【食の安全と安心】東京農業大学小論文の勉強法(第3回)SFC対策にもなる

記事
学び
今回のキーワード:福島第一原発事故と風評被害,食品添加物,農薬と有機農法,トレーサビリティ,地産地消


(1)はじめに


気候変動や激甚災害、新型コロナウイルスの流行といった出来事を並べてみると、私たちが生きるこの世界は不確実性が増していることを実感する今日このごろです。人々は自分の生活の足元が崩れ去り、今までの人生で築いてきたものが崩れ去る不安に駆られています。

 2000年代に入り、BSE(牛海綿脳症)問題で日本中が揺れ、2011年の福島第一原発事故では、福島県産の農作物や水産物が放射能汚染の関連でダメージを受け、その後も深刻な風評被害に苦しみました。

 また2018年には東京中央卸売市場の豊洲移転問題で、小池都知事が安全と安心を騒ぎ立て、いろいろな意味で「時の人」になったことは記憶に新しいかと思います。

 そんなわけで、ここ20年間、「安全と安心」が時代を表すキーワードとなり、人々は神経質になるぐらいにリスクに対して敏感になりました。

 大学入試小論文のテーマもこうした時代背景に見合った形で、「安全と安心」という題材が文系・理系問わず出題されています。

 特に東京農業大学では、私たちの日常生活で人間の口に入る食品について学ぶ大学です。したがって、ことさら「食の安全と安心」の問題は必須テーマとして避けて通ることができないものとなっています。


(2)問題/埼玉県立大学保健医療福祉学部前期2014年




①安全と安心はしばしば一体で使われる言葉であるが、この両者はまったく異なる次元のものである。安全とは、科学的な根拠に基づいたリスクの低さを示す言葉である。逆に言うならば、安全というのはその裏側に一定のリスクがあることを前提にした話である。世の中に100パーセントの安全性などありえないことは、科学者なら皆知っていることである。たとえば、医薬品の安全性の評価はある一定の量、一定の投与期間、そして一定規模の集団の中での副作用症状の発症の度合い、さらには副作用の重症度と医薬品の効果との対比で判定されるのが通常である。副作用のない薬はほとんどない。したがって、適切な量を知ること、また人によって副作用に差があることを肝に銘じて医薬品は服用し、また処方されるべきである。

②一方、安心というのはまったく主観的なものである。どんなに危険性が高くても本人が安全だと信じていれば、これは安心である。たとえば、日本に住む限りにおいて、地震のリスクは常にある。また、その確率の予測はほとんど不可能に近い。何百年に1度とか何十年に1度と言われても、その1度が明日起こるのか100年後に起こるのか予想もつかない。しかし、大部分の人が毎日地震を心配して不安な気持ちで過ごしているかというと、たぶん大丈夫だろうと安心して過ごしている。

③2011年に起きた東日本大震災によって、多くの人が改めて地震のリスクを感じたが、残念ながら地震のリスクの定量化はきわめて困難である。また地震に対しても、津波に対しても完全な防災はありえない。安全性は常に相対的なものである。自動車に乗って事故に遭う確率と飛行機に乗って事故に遭う確率を比べてみれば、統計的には飛行機のほうが安全性が高いと言われている。しかし大きな違いは、飛行機の場合、事故に遭えば死ぬ確率はずっと高い。

④福島第一原発の事故によって大量の放射性物質が大気中に放出された。そして、福島第一原発からの放射性物質で汚染された地域の住民は、強制退去を余儀なくされた。放射線の影響について一般の人々がきわめて混乱した情報を与えられたことは、誠に残念である。日本学術会議の会長談話は事故から3カ月後の6月に、放射線の影響として、疫学的な研究によれば、事故が原因の生涯被曝が100ミリシーベルト以下では、発ガンのリスクが増加するという証拠がない、という国際的に多くの医学者が認めている見解を発表した。逆に言うならば、それ以下の放射線被曝についてそれほど神経質になることはない、というメッセージである。

⑤一方において、マスコミを賑わした研究者からは、わずかな放射線であっても細胞に影響があり、染色体への異常等を引き起こすという見解が述べられた。この事実は、いずれもその内容において正しい。ただし、染色体に傷がつくということと、発ガンをもたらすということには重大な差異があることに気をつけなければならない。

⑥われわれの体の中には常にDNAの損傷が起こっており、これを修復する仕組みが備わっている。DNAの損傷をきたす仕組みは、DNA代謝異常の中に含まれるさまざまな化学物質、体の中で作られる過酸化物など多くのものがある。それによって細胞の遺伝情報が大きな損傷を受けないようにDNA修復機構があり、また修復しきれなかった細胞は速やかに死を選ぶ仕組みが備わっている。さらに初期のガン細胞は体の免疫系によっても排除される。このような生体防御の何層もの防御をかいくぐり生じたものがガンである。その発症確率は、被曝者を対象にした疫学的な知見を総合して推計されているデータが、もっとも実際の安全性、危険性を表している。それによれば、事故が原因の生涯被曝が100ミリシーベルト以下では発ガンが増加するリスクは事実上ない。

