妊娠という呪い①

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コラム

近所のおばさんという呪術師

結婚をしてから随分経ったが、なかなか子宝に恵まれなかった。
私と妻は、交際中から、あまり回数が多いカップルでは無かった。
本来、一番そういう行為に精を出すであろう期間に、2年間も遠距離恋愛をしていた為か、“それ”をしなくても恋人同士として成立する関係ができあがってしまっていた。

私は相手が望んでいないのに、行為に及ぼうとすることに強い抵抗があった。
セックスは二人でするのだから、相手が望んでいないのに、自分の性欲を満たす為に行為に及ぶのは、“やらせてもらっている”ようで、心が満たされなかった。
そんな、みじめな気持ちになるのが嫌で、自分で処理することを選択していた。

結婚と同時に妻の両親と同居したのも、少ない回数が、より減ってしまう要因になった。
テレビを観ながら… 会話をしながら… そんな何気ない日常から、気分が盛り上がって、なんとなく始まってしまうようなシュチュエーションは、まったく無くなってしまった。
仕事を終えて、食事をして、風呂に入って、歯を磨き、すべてが終わって、“さあ、寝ようか”という時になって、“しよう”か“寝よう”かが決まる。
時と場合が限定される事は、一人暮らしで好き勝手生きてきた私にとって、行為に及ぶまでのハードルを高く高く上げた。

そんな、二重、三重のハードルの高さが行為の回数を極端に減らした。
交際期間が長かったこともあるのかもしれないが、とても、新婚とは思えない頻度だったと思う。
ろくにしていないのだから、子供ができないのは、当然と言えば当然だったのかもしれない。

そんな状況が一変したのは、結婚してから1年ぐらいが経過した頃だった。
義理のお父さんがガンで、この世を去った。
地元では名の通った人だったので、お葬式が終わっても近所の人が結構な頻度でお悔やみの言葉を掛けに来てくださっていた。
しかし、その中の一人のおばさんが妻の地雷を踏んでしまったのだ。
「お父さんが生きてる内に、孫の顔を見せてあげたかったねぇ」
デリカシーのかけらもない、その言葉に妻は部屋にこもり号泣していた。

この日を境に、それまで妻がぼんやりと思っていた、“子供が欲しい”という願望は、なんとしても“子供を産まねば”という呪いに変わってしまった。
「子供が欲しい」と言う妻からは、言葉では言い表せない違和感と強いプレッシャーを感じた。
その時の違和感の正体は、この時点では解らなかったが、夫としてしなければいけない事が何なのかは、すぐに理解できた。
妻を救う為に、この呪いを解かなければいけない。
その呪いを解く方法は“妻が妊娠する”ことだけだ。
見ず知らずのおばさんがかけた呪いは、私達夫婦の生活に大きな影響を与えた。
夫婦の意思でもなく、両親からのプレッシャーでもなく、見知らぬおばさんの一言で、私達夫婦は結婚する前に考えもしなかった妊活を突如スタートする事になる。

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