「病気を抱えながらも、自分らしく働き続けること」
それはかつて、そう簡単なことではありませんでした。
例えば「療養・就労両立支援指導料(両立支援算定)」という仕組みも、以前は、がん患者の方だけを対象としたものだったのです。
しかし時代は変わり、今ではうつ病などのメンタルヘルス不調を抱える人が休職の大半を占め、働きながら治すための大切な光となっています。
かつては、復職に当たり、産業医と精神科医(主治医)の連携、つまり診療情報提供書などのやり取りは実質的に無料で行われていました。
しかし、この「両立支援算定」や「相談支援加算」が設けられたことで、大きな変化が生まれています。書式が統一されたことにより、ただのお薬の処方だけに終始するような「お薬外来」は減らしていくべきだという方向性が明確になりました。
そして、より正確な病状や「その人が今、責任を持ってできる仕事」の範囲が、医療機関と企業の間で相互に、責任を持って共有されるようになったのです。
確かに、書類の準備など患者本人にかかる負担は少なからずあります。
それでも、こうした確かな連携の仕組みがあるからこそ、うつを再発させない強固な体制を作ることができるのだと感じます。
この両立支援の具体的な流れは、ひとつの丁寧なリレーのようです。
まずは患者自身が、勤務先と作成・確認した「勤務情報提供書」や「両立支援カード」を主治医に提出します。
主治医はその勤務情報をもとに、仕事上の注意点を本人へしっかりと指導します。
その上で、主治医が「主治医意見書」を作成し、勤務先の産業医や保健師へとバトンを繋ぐように情報を提供するのです。
こうしたサポートを受けながら、うつ病からの復職を成功させるために、何よりも胸に刻んでおきたいことがあります。
それは、
「焦らずに段階を踏むこと」
そして
「完璧を目指さず、まずは出社し続けること」
です。心身を回復させ、生活リズムを整え、職場との連携をひとつずつクリアしていくことこそが、再発を防ぐ唯一の鍵となります。
決して自分だけの判断で復職を急いではいけません。復職に向けて動く際は、必ず次のようなステップを丁寧に踏んでいきましょう。
まずは主治医の判断を仰ぎ、必ず「復職可能」の診断書をもらうこと。
次に、人事や上司と事前に話し合い、復職後の働き方について丁寧なすり合わせをすること。
そして、社内の産業医との面談を通じて、現在の状態と業務内容の適性を客観的に評価してもらうことです。
忘れてはならないのは、「復職はゴールではなく、スタートである」ということです。復職直後は、自分のエネルギーをあえて抑えて動くコントロールが求められます。
最初は週3日や半日勤務などの「短時間勤務」から、慣らし運転のように始めましょう。
残業は原則禁止とし、責任の重い仕事や新しいタスクは避けて「業務量をセーブする」ことも不可欠です。
そして、もし体調が悪いときは無理をせず、周囲に自分の調子を「開示」できるルールを事前に決めておくこと。
患者本人、人事、上司、産業医、そして主治医。関わるすべての人が手を取り合い、一歩ずつ進んでいくこと。
それこそが、病気と共に生き、共に働くこれからの社会における、最も優しく、最も確実な道なのだと思います。
沙門蒼俊 合掌