⑦安全性に関してしばしば議論されるのが、狂牛病(BSE)の発症問題である。BSEの全頭検査という制度を導入し、これを行うことによって日本産の牛肉はl00パーセント安全だという安心を国民に与えている。また、牛肉輸出相手国にもそれに近い基準を求めている。しかし、BSEの発症確率とその発症にいたる年限を考えるならば、実際問題として全頭検査にかかる費用をかけるほどの意味があるのかどうかきわめて疑わしい。

⑧同じことは、低レベルの放射線についての除染費用の効果についても言えることである。放射線の影響については、ごく最近、と言っても1970年代までの核実験が行われていた時期には、大気中に大量の放射性物質が飛散し、雨となって日本にも大量に降り注いでいた。これらの放射線量は正確に定量され、そのデータが残っている。今どこの地域の放射線量が高い、低いといったわずかな差を議論するまでもなく、日本国中がその時点では放射性物質による汚染を受けていたわけである。科学的な安全性が重要なのは、人々の安心感を支える根底としての科学的なデータが必要だからである。しかし、感情的な安心感と科学的な安全性との間には常に乖離がある。

⑨組換えDNAについても、当初、組換えDNA自身が健康に悪いからという論法が強くうたわれた。しかし、米国産のトウモロコシはほとんどが組換えDNA種子で作られており、米国人は数十年間も大量に消費しているが、これまで何らの健康被害が報告されたことはない。また、わが国の飼料に使われているトウモロコシは、ほとんどが組換えDNA由来である。現在、組換えDNA反対に対する論議は、組換えDNA栽培によって環境に影響が出るという議論に向けられている。農薬に強い作物等の組換えDNAに対して、環境に抵抗性が強く、他の生態系に対して悪い影響を与えるであろうという懸念から、このような考えが提起されている。しかしながら、実際には農薬耐性のものだけではなく、さまざまな有効性を持った組換え植物が生み出され、使われつつある。

⑩リスク評価は、科学的に十分検証されるべきことは言うまでもないが、根拠のない推論に基づいた、不安感を煽る言動が日本のマスコミを含めた一部の人々にあることは、きわめて遺憾である。組換えDNA技術はすべて十把一絡げで危険なのではなく、個々のどのような組換え植物でどのような目的で作られたのか、これについて個別に安全性を検証すべきものである。
⑪実際、日本の農水省では個別の安全性試験を行い、輸入栽培を許可している。このままでは、きわめて有用な食物の生産、健康に大いに役立つ食物の生産を日本だけが行えなくなる危険性がある。科学技術と社会の受容性について、常に考えさせられるのは、科学的に十分な理解をした上で、安心という主観的な言葉ではなく、安全性という定量的な科学的な根拠に来づく判断が必要だということだ。

【問題1】課題文の中で著者が述べている「安心と安全」に関する科学技術における見解を150字以内で述べなさい。

【問題2】著者の主張をふまえて、「安心と安全」の関係はどうあるべきか、あなたの意見を320字以上400字以内で述べなさい。

(3)考え方


【問題1】


「安全」と「安心」との違いを厳密に定義して書くこと。

【問題2】

 定義したうえで、「食の安全を担保(保証)するにはどうすればよいか」「食の安心を担保(保証)するにはどうすればよいか」について具体的に書いていく。


ざっくりとまとめると、安全は科学的、客観的な判断であり、安心は主観的、心理的な感情ということができる。

安全→客観的、安心→主観的と対照的な言葉を用いることが望ましい。

安全を担保するには、公的機関や専門機関が科学的なエビデンスに基づく保証を行うこと。科学的なエビデンスとは、リスクの定量化を行い、実験を通して人間が摂取できる許容量の基準値を提示することが必要である。

安心を担保するには、人々の心理的な不安を抑えるために、以下の2点が重要となる。

①可視化(見える化)

レストランであれば、オープンキッチンにする。ファストフード店であれば、野菜等の生産者の氏名や顔写真を店内に掲示する。食品衛生担当(国であれば厚生労働省、企業であれば広報)による情報公開(ディスクロージャ―)も可視化の例である。

食品については、トレーサビリティ※が可視化をシステマチックに制度化したものと言える。

※トレーサビリティ:食品の安全を確保するために,栽培や飼育から加工・製造・流通などの過程を追跡できるようにした仕組み。

②説明責任を果たす。

いたずらに情報公開を遅らせると、市民は「何か隠しごとをしているのではないか」「深刻な事態に陥っているのではないか」と疑心暗鬼に駆られて、場合によってはパニック状態になる。

これを防ぐため、速やかに責任者(国の場合には厚生労働大臣、地方自治体では首長である都道府県知事や市町村長、企業は代表取締役やCEO)が記者会見などで国民の前に、正確な情報をわかりやすく伝える。

その際、リスクコミュニケーションをしっかりととることが求められる。

このように、①の情報公開と②の説明責任は表裏一体のものと考えてよい。

スクリーンショット (1532).png

(4)解答例


【問題1】


安全は科学的な根拠に基づいたリスクの低さを示すもので、安心は主観的な安全に対する信頼性を表す。世の中にゼロリスクはない。安全性の評価は確率論や統計に基づく相対的なものであり地震のリスクの定量化は困難である。科学的な理解を前提とし、主観的な安心ではなく定量的な科学的な根拠に基づく安全性の判断が必要だ。(150字)


【問題2】の解答例は【東京農業大学推薦入試小論文対策オンライン講座】を受講された方に配布します。


サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す