妊娠という呪い②

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コラム
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不妊治療


妊活がスタートしてから、排卵日と生理が来る日は憂鬱だった。
最初の数ヶ月は、「まあまあ…焦らなくても…」という雰囲気だったが、半年ぐらい経過すると、それでは済まされない雰囲気になってくる。
排卵日には「次こそは!」と気合が入り、生理がくる度に酷く落ち込む妻に、私は何と言葉をかけたらいいのか解らなかった。
毎月、毎月、正解のない問題の回答を問い詰められているような気分だった。
月を追うごとに、その難易度が上がっていく。
息苦しい…
子供ができない事よりも、幸せの基準が“それ”に支配されてしまっていることが苦しくて仕方がなかった。

ある日、妻が不妊治療を受けたいと言い出した。
妊娠しそうな時を狙ってしているのに妊娠しないのだ。
どちらかに何らかの異常があるかもしれないと考えるのは、自然な流れだった。
少々、大げさな気もしたが、私は快諾した。
妻を呪いから開放したかったのは、もちろんだが、私自身もこの状況が続く事から開放されたかった。

受診した病院で検査を行うが異常は見つからなかった。
私も妻も、至って正常だと言われた。
あとは適切なタイミングでするだけだと言われた。
妻は毎日体温計をチェックしてタイミングをはかる。
異常が無いと言われたのは幸いだったが、それゆえに妊娠しないという現実は、より焦りを生んだ。

不妊治療の病院を受信して数ヶ月が経過した時、妻から人工授精を試してみたいと言われる。
排卵日に合わせて精子を持参して、病院で受精を試みるという治療法。
愛を育むためでもなく、性欲を満たすためでもなく、精子を採取するために、仕事に行く前に自慰行為を行う。
「あぁ…そうか…あの時感じた違和感はこれだったのか…」
なんだか腑に落ちてしまう。
妻は性行為そのものを欲していないんだ。

一方で妻が妊娠することに協力しつつ、もう一方で妻と自分の性に対する価値観の違いをはっきりと認識してしまう。
そんな私の心模様が反映されてしまったのか、人口受精は成功しなかった。
その後、何度か試みてみるものの妊娠には至らず。
一年が経過する頃、妻から「一度区切りをつけようと思う」と言われ、不妊治療は一旦休止する事になった。
休止を決断した妻の顔は少し優しく見えた。
妊娠はしてないが、少し呪いが解けた気がした。

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