気楽に読んでください、呼吸のおはなし ~その63~

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今日もお読みくださいまして誠にありがとうございます。
昨日ご紹介した第七頸椎を上から抑えてもらう方法は、もしもお一人で似たような効果を得られたい場合には、例えば、長めのマフラーとか、欲を言えばトレーニング用のチューブでも平たい帯状の物、そういった物を首の後ろ側から掛けて、両手で下方へと引き下げながらやると効果的です。
よく、「もっとお腹から声を出せ」とか無責任な言葉を投げつける人がありますが、確かにこれまでにご紹介したような形で声が出ていると、腹から声が出ているとも言える感覚は得られます。
しかしそれは、突然言われて突然出来てしまうような単純なことではありません。そんな指導を急に受けたら随意筋の働く範疇で腹筋辺りにギュッと力を込めてしまうのが関の山で、自意識が脱落することで普段の体の使い様と交代で現れる別仕立ての作用からは、焦りが焦りを呼んで更にかけ離れてしまうことでしょう。
指導するとは命令することでは無くて、そのように出来るようになる方法を説明して時にはやっても見せて、導いてあげることですから。
そして今日は、" A " の母音の説明です。この " A " は、「あ」とか「ア」って書いても差し支えないように僕には思えます。
母音 O を出し始めた時、お腹の真ん中辺り、お臍を中心としたエリアを触りながら出したと思います。
今度はその O を発したままで、お腹でももう少し上、お臍と鳩尾の中間辺りに両手を置きます。
その両手を、外から見ると動かしているとは分からない位のサイズで小さく丸く擦ってみても構いません。
体が反応して、遅かれ早かれ発している音はいつの間にか " A " に変わっていることと思います。
これまでに体験して来ました U - O - A の順番は、そのまま音の暗い方から段々と明るい響きへと進んでいるのがお分かり頂けているでしょうか。
A の音では喉の奥行に加えて左右への広がり感も加味されて、口の中の空間も丸く広くなっている筈です。
大事なのは、構音と称して意図的にそのような形から入るのでは無く、しっかりと体の深い処から立ち昇って来る感覚的オーダーを素直に受け入れる柔らかなシステムによって音が成立するということです。
ここまで熱心にやって来られ皆さんは、ちょっと遊んでみましょう。
この三種類の母音を、一息でグラデーションの様に変化させてみるのです。
骨盤も背中も一旦緩めたなら姿勢の再構築が始まるのでしたよね。
その時に出て行く呼気に乗せて、「U~~O~~A~~~~」とノンブレスで滑らかな音の変化を楽しみます。
勿論、その都度ご説明した体の触るエリアも移動させながら、口腔内部の形状と音の推移をよく味わってください。
この母音の変化では、まるで油の層の底から気泡がゆっくりと浮上して来るような滑らかで柔らかな変化をイメージ出来るでしょう。
慣れてきたら A から逆行したり、ランダムに二つの音の組み合わせで変化させたりもしてみてください。
ひと昔前のイメージのコンピューターやロボットの話っぷりとは正反対の、人間らしい各音の繋がりが温かみとして感じられて来るでしょう。
外国の歌手が適当にローマ字でルビを振った日本語の歌を、ろくに練習もせずに歌って、勿論意味も分からずに歌っているのに日本人の歌手より上手く歌っちゃう場面に出くわすことは結構よくあります。
理屈抜きに、音の深さや、音の繋がり、流れが美しいからそう聞こえてしまうのですが、その理由もこの母音の変化への気付きで理解されて来ます。
そしてこのような音の流麗さは何も歌だけでは無くて、話し言葉の美しい響きにも当然の様に影響します。
僕の考えではこのような地味な取り組み以外に " 発声練習 " などというものは不必要で、場合によってはそれらは害にすらなる、やらない方が良いとさえ思っています。
それで実際のところこのような地味な取り組みを知らない世界、地味では無い " 訓練 " で声を " 鍛えている " 人々にはどのように評価されるのかを、素性を隠してオーディションを受けるという形で試しに行ったことがあります。
結果は、「あなたの声は私達プロの舞台人と同じ、よく訓練された声だけれども、何かやってるんですか?」と聞いて来てくれました。
その時の審査員は、睦五郎さん、誠直也さんという、僕はテレビでもよく拝見する俳優さん方でした。
その時は、これも発声や滑舌の訓練でよく使われる『外郎売』という素材の一部を呼んだのですが、そんなものを真面目に声に出して読んだのは初めてでしたので、いつも自分が心掛けていて人様にも推奨している声の捉え方が、ちゃんと世間一般にも通用し認めてもらえることが分かって嬉しかったのを覚えています。
ただ、生憎 " 訓練 " などはしてないのですけど。
声は鍛えたり訓練したりとは無縁の世界で自由に芽を伸ばしてあげるのが一番です。
A の音ではあんまり説明も何もありませんので、へんな自慢話を差し挟んでしまいました。
どうか不快な思いをされませんように、それだけを祈っております。
明日までに更に A 音に関する追加事項を思い付かなければ、すぐに “ E ” の音へと進みたいと思います。
 この “ E ” と、その次の “ I ” は、これはまた面白いですよ。

つづく
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