……なんかあった?
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コラム
夕焼けが、少しずつ色を深めていた。
校舎の外に出ると、空気が少しだけ冷たくなる。
三人は並んで歩いていた。
でも。
その並び方は、いつもと少し違う。
凪は、ほんの少しだけ前を歩いていた。
悠真は、その背中を見ている。
陽菜は、その二人の間にある距離を感じていた。
足音だけが、静かに続く。
しばらくして、陽菜が口を開いた。
「今日の実験さ、ちょっと難しかったよね。」
明るい声。
いつもの陽菜。
凪は、少しだけ振り向く。
「うん……そうだね。」
笑う。
でも。
やっぱり、どこか遠い。
悠真は、その笑顔を見て、目を細める。
言葉が出てこない。
出そうとして、止まる。
何を言えばいいのか、わからない。
三人でいるのに。
どこか、うまく話せない。
沈黙が、少し長くなる。
そのとき。
凪が、小さく言った。
「わたし、こっちだから。」
分かれ道だった。
いつもの帰り道。
でも。
今日は、その分かれ道が、
少し違って見える。
陽菜が笑う。
「そっか、じゃあまた明日ね。」
「うん。またね。」
凪は、軽く手を振る。
そのまま、歩き出そうとする。
その瞬間。
「凪。」
悠真が呼ぶ。
凪の足が止まる。
振り向く。
夕焼けの光が、横顔を照らす。
悠真は、少しだけ言葉を探してから言った。
「……なんかあった?」
凪は、一瞬だけ目を揺らす。
でも、すぐに笑う。
「なにもないよ。」
やわらかい声。
でも。
その言葉は、少しだけ軽かった。
悠真は、わかってしまう。
なにもないわけがない。
でも。
それ以上、踏み込めない。
言葉が、喉の奥で止まる。
そのとき。
陽菜が、二人を見ていた。
静かに。
何も言わずに。
でも。
確かに感じていた。
「なにもない」じゃないことを。
凪は、少しだけ視線をそらす。
「じゃあ、またね。」
今度こそ歩き出す。
夕焼けの中へ。
一人で。
悠真は、その背中を見つめたまま動かない。
追いかけるべきか。
呼び止めるべきか。
でも。
足が、動かない。
その隣で、陽菜がぽつりと言った。
「悠真。」
悠真は、目を向ける。
陽菜は、少しだけ困ったように笑った。
「凪、無理してるよ。」
その言葉が、静かに落ちる。
悠真の胸に。
悠真は、何も言わない。
言えない。
ただ。
夕焼けの中で遠ざかっていく凪を見ていた。
その背中は、
思っていたよりも、ずっと遠かった。
そして初めて思う。
(このままじゃ、だめだ。)
でも。
どうすればいいのかは、まだわからない。
夕焼けだけが、やさしく三人を包んでいた。
それぞれ違う場所で。
違う気持ちのまま。