気づいてたのに、何もしてねえ

気づいてたのに、何もしてねえ

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コラム
夕焼けは、もう少しだけ色を濃くしていた。

帰り道。
住宅街に入ると、
さっきまでの足音が少しだけ響かなくなる。

悠真は、凪の後ろ姿を思い出していた。

あの距離。

ほんの少しなのに、
どうしてあんなに遠く感じたのか。

(……なんでだよ)

歩きながら、何度も考える。

何かしたのか。
何もしてないのか。

わからない。

ただ一つだけ、はっきりしている。

「いつもと違う」
それだけだった。

隣で、陽菜が歩いている。

少しだけ間をあけて。

「ねえ。」
陽菜が声をかける。

悠真は顔を向ける。

「さっきの、気づいてるよね。」

悠真は、少しだけ黙る。

誤魔化そうとして、やめた。

「……ああ。」

短く答える。

陽菜は、少しだけ笑う。

でもその笑顔は、いつもより静かだった。

「凪さ。」

少し間。

「無理してるよ。」

その言葉が、ゆっくり落ちてくる。

悠真の中に。
「……だよな。」

自然に出た言葉だった。

陽菜は、少しだけ安心したようにうなずく。

「たぶんさ。」

空を見上げる。

夕焼けが、少しだけ淡くなってきている。

「言えないんだと思う。」

「……何を。」

悠真が聞く。

陽菜は、少しだけ考える。

それから、やわらかく言った。

「自分の気持ち。」

その言葉に、悠真は何も言えなくなる。

頭の中で、凪の顔が浮かぶ。

笑っていた。

でも。
あの笑顔は、少しだけ違った。

(気づいてたのに)

胸の奥が、少しだけ痛くなる。

(気づいてたのに、何もしてねえ)

足が、止まりそうになる。

でも、止まらない。

陽菜が、ふっと横を見る。

「悠真。」

「ん?」

「ちゃんと見てあげなよ。」

まっすぐな声だった。
「凪のこと。」

悠真は、息を飲む。

「……見てるよ。」
すぐに出た言葉。

でも。
陽菜は首を少しだけ振る。

「ううん。」

やさしく。

「見てる“つもり”じゃなくて。」

少し間。

「ちゃんと。」
その一言が、静かに残る。

悠真は、何も言えない。

言葉が出ない。

でも。
胸の奥で、何かが動く。

小さく。
でも確かに。

そのときだった。

さっきまで見えていた凪の後ろ姿が、
もう見えなくなっていることに気づく。

曲がり角の向こう。

もういない。

悠真は、立ち止まる。

ほんの一瞬。
夕焼けの光が、ゆっくりと夜に変わり始めていた。

(このままじゃ、だめだ)

さっきより、はっきりした思い。

でも。
どう動けばいいのかは、まだわからない。

ただ。
初めて、ちゃんと思う。

(ちゃんと、見ないと)
誰を見ているのか。

何を見ているのか。
逃げずに。

その横で、陽菜が静かに立っている。

何も言わない。

でも。
その存在が、少しだけ背中を押していた。

風が、ゆっくりと吹く。

夕焼けの色が、少しずつ消えていく。

そして。
何かが、静かに始まっていた。
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