を把握していない
□ 育児・介護休業規程が就業規則に整備されていない
□ 傷病手当金の制度を社員に案内したことがない
□ ハラスメント防止規程が整備されていない
□ 情報管理・秘密保持に関する規定がない
□ 社員によって適用ルールが違う(なんとなく運用)

まとめ:就業規則づくりで本当に必要なスキル

法律知識は、調べれば補えます。

本当に難しいのは以下の3つです。
・現状の棚卸:「認識していたこと・いなかったこと」の仕分け
・経営者との交渉:感情の背景にある本音を引き出し、法令内で着地させる
・社員への展開:ルールを「押しつけ」でなく「共有」として届ける

専門家に外注すれば条文は作れます。
しかし、経営者の頭の中にある「なんとなく」を言語化し、社員に腹落ちさせるところまでやり切るのは、組織の実態を深く理解した人間にしかできない仕事です。

こんな支援ができます

就業規則の新規作成・見直しサポート、勤怠管理の整備、社員への展開設計、経営陣との合意形成支援まで一気通貫で対応できます。
「何から手をつければいいか分からない」という段階からでも歓迎です。まずは現状の課題整理からお気軽にご相談ください。

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