【行政書士の文書術】内容証明②物損事故・賠償請求

記事
法律・税務・士業全般

1 事例の概要

この内容証明郵便の原稿は、交通事故の中でも比較的類例の多い        【駐車場内での物損】トラブルです。

この例は偶然にも、加害車両が被害車両に接触する瞬間を、被害車両の所有者が目撃していたため、損害の発生とその原因には争いが無く、すぐに警察にも事故の届けを行いましたが、後日になり、加害者が当初約束していた修理費用等の支払いを渋る姿勢を示したため、内容証明での請求通知に至りました。

すぐに調停や訴訟を起こしても、割合早期に決着はしたと思われますが、裁判費用や関連する負担を考慮し、当事者間での任意解決を目指したケースです。

2 請求の文案

                          令和〇年〇月〇〇日
           交通事故の損害賠償請求通知書
被通知人 住所 ***************
     氏名 ** ** 殿
通 知 人 住所 ===============
     氏名 == ==  

行政書士法第一条の二及び第一条の三に基づく本状代理人行政書士 氏 名
冠省 上記当事者間にかかる頭書のことについて,被通知人(以下「貴殿」といいます)は,下記の交通事故(以下「本件事故」といいます)において貴殿車両が***を***する際に,貴殿車両の運転席のドアを,通知人(以下「私」といいます)の車両の****に衝突させ,私の車両の****部分に損傷を負わせました。          
                記
事故発生日    ###年 ##月 ##日
事故発生場所   ###市 ####町 ####番地  駐車場内
貴殿運転自動車  ########(ナンバー ########-##)
事故証明警察署  ##県警##署(事故照会番号 ##署 第####号)
本件事故は,貴殿の*****時の過失により発生したものです。私は,本件事故で生じた損害のため,車両の***部分の修理費用と,修理期間中の代車の使用にかかる支出を余儀なくされました。その結果,以下のとおり,合計金======円の損害が発生しております。

       1 **修理費用   ======円
       2 レンタカー費用  =====円

私は本書面をもって貴殿に対し,不法行為に基づく損害賠償として,上記損害金計======円についてのお支払いを請求します。つきましては,本書面の到着後10日間以内に,上記金額を以下の私名義銀行口座に宛て,振り込む方法にて,お支払い頂くようお願いします。
なお万が一,上記期間内に全額をお支払い頂けない場合は,調停,民事訴訟による強制執行や刑事告訴など,より厳格な法的措置をとらざるを得ないと考えておりますので,ご承知おきくださるようお願いします。草々

金融機関 株式会社===銀行  店番===  店名===
預金種目 普通預金 口座番号======= 口座名義=== ===

3 文案の意図

 このケースの加害者は、事故当日の警察の実況検分の際や、事故届の提出時には自分の非を認め、賠償の意思を示していました。ところが、後日になり、被害者が修理会社の見積を提出するなどをした際に、突然態度を豹変させて、支払い義務を否認する意思を示しました

 加害者は壮年といえる年齢で、かつ社会的に名の通った会社に相応の地位で勤務していることがわかっていましたので、修理費用が支払えないほどには、生活に困窮していたわけでもありませんでした。

 被害者は、こうした立場にある加害者が、過失を認めた事故時の態度を急変させ、高圧的な態度で損害の賠償を逃れる方便に傾斜したことに困惑し、また怒り、最終的には少額訴訟なども辞さない覚悟を抱きました。

 こうした背景から、内容証明では、すでに当事者同士で把握し合っており、または警察の調べの済んでいる事故の詳細などの前提状況については、長々と説明することはせず『①損害の発生、②その原因、③賠償義務の所在』の3点のみを明確に伝え『④賠償請求をする意志、⑤法的手続きの準備』について、強く主張する形式をとりました。

4 請求上のポイント

 このケースは、人身事故のように損害額の確定に時間を要するものでなく、十数万円の原状回復費用(修理代)以外の費用、例えば治療費や慰謝料、示談金などが争われたトラブルでもないため、訴訟などのコストを考慮した結果、内容証明郵便での警告および請求が非常に適応した事案です。

 二つあるポイントの1つ目は、損害額が十数万円と、加害者側も損害保険の利用を躊躇する金額であった点です。仮に、加害者が損保の使用を選択したうえ、弁護士特約などが利用された場合、保険会社の調査、事実の認定や交渉に時間を要し、賠償までにより時間を取られる可能性もありました。

 2つ目は、加害者が、社会的に相当の企業で管理的地位にあったことです。紛争が裁判に至った場合、勤務先会社がトラブルを知りえる可能性もあるため、特に定年退職も近いと思われた加害者には、裁判等の法的措置の予告は、歩み寄りを促すうえで有効と考えられ、このような構成となりました。

5 請求後の顛末

 結果的に、内容証明の発送後、加害者から被害者に対し、修理代の支払いが円滑に行われることなりました。

 もちろん、この背景には、被害者自身が事故を目撃していたこと、事故後、直ちに警察の実況検分を求めて、事故届出も済ませていたことや、修理会社の費用見積もりを事故後すみやかに提出していたことなど、被害者自身の対応の適切さが大きく寄与しています

 一般に、事故による賠償の請求は、損害の責任の有無や、賠償額や慰謝料の妥当性などが争われ、交渉も長期化する場合も少なくありません。また、事故直後は、罪悪の念から口頭で過失や自身の非を認めた加害者が、後日、冷静になり、また、実際の請求額などを確認することで、責任の否認に転じることも少なくありません

 このような場合には、すぐに訴訟を起こすことも不可能ではありませんが、ある程度の証拠物があるときは『訴訟を予告』して内容証明郵便で請求することで、新たな動きをもたらせる場合も非常に多くあります。

 責任を否認する事故加害者にも、通常一定の良心はあり、もちろん、加害の意識、自覚や罪悪感もあり、また裁判を起こされることにはデメリットも多くありますので、事故または事件のケースに応じ、請求相手の事情、背景や心理なども十分に考察して文案を検討することが大切なポイントとなります。

ご参考いただけますと幸いです。
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(このブログは事実に基づきますが、法律専門職の守秘義務に反しない範囲で、個人情報については目隠しをさせていただき、関係者が特定されないように事件の概要は編集しております。)

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