前回の記事はこちら↓
…とはいえ、こう反論する人もいます。
「教科書なんて基本的な内容だけで、難問なんて載ってないわけで、
それじゃ難関大合格は無理でしょ?」
…果たして本当にそうでしょうか?
ちなみに、私の友人で東大に現役合格した人は「教科書と市販の問題集をやっただけで受かった」と言っていました。
(もちろん本人もきっちり努力したのでしょうけど)
実は、大学入試は「教科書以外の範囲から出してはいけない」のです。
文科省がそういう風に監督しているから。
東大の入試でも、です。
私は、とある大学の入試問題(数学・物理・化学)の作成業務に、数年間携わったことがあります。
教科書に載っていない内容は出すな!という文科省からのお達しがあったので
かなり気をつかって作業しなくてはなりませんでした。
化学の問題だったら、物質名1つ出すだけでも
「これって教科書に載ってるのかな(ペラペラ…)」と調べるわけです。
(おかげで教科書を隅から隅まで読むことになったので、私にとっても勉強になりました 笑)
もし入試で、教科書に載っていないようなマニアックな物質が出てきたとしても…
その問題は必ず「教科書に書いてある原理・原則から類推できる」ように作られているはずです!
何らかの誘導がついていたり、問題文中にヒントが書かれているとか。
ですから、化学の教科書を読むときは、
単に知識を入れるためだけではなく
その陰に隠れた「原理・原則」も読み取れるよう努力してみましょう。
1つ、具体的な例を挙げてみます。
※化学をやっていない方は読み飛ばして構いません。
水(H2O)の沸点が、硫化水素(H2S)などの16族の水素化合物の中で際立って高いのは、
①酸素の電気陰性度と水素の電気陰性度の差が大きいために酸素-水素の結合で電子の偏りが起きている
②H2Oの分子の形がV字形をしている
→①②によって水分子に極性が生じて、分子間に水素結合が形成される
なので、水の沸点は高い(分子同士が引っ張りあっているので、気化するのがタイヘン)。
これって有名な話ですよね?
ところが、、、
「ジメチルエーテルとエタノールの沸点、どちらが高いのか」を丸暗記しちゃっている人がいます。
この人は、先ほどのH2Oの話題から何も「原理」を学べていないことになります。
ジメチルエーテルとエタノールは構造異性体であり、どちらも分子式はC2H6O、分子量は同じ46です。
分子量が同じなのに、なぜ沸点に差が出るのか?
それはまさに、-OH(ヒドロキシ基)があるかないかに関係していますよね。
メタノールは R-(アルキル基)-OH で表されるアルコールの一種で、
メタノールの場合はR- の部分が C2H5- です。
でも、R- が H- だったら、これって水ですよね?
(つまり、乱暴な言い方をすれば水だって炭素数ゼロのアルコールの仲間
という解釈もできます)
何が言いたいかというと、
アルコール(特に炭素数が少ないアルコールの場合)は、水と同じように水素結合が生じる
ということ。
水のようにO-H結合が2つあるわけではないので、そこまで強力ではないですが、1つあるだけでもそれなりの影響力はあるはず。
それに対して、エーテルはどうでしょう?
エーテルの構造は R-O-R のように、酸素原子がアルキル基に挟まれており、水素と直接結合できていません。
なので、分子間で水素結合が起きるはずがありませんよね?
…というわけで「エタノールの方が、ジメチルエーテルより沸点が高い」となります。
このように原理を理解していれば、暗記量が減らせるわけです。
で、その原理は教科書に書いてある!ということ。
でした。
「暗記するな」と言っているわけではないですからね。
誤解しないでください。
受験生なら、化学の教科書に載っている知識くらい、もちろんきちんと頭に入れてください(いや、教科書だけでも相当な知識量ですけど…)。
色々な知識がきっちりコンパクトにまとまっているのが、教科書。
難しい参考書に取り組むとか、マニアックな知識を入れるとかも結構ですが、
それは、教科書が済んでからやること。
プライオリティは「教科書をマスターすること」の方が断然上です。
で、難関大の試験には、表面的な暗記だけで点を取れる問題は少なくて
(それじゃ点数に差がつかなくて困るという事情もあるのでしょう)
きちんと「原理」を抽出して学べているか、も試されるんですね〜。
数学だったら、言わずもがな。
知識問題なんて出るはずがない(笑)
自分の頭で思考する教科ですから。
長々とおつきあい、ありがとうございました!
それではまた次の授業で!!