「ワトソン君、君は・・・・怪奇(グロテスク)という言葉をどう定義するね?」
シャーロック・ホームズの短編「ウィステリア荘」の始まりの部分はこんな感じです。
ワトソン博士は「不思議(ストレンジ)とか、世の常ならぬ(リマーカブル)とか……」と答えるのですが、ホームズは「それ以上の意味が含まれている」と一蹴します。
ホームズは、グロテスクという言葉にもっと悲劇的で恐ろしいものがその奥に隠されている言葉だと言います。
私は「グロテスク」という言葉を聞くと、岸部露伴(ジョジョ第四部「ダイヤモンドは砕けない」参照)を思い浮かべます。
私にとって、グロテスクとはあんな感じです。
不思議・世の常ならぬ、悲劇的で恐ろしいものの予感。すべてを岸部露伴は備えています。
その次にホームズはこうも言います。
「怪奇がこうじてしばしば犯罪に発展しているのか分かるだろう」と。
犯罪のあるところすべてがグロテスクというわけではないけれど、グロテスクな場所は犯罪現場になりやすいということはあるのではないかという気がします。
先日、ドイツの知り合いが、あの有名な世界的観光名所「ノイシュヴァンシュタイン城」に行ったそうです。
その人は、ドイツに何年も滞在しているものの、あのシンデレラ城のモデルになった有名なお城には行ったことがなかったそうです。
私は一回だけあります。
有名な観光スポットですが、行きにくいんですよね。
ミュンヘンからは電車で二時間くらいでしょうか。フュッセンという都市まで電車で行き、その後はバスかタクシー。徒歩ではキツイ。
ミュンヘンから観光ツアーバスが出ていますので、ドイツ旅行の際は、オプショナルツアーに参加した方が、面倒がなくていいかもしれません。それに乗って1-2時間くらいでしょうか、観光シーズン・休暇シーズンだと確実に渋滞にはまるので、もっとかかるかもしれません。
そのつもりで準備しておけば、ドイツでレンタカーを借りるという手もありますね。私は運転に自信がないのでドイツで車に乗ろうと思ったことがありません。
そして、なんかドイツっぽいテキトーなお土産が買いたいなら、ここで買っておくことをお勧めします。絵皿とか、ドイツ語メッセージ入りプレートとかマグカップ、冷蔵庫用マグネット、ちょっとアホっぽいドイツグッズなどなど、何軒もお土産屋さんがありますので、ぱぱっと買っておくと便利です。
ミュージアムショップに行きますと、ちょっとお高めでプレゼントにちょうどいいもの、羽ペンとインクのセットとか、陶器でできた白鳥とか置物とかルードヴッヒ二世グッズ、エリザベートグッズ・・・、そういうのも売ってます。
大都市などで買う方が、色々選べていいかもと思いますが、よっぽどこだわりがなければ、ここで買っておきましょう。
案外ベタなアホアホ観光お土産屋さんってどこにでもあるようで、案外ないですよね・・・。大都市滞在中にお土産探すと、選び疲れて「もうなんでもいい・・・」ってピンこないものを買ってしまったり、値段も高いし、あとで「あそこで買っておけばよかったぁぁぁ」と帰国後に後悔することになります。おじ・おば・姪っ子・甥っ子用のテキトー土産は、ここで買った方がラク。
話を戻しましょう。
何がグロテスクかと言ったら、その知り合いは「ノイシュヴァンシュタイン城ってグロテスクですよね」と表現したのです。
私がノイシュヴァンシュタイン城に行った時の第一印象は・・・「ここは、ヒキコモリ専用の城か?」でした。
というのも、切り立った山の中腹に城がデデンとあるわけですが、お城としての機能がまったく感じられないのですね。
ヨーロッパのお城で、山の上にあるお城は、古い城。
新しいお城は、都市部、平地にあります。
古い城ほど、雰囲気はあるけど行くのがめんどくさい。
古城めぐりをしたい方は、足腰が元気なうちにどうぞ。
昔は、小競り合いとか戦だのが多かったじゃないですか。特にドイツは戦場になることが多かったです。それでお城は山の上の方、攻めにくい場所に建築されるのです。
ですが、近代、平和な時代になりますと、お城の役割というのは、「接待用」「迎賓館」となりますので、平地、移動が楽な場所に建築されるのですね。
さらに、このノイシュヴァンシュタイン城、通常のお城にあるものがない。あるはずのものがない。お庭です。庭園がないんですよね!!
