アウグストゥス 第十七話 最終話

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コラム
なかなか最後の一手が思いつかない二人。
お互いに「アウグストゥス」のどの部分が好きか、どういう時に読むのか、ということを話し合いました。その後、そもそも「どうしてこの本を手にしたのか」という話にまで遡りました。

挿絵の女の子は子どもの頃のことを話しました。
きっかけは、読書感想文でした。ヘッセの「車輪の下」が課題図書でしたが、本を読むのがあまり好きでなかったので、どうしても読めなかった。そこで、同じ作家のものでもっと短い作品はないかと探し「メルヒェン」を手に取った。短編がいくつか収録してあり、一番最初の「アウグストゥス」で感想文を書こうと読み始めたのでした。

読んでみたら、それは絵本ではなかったのにも関わらず、女の子の頭の中にははっきりとその場面が立体映像のように浮かび上がってくるのです。夢中になって読み、その印象を読書感想文に書いた。それが先生にとても褒められた上に、そのイメージを絵に描いたものが、コンクールに出品され、賞をもらったのでした。それ以来、絵を描くのが好きになった。そういう記憶もありこの物語は特別なのでした。

翻訳担当の女の子も自分の思い出を語ります。
父と母が離婚することになり、父の実家で祖父母に預けられていた時のことです。
ある日、学校から帰ると机の上に「メルヒェン」が置かれていました。
寂しい気持ちや不安な気持ち、色々あってふさぎ込んでいましたが、読み進めると夢中になってしまいました。
「メルヒェン」の中には別の作品も載っていましたが、「アウグストゥス」が一番好きでした。

「あの時、机の上に本を置いてくれたのって死んだおばあちゃんだったのかなぁ」と、女の子は言いました。
すると、おせんべいを焼いていたおじいちゃんがぐるりと振り向き「あれは、お前の母親が置いていった本だ」と言いました。
初耳だったので、女の子はびっくりしました。

おじいちゃんの話によると、離婚が決まり、母親は遠くの出身地に帰ることになった。それで、娘を引き取りたいと申し出てきたが、おじいちゃんとおばあちゃんはそれを断ったのでした。

「経済的にも不安があったし、向こうは方言もあるし、何より・・・再婚するのに支障になるんじゃないかと・・・」
母は、別の好きな人がいたので、離婚することになったのでした。

顔を合わせると、離れがたくなってしまうからと学校に行っている間に帰ってしまった、だけど、せめてこれだけはと本を置いていったということでした。

その後母親とは手紙やメッセージでのやり取り、年に一回会うか会わないかという関係、母親のいる都市は遠かったのでした。
大人になってからは、やり取りも少なくなり、ここ数年はほとんど会うこともなくなっていました。

女の子は久しぶりに母親に会いに行くことにしました。
どうしてヘッセの「メルヒェン」を置いて行ったのか、聞きたかったのでした。

久しぶりの母娘の再会、女の子は今頑張っているプロジェクトの話をしました。
「あの本、お母さんが置いていってくれたんだってこの間初めて知ったんだ」と打ち明けました。

母は、「どんな状況になっても、どんなことがあったとしても・・・この本があれば、絶対大丈夫だと信じてた」と強く言いました。

「ねぇ、お母さん。この母親の願い、どういう言葉にしたらいいと思う?」と女の子は聞きました。母親は「そうねぇ」と言いながら微笑みました。

挿絵の女の子は、今まで描いた挿絵を見直していました。
子どもの頃の話をしたことで、初めて読んだ時の記憶を手繰り寄せようとしました。
あの時は、まだ子供で色々知らないこともたくさんあり、映像も単純なものだったかもしれません。
ですが、もしかしたらいっそのこと、その単純な映像のままに描いた方がいいのではないか、という気がしてきました。
子どもの時の感動のままに、絵を描いてみよう、と決心しました。

最初の場面から全部、構図から何から何まで変えてしまいました。
そうすると、だんだん、頭の中がスッキリしてきて、自然と最後の場面の挿絵が思い浮かびました。

そのアイデアを元ドイツ語講師に話しました。
元ドイツ語講師は「あぁ、なるほど、それは面白いね。最後の最後でそんな絵だったら、読んだ人たちの心に残るはずだね」と賛成してくれました。

翻訳担当の女の子も母親の願いの言葉を決めました。
ある日、みんなでおせんべい屋さんに集合し、その発表をしようということになりました。
挿絵の女の子も、その日に合わせて最後の場面の挿絵を完成させました。

まずは、翻訳の女の子が「母親の願いの訳が確定しました!」と発表します。
みんなは、「ふーん・・・」という顔をしていました。
女の子はその部分を朗読しました。
「あぁ、なるほど、そうか・・・母親はとっさに慌てて早口で願い事をしちゃったんだもんね」と納得したようでした。

そして、挿絵の女の子が「最後の場面、仕上がりました」と絵をみんなに見せました。
みんな、黙っています。誰も何も言いませんでした。

おもむろに、元ホストが立ち上がり、楽器を取り出しました。
そして、今まで聞いたことのないような曲を演奏しました。

最後の場面の絵にピッタリな曲でした。優しくて、親しみやすいのに、どことなく神々しいような、心の柔らかいところをふわっと撫でられるような気がする、そんな曲でした。

曲が終わっても、みんなの耳にはまだ音楽が繰り返し繰り返し、鳴っているような気がしました。

元ドイツ語講師は、その日の帰り道、決心しました。
ヘッセについて、もう一度、論文を書こうと。
そして、ずっと自分の研究を続けようと。

おわり

メルヒェンの国では、ドラマはリアルで現在進行中♡ 
これからどんな素敵な奇跡や出会いがあるのでしょうか。
「アウグストゥス」絵本、完成が楽しみです!

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