中小企業経営のための情報発信ブログ226:多様性の科学

記事
ビジネス・マーケティング
今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
さて、今日は、マシュー・サイド著「多様性の科学 画一的で凋落する組織 複数の視点で問題を解決する組織」(ディスカヴァー)を紹介します。昨日の「失敗の科学」に続き、マシュー・サイド氏の著書を取り上げました。
多様性、ダイバシティということが叫ばれるようになって久しく、多様性に取り組んでいる組織も多いと思います。組織において、外国人を採用したり、女性を登用したりとさまざまな取組みがなされます。しかし、多様性を高めようと外国人や女性を採用しても何一つ変わらないという声も聞こえてきます。それは、多様性の本質を考えず、外国人や女性を採用することが多様性だと考えているからです。多様性は目的ではなく手段です。世の中が「多様性、ダイバシティ」と言うから、とりあえず他の企業を真似て外国人や女性を採用したというだけで、何のために採用したのか、多様性によって実現したい目的が明確でないのです。
盲目的に社会の流れだからと言って多様性を高めるのではなく、解決する課題は何か、を明確にして、その課題解決のために多様性が役立つのかを考えた上で、どのような多様性を取り入れるのかを検討することが重要なのです。
多様性というと、得てして国籍や性別、年齢といった枠組みで捉えられがちですが、わかりやすい軸ではあるものの一律に捉えることで間違った方向にいくこともあるのです。例えば、外国人を採用する場合、日本で生まれ育った外国人は日本人と同じ考え方をするかも知れませんし、男性ばかりの中で育った女性は男性的な発想をするかも知れません。「外国人だからこう、女性だからこう」といったバイアスにとらわれずに、それぞれの組織に合った軸を選択する方が多様性を高めることができるのです。
また、組織の多様性を高めるには、二者が対立する構図があって初めて少数者も多様性に貢献できます。こうした二強対立の構図がなければ、新しい属性を増やしても、新しい属性は強力な元からの属性に飲み込まれ、その存在すら消えてしまいます。
多様性の基本は、多様性をいう言葉でくくられることになった特性を持った存在を認め合い、活かし合うということです。組織において、外国人、女性、LGBT、障害者、若手、パート、再雇用者、価値観など区別されやすい存在を差別的な目で見ることなく、認め合い、その特性を活かし活躍できる環境を作ることです。
さて、多様性の説明はそれくらいにして、この本の内容についてです。
1.画一的集団の「死角」
 世の中に「後知恵バイアス」というのがあります。後知恵バイアスというのは、「最初はそんなことは思っていなかったのに、物事が起きてから、そのすべては予想内だったと考える傾向」のことです。
 9.11の事件が起きたとき、「情報機関が明らかな徴候を見逃した」という意見もあれば、「CIAは考える限りの行動を取った」という意見もありましたが、どちらも間違っていると考えた人はほとんどいませんでした。多様性の観点で言えば、CIAに多様性はなかったのです。白人・男性・アングロサクソン系・プロテスタントという同類を好んで採用し、画一的に物事を考えるようになっていたのです。どんなに優秀な人が集まっても、考えが似通り、重要なミスに気づけない可能性があるのです。
 複雑で解決困難な問題を考えるときに正しい考えばかりでなく(何が正しいかすら分かりません)、「違う考え」も必要です。違う視点で物事を見ることで、これまで見えなかったものが見えるのです。我々は、無自覚にバイアスがかかっているので、自分の視点で物事を見ます。それでは盲点に気づくことはできません。多角的な視点を持っていれば盲点も少なくなるのです。
 同じような人の集団はパフォーマンスも低く盲点も共有しがちです。同じ考えをするのでミスにも気づきません。チームや集団、組織に欠かせないのが多様性です。性別・人種・年齢などは「人口統計学的多様性」と呼ばれ、ものの見方や感慨方が異なるのを「認知的多様性」と呼びます。集団や組織に必要なのは、認知的多様性ですが、人口統計学的多様性が高いと、一般的に認知的多様性も高くなります。背景が異なれば考え方や価値観も異なるからです。
2.クローン対反対者
 優秀な人が集まっているが、思考や視点が似通っている集団を「無知な集団(クローン集団)」と呼びます。考えが同じなので、同じような意見を持ち、「あの人の意見と同じだから正しい」と思い込んでしまうのです。こうして間違いに気づくことなくそのまま事を進め大きなミスに繋がるのです。
 一方で、全く別のスペシャリストが集まった集団では多様性が生まれます。これを「賢い集団(反逆者集団)」と呼びます。自分が全体のどの部分をカバーでき、他の人がどの領域にいるのかを一歩下がって見渡すことができるのです。各人が、全体を見渡しながら、自分の領域に専念するので盲点が生まれにくいのです。
 しかし、注意しなければならないのは、問題空間から外れた人をいくら集めても意味がありません。多様性はありますが、問題や課題からは外れており何の役にも立たないのです。これは「無知な集団(根拠のない人選)」です。
3.不均等なコミュニケーション
 最初にも書きましたが、二強対立の構図がなければ、多様性を考慮して新しい属性を採用しても元の強い属性に飲み込まれてしまいます。