バラのアーチ、噴水といった、お城にありがちな自然を模したデザイン性の高い庭園がないんです。
つまり、ノイシュヴァンシュタイン城は、山の中腹、切り立った場所、馬車で入城するのもけっこうしんどそうな場所にあるが、攻め込まれることを想定して建てられたわけではない。
で、迎賓館的な役割を果たす気もない。
周りは山、馬に乗って狩猟するとか、王族、貴族のお遊びに適したバカンス用のお城でもないのです。
一週間くらいこもってゲームするわ、俺・・・っていう人にはぴったりのお城です!!
この中身と外見の不一致さが、彼女にとって「グロテスク」と映ったというのです。健全さが感じられず、外見の壮麗さが逆にグロテスクと感じさせてしまった、というわけです。
私も彼女の意見、よく理解できます。
ノイシュヴァンシュタイン城の建築にまつわる話、歴史的背景などからも、その「不健全さ」は理解できます。
ご興味のある方はルードヴィヒ二世について調べてみてくださいね。
グロテスクという言葉自体が、グロテスクで、分野によって指すものが違う。
美術、建築、文学、日常的に使われる「グロ」で指すものが違うのです。
ホームズが解釈している意味でのグロテスクは文学的領域の「グロテスク」です。
このノイシュヴァンシュタイン城の文学的意味におけるグロテスクさを際立たせるのが、殺人事件です。
2023年6月ですから、コロナ明けすぐ、観光客が戻り始めたころ、ちょうど一年くらい前になりますね。
アメリカから観光に来ていた二十代の女性二人が谷に突き落とされ、一人が死亡、もう一人は大けがを負いました。
ノイシュヴァンシュタイン城観光で有名なマリエン橋、絶好の撮影スポットを目指し、山をハイキングしていたところ、同じアメリカ人の男性が声をかけてきた。
この男、最初から暴行目的だったようです。
マリエン橋近くで、その男は女性一人に襲い掛かります。それを止めようとしたもう一人の女性を谷に突き落とす。そして、女性を暴行、そこへ通りがかった人がいたらしく、男は女性を突き落とし、逃げた。
やっとコロナが明け、旅行ができるようになって、みんなが開放的な気持ちになっていたところです。
しかも暴行目的です。
そして、世界的にあまりにも有名な観光地、絶景ポイントであるマリエン橋の近くです。
あまりにもあらゆるものが「ちぐはぐ」で、統一感がなく、支離滅裂で、まとまりもなく・・・そして残虐。
全方位でグロテスクな事件だと思ったわけです。
つい先日、この事件の裁判が行われ、刑が確定。
この男は終身刑だそうです。
ルードヴィヒ二世の運命、そしてエリザベートの悲劇、ディズニーランド、シンデレラ城のモデルというだけでも十分にグロテスクなのに、そして、この殺人事件。
私にとってただの「ヒキコモリ城」だったものが、どんどんグロテスクに変質していくのでした。
空虚で、退廃的。現実逃避のおとぎ話の中で起こるレイプ目的の殺人事件。
多分、私もう一生ノイシュヴァンシュタイン城にはいかない・・・。経済的にも無理ですけど・・・。
これからノイシュヴァンシュタイン城に行く予定の方は、道中くれぐれもお気を付けください。
マリエン橋は、かなり切り立った場所にあり、下は谷、結構怖いです。高所恐怖症の方は「む、無理・・・せっかくここまで来たけど、無理!」と怖気づいてしまうレベルで無理です。
マジで怖いんです!!しかも、橋は板張りですし、所々キシみがあったりするし、板の間から下見えちゃったりするし、そもそもでそんなに幅の広い橋じゃないのに、観光客が写真を撮るためにひしめいている。それも、一番絶好の写真が撮れるポイントあたりで人が入れ代わり立ち代わりで写真撮るので混雑しており、余計に怖い。今はどうなっているのか知りませんが、私が行った当時は割とそんな感じで怖かったです!
ふもとからノイシュヴァンシュタイン城に行くには3つのルートがあります。一つは徒歩。緩やかな坂道を上ります。山登り感はないので、普通の服装、靴で大丈夫です。その道を馬車で登ることもできます。
そして、バスは別ルート、バス専用道路を通ります。バスは、ちょうどマリエン橋の近くで降りれます。
徒歩でマリエン橋に行くには、また別のルートがあります。こちらは、ハイキングコースですね。靴も歩きやすいウォーキングシューズの方が安全です。マリエン橋からノイシュヴァンシュタイン城までは、緩やかな下り坂、その途中にマリエン橋以外の撮影スポットもありますから、体力のある方はこのコースにチャレンジしてみて!