ちゃんと見るって、言ったでしょ?

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コラム
昼休みのざわめきが、少しだけ遠くに感じる。

教室の中はにぎやかで、
誰かの笑い声が、何度も弾む。

凪は、自分の席でお弁当のふたを開けた。

いつもと同じ中身。
いつもと同じ匂い。

でも、
箸を持ったまま、少しだけ手が止まる。

「ちゃんと見るって、言ったでしょ?」

また、浮かぶ。
ほんの一瞬。

凪は、軽く瞬きをして、
そのまま一口、口に運ぶ。

味はする。
でも、どこか、遠い。

「今日さ、放課後どうする?」

向かいの席から、悠真が言う。

何気ない声。

凪は、少しだけ顔を上げる。

「……まだ、決めてない」
短く答える。

本当は、考えていないわけじゃない。

でも、言葉にすると、
違うものになりそうで。

悠真は「そっか」とだけ言って、
それ以上は聞かない。

その距離が、ありがたいはずなのに、
どこか、少しだけ、物足りない。

窓の外に、風が通る。
カーテンが、ふわりと揺れる。

その動きに、
昨夜のブランコが重なる。

きい、と鳴る音。
ほんの少しの揺れ。

凪の指先が、わずかに動く。
箸を持つ手とは反対の手。

机の上で、少しだけ握られる。

無意識に。

「なに?」

隣から、蓮の声。

視線だけ向けると、
やわらかい顔がそこにある。

「……ううん」
凪は、小さく首を振る。

蓮は、それ以上踏み込まない。

ただ、同じ空気の中にいる。

それが、心地いいはずなのに、
凪の中で、ほんの少しだけ、
何かが足りない。

理由は、まだわからない。

ふと、ポケットに意識がいく。

スマートフォン。

さっきから、見ていない。

見ようと思えば、すぐ見られる。

でも、
なぜか、そのままにしている。

開いたら、何かがはっきりしてしまう気がして。

まだ、その形にしたくない。

チャイムが鳴る。
昼休みの終わり。

凪は、お弁当を閉じる。

カチッという小さな音。
その音が、やけに響く。

立ち上がる。

椅子が、少しだけ鳴る。

周りと同じ動き。

同じ流れ。

でも、凪の中でだけ、
ほんの少し、
違う時間が流れている。

教科書を取り出す。

ページをめくる。

その途中で、ふと、手が止まる。

理由は、ない。

ただ、ほんの一瞬だけ、
別の場所に触れそうになる。

昨夜の空気。
あの距離。
あの目。

「ちゃんと見るって、言ったでしょ?」

凪は、ゆっくり息を吐く。

そして、ページをめくる。
何もなかったように。

でも、ほんの少しだけ、
続きが、消えずに残っている。
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