一度目の休職①

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コラム
きっかけは4年前に新入社員の教育係に指名されたことだった。

私が任された新人は新人らしからぬ態度だった。
言うことは全然聞かないし、時間は守らないし、態度が非常にデカかった。

基本的な作業を覚えさせるために、作業の説明をして、実際に作業している所を観察させてメモを取らせる。
数週間それを続けて、メモを取る手が鈍ってきた頃、「さあ、やってみて」とやらせてみると、全く違うことをやりだす。

「なんでメモを見てやらないの?」と尋ねると、「メモを見ながらやったら力がつかないんで」と自信満々のドヤ顔で答える。
「給料貰って勉強してるんだから、見ながらでも、なんでも、出来てなきゃダメなんだよ。そういうのは趣味でやってくれ」と言うと、露骨に不貞腐れる。

物覚えが悪く、素直さが無く、異様に自信満々。
間違えても、失敗しても、とにかく「すいません」の一言が言えない。
そんな可愛くない新人に仕事を教える時間は、私自身が作り出さなければいけない。
新人の教育係になったからといって、今までこなしてきた仕事の量を減らしてもらえる訳ではない。
新人と不毛なやり取りをしても仕事が間に合うように、今までよりも早く出勤して準備をしているのだから、自分のしている事を“馬鹿らしい”と感じるまで、あまり時間を要さなかった。

一ヶ月ほど経過した頃、新人は、とある製品で起きた不具合の修正をするように指示される。
「この作業が終わるまで、教育係から解放される」と思ったのも束の間、作業開始から20分が経過した頃、新人の異変に気付く。
座って行う作業だからなのか、船を漕いで居眠りしているのだ。
入社して一ヶ月。
緊張感のかけらも感じられない。
「お前、眠てぇなら早退して家で寝ろ!ここは寝る場所じゃねぇーんだよ」
思わず声を荒げる。

その事を上司に報告。
すると、私の想像をはるかに超える返答が返ってくる。

上司A
「ツヅキさん、高卒は0なんですよ。その0を1にするのが教育係の仕事なんですよ」
一回り年下の上司が私にしたり顔で教育論を説く。
私は30年社会人をしているが、居眠りをしてはいけないと、社会人一年生に教育している場面に遭遇したことは無い。

上司B
「居眠りしないように、眠くならない方法うを教えておいたで」

なんだか皆さん寛容ですね。
お説教とかしないんですか?
薄々気づいていたけど、社風と自分の価値観のズレを、この時にハッキリと認識してしまう。

新人は連日居眠りをしながら作業をしていた。
上司は“眠くならないコツ”とやらを習得させ、0が1になるのを見守るつもりのようだが、すぐそばで居眠りをされてる私の心は穏やかではなかった。

そんな不満気な態度に新人が反応する。
「23個」
「???は?」
「1日16個やれば良いって言われてるんですけど、23個。計算してみれば分かると思いますよ」と、またもドヤ顔で、私にマウントを取りだす。

16個は、こなさないと納期に間に合わなくなる下限の個数。
標準的なスピードの基準ではない。

意訳すると
「お前は居眠りしている事に不満そうだが、1日16個こなせば良い作業を、23個こなす俺は、十分一人前の仕事をしている。それが解らないなら計算してみてごらん」と言いたかったようだ。

入社1ヶ月の新人にここまで言われては黙っていられない。
「ろくに仕事も覚えていない奴が、居眠りしながら仕事をしてて、そんな態度をとるのか?それが仕事を教わる人間の態度か?」と声を荒げる。

近くにいた上司Aが、その声を聞きつけて止めに入る。
「ツヅキさん、やめた方がいい」
「何が?居眠りしてて、開き直って、さらに俺にマウント取ってるんやぞ。それを許すんか?」
「とにかく、やめた方がいい」

善も悪もない。
信念もない。
その場を治める為だけの薄っぺらな言葉。

私にどうしろというのだ?
指示に従わない。
手助けもない。
説教もできない。
けど、0→1にしろと言われる。

手段を封じられ、ただひたすらに結果だけを要求される。

この時から、私は完全に自分を見失う。

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