心の回復と、からだの輪郭――精神科のお薬で太ってしまうあなたへ

心の回復と、からだの輪郭――精神科のお薬で太ってしまうあなたへ

記事
コラム
1. ヒスタミンの遮断と食欲のスイッチ

 多くの向精神薬には、脳内の「ヒスタミンH₁受容体」という部分をブロックする作用があります。
 本来、ヒスタミンは脳の中で「今は満腹だから、もう食べなくて大丈夫」というサインを出す、いわば食欲のブレーキ役を果たしています。しかし、お薬によってこのヒスタミンの働きが抑えられてしまうと、ブレーキが効かなくなり、強力な食欲増進スイッチが入ってしまいます。
 さらに、ヒスタミンが遮断されると心地よい眠気や強い倦怠感が生じやすくなるため、日中の活動量が自然と落ち、消費エネルギーそのものが減ってしまうことも体重増加に拍車をかけます。

2. セロトニン受容体の変化と消えない空腹感

 「幸せホルモン」として知られるセロトニンですが、これにはいくつかの種類(受容体)が存在します。
 うつ病の治療においてセロトニンを増やすことは非常に重要ですが、お薬が「セロトニン受容体」の一部などをブロックしてしまうと、脳が満腹感を感じにくくなってしまいます。
 しっかりと食事を摂ったはずなのに、なぜか物足りない、すぐにまた何かが食べたくなってしまう。このような「脳が騙されている状態」の空腹感は、個人の意志の力だけで我慢できるものではありません。

3. インスリン抵抗性の発生と脂肪の蓄積

 特に非定型抗精神病薬などに見られる現象として、からだの代謝システムそのものを変化させてしまう「インスリン抵抗性」の誘発が挙げられます。
 インスリンとは、血液中の糖分をエネルギーに変えるために細胞へと送り込む、とても大切なホルモンです。
 しかしお薬の影響でこのインスリンの効き目が悪く(抵抗性が高く)なると、血糖値が下がりにくくなります。
 するとからだは「もっとインスリンを出さなければ」と過剰に分泌を始め、結果として血中の糖分を脂肪としてため込みやすい体質へと導いてしまうのです。

朝の来ない夜がないように

 このように、お薬による体型の変化は、化学的なメカニズムによって引き起こされる不可避な側面を持っています。
 だからこそ、「食べてしまった」と自分を責める必要はどこにもありません。
 大切なのは、これらの変化は「心が深く傷つき、エネルギーを必要としている時期を乗り越えるためのプロセス」であると捉えることです。
 心が元気を取り戻し、病気が緩解へと向かえば、主治医と相談しながらお薬の種類を減らしたり、代謝を正常に戻すアプローチへと切り替えたりしていくことが十分に可能です。
 今のからだの変化は、あなたが生きるために、心が回復するために必要なステップを踏んでいる証拠でもあります。どうか焦らず、その繊細な葛藤も含めて、主治医の先生や周りの医療スタッフに打ち明けてみてください。

                           沙門蒼俊  合掌
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