どんな自分でいたいかが、まだわかってない
記事
コラム
夕方の光が、教室の奥まで伸びている。
凪の言葉が、まだ空気に残っている。
「自分をちゃんと選びたい」
その一言で、
場の重さが、少しだけ変わった。
悠真が、ゆっくり息を吐く。
「……そっか」
短い。
その中に、いろんな感情が混ざっている。
納得と。
戸惑いと。
少しの寂しさ。
凪は、それをちゃんと見ている。
目をそらさない。
もう、逃げないから。
蓮が、静かに口を開く。
「それってさ」
やわらかい声。
「今は、どっちも選ばないってこと?」
正直な気持ち。
責めていない。
ただ、確かめている。
凪は、少しだけ考える。
そして、
「……うん」
小さく、でもはっきり。
「今のままじゃ、選べない」
正直な言葉。
悠真の指が、少しだけ動く。
握る。
でも、何も言わない。
凪は、続ける。
「どっちがいいかじゃなくて」
少し間。
「どんな自分でいたいかが、まだわかってない」
それは逃げじゃない。
ちゃんと向き合っているからこそ出た言葉。
陽菜が、ふっと笑う。
「それ、めっちゃ大事じゃん」
軽い言い方。
でも、一番核心を突いている。
凪は、少しだけ安心したように息を吐く。
悠真が、顔を上げる。
「じゃあさ」
少しだけ前に出る。
「その時間、ちゃんと取ろう」
凪の目が、揺れる。
「無理に今決めなくていい」
まっすぐな言葉。
「でも」
少しだけ間。
「俺は、待つ」
その一言。
押しつけじゃない。
凪の胸が、少しだけ熱くなる。
そのとき、
蓮が、少しだけ笑う。
「俺も」
短く。
でも、はっきり、
「急がせるつもりないよ」
その言葉に、
凪の中で、何かがほどける。
比べられていない。
選ばされていない。
ただ、
自分で選べる場所に立っている。
陽菜が、腕を組む。
少しだけ楽しそうに。
「なんかさ」
ゆっくり言う。
「いい感じにめんどくさいね」
その言葉で、
三人が、少しだけ笑う。
重かった空気が、ふっと軽くなる。
でも、
大事なことは、ちゃんと残っている。
凪は、ゆっくり立つ。
二人を見る。
悠真。
蓮。
どちらにも、ちゃんと向き合う。
そして、
小さく、でもはっきり言う。
「……ありがとう」
その一言に、
すべてが詰まっていた。
夕方の光が、さらに深くなる。
まだ、答えは出ていない。
でも、間違っていない。
それだけは、わかる。
そして、ここから、
凪の時間が、動き始める。