中小企業経営のための情報発信ブログ225:失敗の科学

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
さて、今日は、マシュー・サイド著「失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織」(ディスカヴァー)を紹介します。
著者のサイド氏は、英「タイムズ」紙の第一級コラムニスト・ライターで、オックスフォード大学哲学政治経済学部を首席で卒業し、卓球選手として活躍し10年近く英国1位の座を守りっていたことでも有名です。
失敗の重要性については折に触れ色々と書いてきました。この本は失敗の重要性を再確認させてくれる本です。
多くの人は失敗についてネガティブなイメージを抱いています。しかし、エジソンの言葉から分かるように「失敗は成功の母」であり、失敗が人を育ててくれることも明らかです。稲盛和夫・永守重信、孫正義といった多くの企業家・経営者も失敗の重要性を指摘しています。
失敗があればこそ、人は反省し、再びチャレンジすることができます。その積み重ねが大きな成果を生み出してくれるのです。人間誰しも失敗を犯します。失敗しない人なんていません。もし失敗しないという人がいれば、その人はチャレンジしていないと言っていいはずです。
1.失敗から学習する組織、学習しない組織
 この本では、失敗から学習する組織の代表として「航空業界」、学習できない代表として「医療業界」が挙げられています。航空業界が優れているとか、医療業界がダメだというわけではありません。どちらの業界も、多くの命を犠牲にしてより安全なシステムの構築に努力しているのです。特にアメリカの医療業界では、回避可能な医療事故の被害者が100万人以上、死亡事故が12万人以上という状況でした。
 一方航空業界では、1912年には2人に1人以上が事故により命を落としていましたが、2014年には100万フライトに0.23回の確率まで事故が減っています。これは、飛行機に搭載されているブラックボックスにより事故原因を知ることができ、それにより事故防止の対策がとられたからです。つまり、失敗から原因を探り、改善策をとることで、事故が減少したということです。失敗から学び改善・修正することが極めて効率がいいということです。
 しかし、人というのは、失敗から学ぶということが苦手な生き物です。少し古くなりますが、阪神淡路大震災で多くの人命が失われ多大な被害が出ましたが、それが東日本大震災に活かされていたかというとそうではありません。結局同じ轍を踏んでいます。コロナ禍の危機的状況も同じです。相変わらず後手後手の対策に終始し、リスク管理ができていません。政府も政治家も何一つ学習していないのです。
2.失敗を隠蔽する理由
 失敗から学べない事態に陥るのは、「失敗は良くないこと・恥ずかしいこと」という意識があり、失敗を隠蔽してしまおうとするからです。性能データ偽造、会計不正などの多くの企業不祥事が、この隠蔽体質で起きています。
 こうした事件が明るみに出ると「組織防衛」、つまり組織を守るためにやったと言われます。しかし、結果的に見れば防衛どころか企業を壊滅の危機に陥れています。冷静に考えれば、不正や隠蔽が発覚したときには、そのリスクの大きさは認識できるはずです。それにもかかわらず、隠蔽や不正が横行するのは、リーダーの自己保身が大きな要因です。自己保身の根底にあるのは自分の弱点や欠点を隠そうとするメンタリティです。人は、自分の弱みや弱点を他人に見せたくないので、それらを隠すことに多大なエネルギーを費やします。
 企業において、組織のメンバーが自然と自己開示できる状態であると、弱点や欠点を隠す必要がなくなります。ありのままの自分をさらけ出し、知らないことは知らないと言える職場、組織が必要なのです。風通しのよい、心理的安定性のある職場が求められるのです。
 そうはいっても、人間ですから、失敗したときに「信じたくない」「信じられない」と失敗を素直に認められないのは仕方ありません。航空業界でも医療業界でも、警察・検察など色々の業界で、エリートほど失敗を認められず保身に走ってしまいます。
 失敗学の権威畑村洋太郎・東京大学名誉教授は、その著「新失敗学 正解を作る技術」の中で、「決められた正解を出す」ことが優秀とされ、偏差値重視の中で勝ち上がってきたエリートたちは、失敗を恐れるあまり前例主義にとらわれて、新たなチャレンジができないでいると言っています。日本の社会では成長に欠かせない成長マインドが失われています。現代のようなVUCAの時代、何が正解か分からない時代には、今までの常識が通用しなくなり、正解も一つとは限りません。失敗から正解を見つける勇気が必要なのです。
 そうはいっても、失敗から学び成功へとつなげるためには、失敗を認めることが大切ですが、これが非常に難しいのです。
 人が失敗を隠したがる理由には2つあります。1つは認知的不協和です。認知的不協和というのは、自分の信念と事実が矛盾する状態、あるいはその矛盾によって生じる不快感やストレスを指します。自分の信念に反する事実が出てきた場合、自尊心が脅かされ、事実を隠し信念を貫こうとするのです。もう1つは他人の目・批判です。失敗した場合、非難や批判が集まる環境では、だれもが失敗を隠したがるのは当然と言えば当然です。
 重要なのは、「失敗」自身ではなく失敗に対する「姿勢」なのです。医療業界では、「完璧でないことは、無能に等しい」という考えがあり、「医師は完璧だ」という大きな錯覚にとらわれています。これは医療業界だけでなく、政治家も官僚もそうです。
 一方、航空業界は、いち早く「事故は必ず起きるもの」という前提ですべての飛行機にブラックボックスを搭載しました。それによって事故の原因を探り、そこから学習して事故防止の対策がとられたのです。
3.失敗から学ぶための心得
 失敗を学習のためのチャンスと捉えることが大切です。問題は、それをどのようにして実行するかです。それには2つの方法があります。
Ⅰ:マージナル・ゲイン・・・これは小さな改善を積み重ねることで大きな成果が生まれるという考え方です。一見効果がなさそうな小さな改善を徹底的に積み重ねていくことで、最終的な成果を目指すのです。改善すべきところ(失敗)があるなら、それがどんなに小さなものでも見逃さず、改善していくことが重要なのです。
Ⅱ:成長型マインドセット・・・努力次第で自分の能力は成長させることができるという考え方です。これと対照的なのが、自分の知性や才能は生まれつきのものと考える「固定型マインドセット」です。固定型マインドセットでは今以上の向上は求められません。しっかりと失敗に注意を向け、失敗から学び少しずつでも前進していこうという姿勢が重要です。失敗を「自分に才能がない証拠」と考えるのは間違っています。失敗を学びのチャンスと捉え、改善を積み重ねていくことです。
この本には、あらゆる種類の失敗が挙げられています。中には絶対許されないような失敗の事例もあります。新聞報道される企業不祥事はどれも、そのようなものばかりです。しかし、これが人間の性なのです。許されないものと批判し憤るのではなく、冷静に見つめることです。そこからも学びはあるのです。
ここで重要なのは「失敗をいけないことと考えず学びとして検証する」真摯な心と「他人の失敗を非難しない」という寛容な心が必要です。
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