一度目の休職⑨

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ここまでやっても足りないってことですか?
「うつだから無理だ」と、私は言った。
けど、予定は変わっていなかった。
その厳しい現実を目の当たりにして、「あぁ… 死ねってことなんだなぁ…」って思った。
もう、思考力が落ちて、まともに仕事ができなかった。

そんな私に追い打ちをかけるような事態が起こる。
仕事に身が入っていない私は、製品に付けなければいけない伝票をつけ忘れてしまった。
そのミスを、製品を取りに来たEに指摘されたのだが、「ごめん」と言って伝票に数字を書き込もうとすると、伝票のない製品を、さっさと持っていってしまう。
確かにミスをしたのは私だが、二桁の数字を書き込むだけだ。
「わずか数秒ぐらい待ってくれてもよかろうに…」

Eは元々、性根の曲がった人間だった。
相手にしても得るものは何も無いことは思いしらされていた。
解ってはいたが、その日の私には、明らかに悪意のある、その行為を受け流すだけの余裕が残っていなかった。

伝票を持ってEの元に向かい、私はこう言った。
「確かにミスしたのは悪いけど、書き終わるまで数秒なんだから待っててくれても良いんじゃない?」
するとEは「そんなん言うなら、もっと早く欲しかったし」と、まるで足を引っ張られてると言わんばかりに言い放つ。
その言葉を聞いた時、辛うじて保っていた心の殻が完全に崩壊してしまった。

「もっと早く欲しかった」と言われた製品は、その日の朝に突然予定に組み込まれ、その日の内に造り上げたものだった。
新人の作業が遅い事を考慮して組まれた予定ではなかった為に、この日にできないと間に合わないというタイミングで組み込まれた、新人の尻拭いをした作業。
私からすれば、感謝されることはあっても、批判される言われはない。
やりたくも無いのにやったのだ。
一番やりたくない相手の仕事をやったのだ。
その感情を押し殺し、“うつ”になるほど、正に骨身を削り仕事に取り組んだのだ。
なのに、“足を引っ張っている”と言わんばかりのその言葉は、「何の為に、こんなになるまで働いているのか?」と、ずっと考えないようにしていた疑問の回答に答えるよう、私の心を問い詰めた。

上司Bの所に行き「ここまでやっても足りないって事ですか?」と言って、私は泣き崩れた。
また過呼吸に陥る。
そんな私にかける上司Bの当たり障りのない言葉は、私の心に全く響かなかった。

“何の為に、こんなになるまで働いているのか?”
その答えが見つからない私は、次の日から仕事に行けなかった。
その次の日も仕事に行けなかった。
その次の日も。
私は働けなくなってしまった。
15歳で社会に出て、およそ30年。
私は生まれて初めて休職することになる。

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