それ、ちゃんと守ってくれればいい
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コラム
教室に、静かな余韻が残る。
誰も、すぐには動かない。
夕方の光だけが、ゆっくりと色を変えていく。
凪は、まだ立っている。
まっすぐに。
でも、その中で、ひとつだけ、
確かに変わったものがある。
“迷い方”が、変わった。
逃げるための迷いじゃない。
向き合うための迷い。
悠真が、ふっと息を吐く。
「……さ」
少しだけ、声がやわらぐ。
「今、決めなくていいって言ったけど」
凪の目が、ゆっくり動く。
悠真を見る。
「逃げないって言ったの」
少しだけ笑う。
「それ、ちゃんと守ってくれればいい」
凪の胸が、少しだけ温かくなる。
強く縛らない言葉。
ちゃんと信じている言葉。
凪は、小さくうなずく。
「……うん」
そのとき、
蓮が、一歩だけ前に出る。
静かに。
でも、はっきりとした足取り。
「じゃあさ」
やわらかい声。
「その時間、ちゃんと一緒に過ごそうよ」
凪の心が、少しだけ揺れる。
「決めるための時間じゃなくて」
少し間。
「自分でいられる時間として」
その言葉に、凪の呼吸が変わる。
(……それ)
すっと、胸に入ってくる。
悠真も、少しだけ目を細める。
反発しない。
でも、簡単には譲らない空気。
「それ、俺も一緒でいい?」
短く真っ直ぐに。
蓮が、少しだけ笑う。
「もちろん」
その一言で、
また、空気が揺れる。
競い合いじゃないけど、
引かない関係。
凪は、その二人を見ている。
不思議だった。
少し前まで、
どちらかを選ばなきゃと思っていた。
でも今は、
“自分をどうするか”を考えている。
その中に、二人がいる。
そのとき、
陽菜が、軽く手を叩く。
「はい、ストップ」
少しだけ笑いながら。
三人が、そっちを見る。
「これ以上やるとさ」
肩をすくめる。
「重すぎて青春じゃなくなるから」
その言葉に、ふっと空気がほどける。
凪が、少しだけ笑う。
悠真も、肩の力を抜く。
蓮も、目を細める。
陽菜が、にこっと笑う。
「まずはさ」
少しだけ前に出る。
「普通に過ごしてみなよ」
一番、現実的な言葉。
凪は、小さく息を吐く。
「……うん」
今の自分に、できること。
それを、ちゃんとやる。
それでいい。
夕方の光が、少しだけやわらぐ。
影が、長く伸びる。
四人の距離は、まだ曖昧。
でも、その曖昧さの中に嘘はない。
凪は、ゆっくりと一歩踏み出す。
誰かの方じゃなくて、
自分の足で。
そして、この物語は恋を越えて、
“自分を生きる物語”へと、静かに進んでいく。