秤(はかり)の上のSOS ――うつ病の薬と、カレン・カーペンターの遺したもの

秤(はかり)の上のSOS ――うつ病の薬と、カレン・カーペンターの遺したもの

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コラム
 「うつ病の薬を飲むと太る」という、都市伝説のような話を耳にしたことはないでしょうか。
 私、蒼俊は、この言葉を信じて自分の判断で服薬をやめてしまい、かえって症状を悪化させてしまった方をしばしば見かけます。
 確かに、一部の向精神薬には副作用や病状の回復に伴って体重が増えやすくなるものがあります。たとえば、三環系などの一部の抗うつ薬、そしてバルプロ酸などの気分安定薬は、食欲を高めたり代謝を緩やかにしたりする特徴を持っています。

 しかし、すべての薬で必ず太るわけではありません。体重増加の背景には、薬による食欲の増加や代謝の低下、眠気による活動量の減少だけでなく、「治療によって本来の健やかな食欲が戻ってきた」という前向きな理由も含まれているのです。

 少し視点を変えて、うつ病という病気そのものについて考えてみましょう。
 うつ病とは、いわば「脳がSOSを出している状態」です。体が鉛のように重くなり、思うように動けなくなることも少なくありません。
 活動量が減れば、当然ながら基礎代謝も落ちていきます。
 そう考えると、動けない時期に体重が増えるのは、むしろ身体の防衛反応として正常なことだと言えるのではないでしょうか。

 もし、薬の副作用が「過食」ではなく、食事を受け付けなくなる「拒食」の方向へ働いてしまったら、事態はより深刻です。

 神経性やせ症(拒食症)は、「最も死に近い精神疾患」の一つとも言われており、うつ症状を合併することも多い非常に繊細な病気です。
 その恐ろしさを世界に知らしめた代表的な例が、アメリカの伝説的なデュオ「カーペンターズ」の歌姫、カレン・カーペンターでした。
 世界的な成功を収めた彼女は、1980年代初頭に過度なダイエットをきっかけに重度の拒食症を発症します。
 長年の闘病によって心臓(血管)には大きな負担がかかっていました。
 そして1983年、皮肉にも体重を回復させる治療の最中に、急性心不全のため32歳という若さでこの世を去ったのです。

 心の病と向き合うとき、体重の変化に心が揺れるのはごく自然なことです。
 しかし、「体重が増えるから」と命を危険にさらし、健やかな日々を遠ざける行動は絶対に避けなければなりません。
 決して、自己判断で薬を止めるのではなく、主治医と相談しながら一歩ずつ進んでいくことが何よりも大切です。

 うつが回復し、軽度の運動からリハビリを始め、主治医と薬に相談しながら、やせればいいのです。
 「痩せなければならない」と「うつを生きる」は、圧倒的に後者の方が優先なのですから。

                          沙門蒼俊  合掌
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