 多様な考えの人を採用しても、地位の高いリーダーが部下の意見やアイデアを考慮せず却下し、自分の意見を押しつけたのでは、多様性に意味がありません。多様性のあるチームでも支配的なリーダーがいると多様性が失われてしまうのです。
 チームに団結力は必要ですが、多様な視点や意見が押しつぶされている限り、適切な意思決定はできません。場合によっては大きなミスに繋がります。
 以前Googleは管理職を廃止し、完全にフラットな組織を作りました。多様な意見や視点が押しつぶされるのを防ごうとしたのです。しかし、その結果、組織はまとまらず失敗しました。組織において、ヒエラルキーは必要ですが、そこで必要なのは支配的なリーダーではなく、周りからの尊敬によって成り立つリーダーです。自分の意見を押しつけるのではなく、多種多様な意見や考えをまとめ上げるリーダーです。
 自分の意見が言える環境、つまり心理的安定性が高い組織やチームが必要です。心理的安定性があれば、反対意見や少数意見を言ってもとがめられることはありませんし、チームや組織が全員の力で良い方向へと進められていきます。
4.イノベーション
 イノベーションには2つの種類があります。1つは特定の方向に向かって1歩1歩前進するタイプのイノベーションです。例えばダイソンのように粘り強く改良を加え、段階的にアイデアを深めていく方法です。もう1つは、融合のイノベーションです。既にあるものを組み合わせて新しい価値を生み出すものです。例えば、スーツケースに車輪をつけることで、キャリーバックになるようなものです。
 今では、これまでのアイデアに新しいものを付け加える融合のイノベーションの方が多くなっています。融合のイノベーションは多様性に似ています。
 違うものと違うものを掛け合わせることで新しい価値を生むのです。
 イノベーションで大切なのは、当事者でありながら第三者の視点で物事を見ることです。
 また、新しい気づきを得るには前提をなくしてみることも手です。
 Uberは世界最大のタクシー会社、Airbnbは世界最大のホテル会社といっていい状況ですが、彼らはタクシーやホテルを所有していません。タクシーやホテルを持たずにタクシー会社やホテル会社をやろうと考えた人がほかにいたでしょうか?
 誰も思いつかないような卓越したアイデアや発想がイノベーションを生むのではありません。市場の変化と時代の流れに対して常にアンテナを張り巡らせ常に模索し続けることが大切なのです。そのためには価値観や考え方が異なる多様な人たちによるアンテナや模索が役に立つのです。
5.エコーチェンバー現象
 人数が少ない学校では多様性が生まれやすく、人数が多い学校では多様性が生まれにくいと言われます。普通に考えれば、人数が多いほど多様な考えや意見が生まれそうですが、人数が多くなるとその中から自分に似た人や合う人を探し、結果として多様性がなくなるのです。色んな人が参加するパーティーでも、結局は顔見知りの人と話してしまいネットワークが広がらないのです。これは現代社会の特長の1つで「エコーチェンバー現象」と呼ばれます。エコーチェンバーは同じ意見の者同士でコミュニケーションし、特定の信念が強化されることです。周りにいる少数の意見がその他全員の意見であると勘違いしてしまうのです。
 一般の人のことなら直ちに信用しないが、医者や教師の言うことなら疑いもせず信じてしまう人もいるでしょう。自分の信頼する人がフェイクニュースを流せば、信じる可能性は高いのです。世の中的にはフェイクニュースとされているのに自分の周りでは真実として扱われてしまうのです。
6.平均値の落とし穴
 以前、空軍機の事故が多発していました。その原因はコックピットの設計にあったのです。当時のコックピットは、さまざまなパイロットの平均値を元に設計されていました。実際のパイロットを測った平均値なのに、平均に当てはまるパイロットは一人もいなかったのです。コックピットをその人に合わせて変えられるようにしたことで安全性が大幅に向上したのです。
 我々の回りではさまざまなものが平準化しています。標準化と言ってもいいでしょう。今は標準化はいけないのです。標準化というのは、「個性的であることは問題」という発想で、多様性など考えずに標準通り、マニュアル通りにこなせばいいという考え方です。価値観が多様化し、個性が重視される現在、標準化・平準化は時代遅れです。
7.大局を見る
 人類は、優れた知恵やアイデアが大きな脳をもたらし、あらゆる場所で繁栄しました。群れを作って集団で暮らしたことで、学習が進み、1人でできなかったことが、複数集まることで知恵やアイデアが生まれできるようになったのです。まさに多様性の力です。その知恵は代々受け継がれ、現在まで継承されています。
 多様性を取り込むには次の点(ポイント)に注意することが大切です。
1:無意識のバイアスを取り除く
 ・自分が築かないうちに持っている偏見や固定観念を取り除く
 ・オーケストラの試験で、演奏だけ聴いて合否を判定する仕組みにしたら女性の合格率が格段に上がった
2:陰の理事会
 ・年功序列の壁を無視して、若い社員で上層部に意見できるようにする
 ・文化や背景が変われば、視点も変わり、結果も変わる
3:与える姿勢
 ・ギバー、つまり与える人は成功しやすい
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す